乃木坂46・27thシングル表題曲「ごめんねFingers crossed」のビルボードHot100を考えるシリーズは、いよいよ楽曲指標の中核とも言える「ストリーミング数(S)」に話を進めたいと思います。
定額聴き放題サービス、いわゆる「サブスク」で曲をストリーミング(Str)して聴く人が近年急速に増え、Str再生回数によるランキングの上位には、現在のPops界における、人気アーティストとヒット曲がひしめき合う状況が生まれている。
実際、最近の音楽番組では、アーティストや曲の人気を紹介する際に、Str再生回数の数字を使うことが増えていて、重要指標との認識が広まりつつある。
とくにビルボードHot100のS項やApple MusicのデイリーTOP100及びトップソングは対象曲の数が多く、これらのランキングで長く上位に入れば、間違いなくヒットしていると、多くの人に認めて貰えて、曲とアーティストが大きな注目を集めていく。
最近の例を挙げると、優里の「ドライフラワー」が固定ツイートか!とツッコミたくなるほど長期間、Apple Music デイリーTOP100の1位に座り続け、その後、今もっとも注目されているアーティストとして、多くの音楽番組に登場し、曲を披露するようになった。
また、あいみょん、YOASOBI、Adoが人気を確立し、BTSが圧倒的な人気を印象付けているのも、ストリーミング指標の高さに依るところが大きい。
サブスクによるオーディオ・ストリーミングは今や、Pops界の人気動向を左右するセンターステージとなった感があり、そのランキングでどの辺に位置するかは、曲とアーティストの音楽的存在感に直結していく。
ということで、ビルボードHot100「ストリーミング数(S)」では是非とも良い成績をゲットしたいんですが、乃木坂46シングル表題曲の順位推移を比べてみると、折れ線グラフを描いただけで、シングルごとに順位が低くなっているのが分かります。
(表1) |
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この表で27th「ごめんねFingers crossed」は、07/07公開チャート時点のデータを反映して、5週連続の100位圏外となっていますが、今週発表された07/14公開チャートを入れると、圏外は6週連続まで進んでいます。
折れ線グラフは見やすくするために、20th以降の表題8曲について配信10Wまでしか示していないので、15th以降の配信全期間に渡るデータを、順位帯別週数のグラフと表にして載せておきます。
(表2) |
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(表3) 乃木坂46シングル表題曲のBillboard JAPAN Hot100「ストリーミング数(S)」の配信全期間に渡る順位成績
凡例
A-B-C-D [E] (100位圏内入り週数 / 配信週数; 最高順位) 曲名_Sg番号
# 上記 A~Eは、それぞれ以下の順位帯にランクインした週数を表す
A(1~20位)、B(21~40位)、C(41~70位)、D(71~100位)、E(100位圏外)
# 配信開始週から2021/07/07公開チャートまでのデータ
# 15th~27thのCD付きシングル表題13曲を配信開始日の早い順に上から掲載
00-00-03-06 [250] (09週/259; 41位) 裸足でSummer_15
08-07-10-08 [211] (33週/244; 13位) サヨナラの意味_16
09-14-37-29 [136] (89週/225; 06位) インフルエンサー_17
04-04-01-02 [194] (11週/205; 05位) 逃げ水_18
04-04-02-03 [185] (13週/198; 05位) いつかできるから今日できる_19
16-04-12-21 [115] (53週/168; 03位) シンクロニシティ_20
04-02-04-02 [141] (12週/153; 06位) ジコチューで行こう!_21
14-08-08-02 [107] (32週/139; 04位) 帰り道は遠回りしたくなる_22
01-02-01-08 [099] (12週/111; 14位) Sing Out!_23
01-03-02-01 [090] (07週/097; 17位) 夜明けまで強がらなくてもいい_24
00-00-02-02 [064] (04週/068; 61位) しあわせの保護色_25
00-00-01-02 [021] (03週/024; 68位) 僕は僕を好きになる_26
00-00-00-00 [005] (00週/005; 100外) ごめんねFingers crossed_27
23rd「Sing Out!」以降、100位圏内週数は減少傾向にあり、とくに顕著なのが、上位へ入る日数が短くなっていること。
次のグラフはTOP20を、TOP10の1〜10位と11〜20位の順位帯に分け、それぞれの週数を示したものです。
(表4) |
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22ndの好調ぶりは、20thと並んで突出しており、比較対象として妥当ではないけど、例えば、21stはTOP10が2週、11~20位も2週で、TOP20に合わせて4週入っていたが、23rdと24thはTOP10なしの11~20位が1週、25th以降はTOP20がゼロ週で、上位進出の勢いが23rd以降、明らかに弱くなっている。
