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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

WBC韓国 ~ プライドの行方

2009-03-26 08:39:21 | Weblog
韓国チームのキム・インシク監督は、決勝戦、10回表二死二、三塁の場面で、

「イチローを歩かせなかったのが敗因」

と語った。

その上で、「きわどいコースを突いて、うまくいかなかったら歩かせる作戦だった」が、「バッテリーに十分伝わらなかった」と悔やんだそうだ。

しかし、イチローがヒットを放ったのは、2ストライク2ボールからである。韓国からみて、歩かせる必要があるほど、不利なカウントではない。

さらに、投手のイム・チャンヨンは、打たれたボール以外、ほとんどストライクは投げていなかった。ボールカウントが増えなかったのは、イチローが、全部カットしたからである。

つまり、バッテリーはベンチの指示を忠実に実行していた。

従って、「伝達ミス」はなかったと見るべきだ。むしろ「捕手を立たせて敬遠せよ」という指示を出さなかったことが、最大の敗因である。

では、それはなぜか?

「今後30年」発言以来、韓国メディアの激しいバッシングを受け続けているイチロー。そのイチローを、はっきりした形で敬遠するのは、彼に屈したと受け取られ、後で何を言われるか分からない。出来れば、敬遠したと見られないようなやり方で、歩かせたい。

そんな気持ちが働いたのかもしれない。

例えば、イチローをストレートに敬遠して、次の中島にタイムリーを打たれたら、韓国メディアは、イチローに脅えて、自ら墓穴を掘ったと、監督の弱腰采配をこぞって非難するだろう。

メディアによる過剰なイチロー・バッシングのために、監督自身が身動き出来なくなり、世界最強の打者と真っ向勝負する結果となって、チームを敗北させてしまった。

その辺が真相に一番近いのだと思う。

プライドや愛国心はもともと悪いものではないと思うが、度が過ぎると、自分をかえって不利な状況に追い込んでしまう。

かつて日本は、海の向こうのアメリカを見て、物量では負けているが、精神力では勝っている、実は、自分たちの方が優れているのだと信じ込んで、勝ち目のない戦争を始めてしまった。

米国への強い反発が、「米国は大したことない」という誤った判断を招き、悲惨な敗北につながった。

強いプライドや愛国心を持ちつつ、同時に、自分や自国の力を、冷静かつ客観的に判断する。

一つの理想ではあるが、成功した例を、あまり見たことがない。

残念なお知らせである(笑)。



あの打席で、一つだけ謎が残る。

あれだけ球が見えていたイチローが、なぜ、明らかなボール球まで、カットしたかという点だ。

ボールカウントが先行すれば、自分は敬遠されてしまう。なんとしても、自分が決めたい。そして、やっぱりイチローは凄い選手であると、日本に、韓国に、そして世界に見せつけたい。

そこまで考えてカットしたのだとしたら、イチローという選手は、究極のエゴイストであり、同時に、冷徹な戦略家だ。

何てことはない、「神が降りた」のではなく、自分で「神を引きずり降ろした」だけである(笑)。

度外れのプライドと冷静な判断力。

イチローは、両者が共存する、まれな成功例なのかもしれない。


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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なるほど (ブログライブ管理人)
2009-03-27 00:31:41
 大変興味深く読ませていただきました。

 イチローを捕手が立って敬遠できなかったのは、韓国が過剰にイチローを意識した結果と思いました。
 あと、太平洋戦争に敷衍した、冷静さと愛国心の話も面白いと思いました。

 イチローがボール球までカットしたのは、「謎」というより「技術」のなせる技と思いました。

 ピッチャーがボール球を何球も投げているうちに、こんなボール球までカットされるのかよ、、と、ふっとイチロー選手の間合いに引き込まれてしまう。そして、投げちゃいけない球のイメージが湧く。何球も投げれば投げる程、投げちゃいけない球のイメージも強くなるでしょう。
 そして、その投げちゃいけない球のイメージで球を投げてしまう、、要は、相手ピッチャーの心理まで動かした、そんなイチロー選手の神業と思います。

 どんな風に思って、あの球を投げたのか、投げた投手に聞いてみたいですが、本音はしゃべらないだろうな、、と思います。
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名将の心 (アレチボルト)
2009-03-27 14:01:14
コメント、ありがとうございます。

「投げれば投げる程、投げちゃいけない球のイメージも強くなる」というのは、鋭い指摘だと思います。

カットというのは、バッターにとって大きな武器ですね。

ネットニュースによると、イチローに打たれたイム・チャンヨン投手は、あのシーンのVTRを、未だに見ることが出来ないそうです。

きわどいコースを何度もカットされるうちに、彼は、イチローの世界に引きずり込まれて、あからさまなボールを投げることも出来ず、魅入られたように、甘い球を投げてしまった。

そして、未だに、心が、その世界から抜けられないのかもしれません。

韓国ベンチが、なぜ明確な敬遠のサインを出さなかったのか、メディアによるイチロー・バッシングを意識したのか、それとも別の理由があったのか、本当のところは分からないですね。直接聞いても、建前しか話さないでしょうし。

ただ、イチローという名前を忘れて、その日3安打を放ち、9回表には、同じピッチャーから、ライトオーバーのツーベースを打っている選手として見ていたら、あのように勝負しようとは、微塵も考えなかったと思います。

「イチロー」をどこかで意識したために、捕手を立たせての敬遠が指示出来なかった。

強いプライドのゆえに、韓国人社会に、イチローに対して、尊敬と敵愾心の入り交じった複雑な感情が渦巻いていて、名将キム・インシク監督をして、判断を誤らせた。

そんな気がしています。

いずれにしても、イチローというのは、すごい選手ですね。韓国では、最も有名な日本人の一人らしいですし(笑)。
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