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ジャン・アレチボルトの冒険

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タミフル1万人調査が示すもの

2007-12-26 19:49:21 | 政治
今日の朝日新聞朝刊30面によると、厚生労働省研究班は、タミフルと異常行動との因果関係に関する調査の結果を発表した。

十八歳未満のインフルエンザ患者で、タミフルを服用して異常行動が見られたのは、全体の10%。服用せずに異常行動をしたのは、22%。

この記事を読むと、

タミフルを服用すると、インフルエンザに伴う、異常行動が抑えられるのか?少なくとも、タミフルが異常行動を引き起こすことはなさそうだ

と、一瞬思いがちである。しかし、本当にそれで良いのだろうか?

このデータを解析する際に、重要な要因が一つある。それは、「タミフルは、インフルエンザを治す」という事実である。しかも、この薬は、珍しく、よく効く(笑)。

発表されたデータを使って、「異常行動は、すべてインフルエンザの影響であり、タミフルは、何の影響も与えない」という仮説を、検証してみよう。

例えば、タミフルの服用で、7割の患者が、すぐにインフルエンザが治ってしまったとする。すると、仮に、異常行動が、すべてインフルエンザの影響であるなら、この7割のグループには、ほとんど異常行動が見られないはずである。

一方、治らなかった残り3割の患者では、異常行動が見られる確率は、タミフルを服用しなかった場合と同じ 22% であるはずだ。

従って、「タミフルの影響が全くない」ならば、タミフル服用者の 6.6% (= 0.3 × 22%) が、異常行動を起こす計算になる。タミフルによる治癒効果を考えれば、異常行動の頻度が、服用の場合に下がるのは、不思議なことではない。

そして、調査の結果、服用時の異常行動の割合が、6.6% に近ければ、「タミフルの影響なし」と言える。もし、6.6% より高ければ、7割の治癒グループ、あるいは、3割の治らなかったグループの中に、インフルエンザの影響だけでは説明出来ない数の、異常行動ケースが、存在したことになる。すなわち、「タミフルの影響あり」の可能性が高くなる。

もちろん、この 6.6% という数字は、タミフルの治癒率が7割の場合である。もし、治癒率9割なら、2.2%。治癒率5割なら 11% になる。

タミフルの治癒率が分からないので、タミフル服用の 10% が異常行動、という調査結果から、結論を出すことは出来ない。

しかし、記事の後半に、

対象を10歳以上に限り、飛び降りなど死亡事故につながりかねない異常行動に絞って比較すると、飲んだ場合と飲まない場合のリスクの差ははっきりしなかった

と書かれている。

「リスクの差がはっきりしなかった」という表現が、「タミフルを服用した患者群と、服用しなかった患者群において、死亡事故につながる重度の異常行動の発生率が同じである」ことを意味するならば、この結果から、はっきり言えることがある。それは、タミフルの治癒率がゼロでない限り、重度の異常行動に対するタミフルの影響は、必ずある、ということだ。

タミフルがよく効く薬である、すなわち高い治癒率が期待されることを考えると、相当に大きな影響である可能性が高い。タミフルの治癒率が5割なら、服用時の重度異常行動の発生率は、飲まない場合の2倍。治癒率が7割なら、3.3倍。治癒率9割なら、10倍である。

「重度異常行動へのタミフルの影響は全くない」との結論は、到底出せない数字である。この調査結果は、「密接な因果関係がある」ことを強く示唆している。

加えて、研究班の別の調査によると、十代のタミフル服用の禁止以降、インフルエンザ患者の「飛び降り」「走り出し」などの重度異常行動件数は、三分の一に減ったそうである。

班長である広田良夫大阪市立大学教授が、「因果関係わからず」と発表したのは、かなり慎重な態度であると思う。重度の異常行動に関しては、「因果関係の可能性」に触れても、よかったのではないだろうか。

ただ、十代への使用制限の解除をしなかったのは、正しい判断だと思う。因果関係を示唆するデータが、これだけ出ている。安全宣言は出せない。


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