そして27thはTOP20だけでなく、21位から100位迄にも入っておらず、CD付きシングル表題曲としては、15th以降で初めて、S項の完全圏外を喫している。
(表5) |
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乃木坂のシングル表題曲は、2019年5月22日(水)に配信が始まった23rd「Sing Out!」を境に、ビルボードHot100のS項順位がシングルごとに落ちていき、最新27thでは100位圏内に一度も入らない状況に陥っている。
しかし、まさにその間、オーディオ・ストリーミングの人気をテコに、ヒットを飛ばし、大きな注目を集めるアーティストが続々登場、S項ランキングはPops界を左右する重要指標に成長していった。
S項への注目度が社会的に高まっていく一方、乃木坂の曲は逆に順位を落とし続けていく。
乃木坂ファンにとって憂鬱なこの対比が、グループの音楽的存在感をここ数年で大きく低下させた原因の一つになっている。
ただ坂道において、S項で苦しんでいるのは乃木坂だけではない。
07/07公開チャートの時点で、櫻坂46の1stシングル表題曲「Nobody's fault」は配信30週目(W)、2nd「BAN」は12Wですが、両曲とも一度もS項で100位圏内に入っておらず、さらに改名再出発して以来、C/W曲まで範囲を広げても、圏内に入った曲はありません。
(表6) |
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(表7) 欅坂46&櫻坂46シングル表題曲のBillboard JAPAN Hot100「ストリーミング数(S)」の配信全期間に渡る順位成績
凡例
A-B-C-D [E] (100位圏内入り日数 / 配信日数; 最高順位) 曲名_Sg番号
# 上記 A~Eは、それぞれ以下の順位帯にランクインした週数を表す
A(1~20位)、B(21~40位)、C(41~70位)、D(71~100位)、E(100位圏外)
# 配信開始週から2021/07/07公開チャートまでのデータ
# 欅坂1st~8thと櫻坂1st~2ndのCD付きシングル表題10曲を配信開始日の早い順に上から掲載
70-49-29-14 [112] (162週/274; 01位) サイレントマジョリティー_1
00-02-01-05 [248] (008週/256; 26位) 世界には愛しかない_2
09-07-14-34 [176] (064週/240; 06位) 二人セゾン_3
21-28-13-21 [139] (083週/222; 02位) 不協和音_4
16-09-02-03 [163] (030週/193; 04位) 風に吹かれても_5
15-18-06-05 [130] (044週/174; 01位) ガラスを割れ!_6
10-10-07-08 [116] (035週/151; 03位) アンビバレント_7
05-03-07-01 [107] (016週/123; 05位) 黒い羊_8
00-00-00-00 [030] (000週/030; 100外) Nobody's fault_櫻1
00-00-00-00 [012] (000週/012; 100外) BAN_櫻2
また、日向坂46の5th「君しか勝たん」は07/07公開チャート時点で配信6Wですが、こちらもS項で100位圏外が続き、一度も圏内入りしない、グループ初のシングル表題曲となっている。
(表8) |
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(表9) 日向坂46シングル表題曲のBillboard JAPAN Hot100「ストリーミング数(S)」の配信全期間に渡る順位成績
凡例
A-B-C-D [E] (100位圏内入り日数 / 配信日数; 最高順位) 曲名_Sg番号
# 上記 A~Eは、それぞれ以下の順位帯にランクインした週数を表す
A(1~20位)、B(21~40位)、C(41~70位)、D(71~100位)、E(100位圏外)
# 配信開始週から2021/07/07公開チャートまでのデータ
# 1st~5thのシングル表題5曲にアルバム・リード曲「アザトアワイイ」を加えた6曲を配信開始日の早い順に上から掲載
03-01-05-04 [106] (13週/119; 11位) キュン_1
01-02-04-01 [095] (08週/103; 18位) ドレミソラシド_2
00-00-02-02 [088] (04週/092; 41位) こんなに好きになっちゃっていいの?_3
00-00-03-01 [068] (04週/072; 49位) ソンナコトナイヨ_4
00-00-02-01 [038] (03週/041; 58位) アザトカワイイ_1stAb
00-00-00-00 [006] (00週/006; 100外) 君しか勝たん_5
乃木坂27th、櫻坂2nd,、日向坂5thと、坂道3グループの最新シングル表題曲はいずれもビルボードS項100位圏内に入らなかったわけですが、ちょっと気になるのは、この3曲を比べると、どの曲が一番順位成績が良いんでしょうか?
もちろんビルボードS項は3曲とも圏外なので比較しようがないですが、Apple Music トップソングは200位までのランキングであり比較が可能です。
(表10) |
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最高順位が高いのは日向坂46「君しか勝たん」で67位を確認しており、日単位で見ると100位圏内に実は10日ほど入っています。
ただビルボードHot100は週間ランキングで、週単位で100位圏内に入るほどのStr再生回数は得られなかったのだと思います。
櫻坂46「BAN」も最高81位で100位圏内に10日ほど入っている。
(表11) 坂道最新シングル表題曲のApple Music トップソングの配信全期間に渡る順位成績
凡例
A-B-C-D / E-F [G] (200位圏内入り日数 / 配信日数; 確認できた最高順位) 曲名_Sg番号
# 上記 A~Gは、それぞれ以下の順位帯にランクインした日数を表す
A(1~20位)、B(21~40位)、C(41~70位)、D(71~100位)、E(101~150位)、F(151~200位)、G(200位圏外)
# 配信開始週から2021/07/07公開チャートまでのデータ
# 乃木坂27th、日向坂5th、櫻坂2ndを配信日数の長い順に上から掲載
00-00-00-10 / 05-03 [76] (18日/94; 081位) BAN_櫻2
00-00-01-09 / 04-05 [33] (19日/52; 067位) 君しか勝たん_日5
00-00-00-00 / 19-15 [11] (34日/45; 102位) ごめんねFingers crossed_乃27
一方、乃木坂46「ごめんねFingers crossed」は100位圏内を確認できず、3曲中、上位食い込みがもっとも弱い。
しかし、200位圏内に入った日数がもっとも長いのは「ごめんねFingers crossed」の34日で、「君しか勝たん」の18日、「BAN」の19日を大きく越えていて、101位以下での粘りは乃木坂の最新曲が上回っている。
このように3曲を順位比較しても突出した1曲がなく、Str再生回数の累計に関して、どの曲が一番多いかは何とも言えません。
坂道曲がストリーミング人気の深刻な伸び悩みに直面していることに関して、最近、象徴的な出来事が起こっています。
(表12) 2021/06/02公開(06/07付) Billboard JAPAN Hot100における総合1位と2位
凡例
(総合) ビルボード総合順位 各項目順位 : CD発売後週数 曲名_グループ名 Sg番号
# 項目記号の意味
P=CDセールス、D=ダウンロード数、S=ストリーミング数、R=ラジオ放送回数
L=PCによるCD読み取り数(ルックアップ)、T=ツイート数、M=国内動画再生回数
B=BUZZ(D+T+M)、F=総合100位圏内ランクイン回数
# 総合の「100外」と各項の「00」は共に100位圏外、「--」は集計対象外
# 06/02公開チャートの集計対象期間は2021/05/24(月)~30(日)
#「Butter」は配信限定曲で、配信後週数を載せている
(総合)1位 P--/D02/S01/R01/L--/T01/M01/B01/F02 : 02週目 BTS「Butter」
(総合)2位 P01/D06/S00/R30/L01/T03/M70/B09/F01 : 01週目 日向坂46「君しか勝たん」
坂道のCD付きシングル表題曲は、特典商法で大量のCDを売り上げ、枚数がもっとも多くなるCD発売週に、「CDセールス(P)」と「ルックアップ(L)」で1位を獲得し、この2冠を生かして、「総合(G)」で1位に入るパターンが長年、続いてきました。
Billboard JAPANの公式サイトでは、2013年11月27日(日)発売の乃木坂46・7th「バレッタ」までCD発売週の順位を遡れますが、そこから最新27thに至るまで乃木坂は総合1位を続けており、さらに欅坂は1stから8th、櫻坂は1stと2nd、日向坂は1stから4thまで、つまり全てのシングル表題曲が総合1位だった。
従って、日向坂46の5th「君しか勝たん」がCD発売週に当たる06/02公開チャートで、総合2位になったことは、坂道のシングル史上、かなりレアな出来事です。
では、その週に1位を獲った曲は何かというと、配信限定でリリース2週目(W)だったBTS「Butter」。
CDセールスを軸にポイントを稼ぐ坂道と、配信限定でデジタル指標でポイントを稼ぐ韓流が1位を競い合い、後者が前者を上回ったわけです。
実際、「Butter」のデジタル指標は凄まじく、1位に入ったS項とM項は、1週間のStr再生回数が2994万回、MV再生回数は1569万回と、トンデモナイ数字を叩き出していて、そこに「ラジオ(R)」と「ツイート数(T)」の1位が加わり、4冠を達成している。
Billboard JAPANでの週間Str再生回数の最多は、BTS「Butter」の2994万回が出るまで、LiSA「炎」の1890万回だったそうで、大幅に記録を更新している。
ちなみに、オリコン週間ストリーミングにおける坂道曲の最多再生回数は、乃木坂46「Route 246」が配信2週目(W)に出した217万回、さらに大ヒットしたNiziU「Make you happy」は1Wの976万回が最高で、BTS「Butter」2Wの2994万回が文字通り桁違いの数字であることが分かります。
また、1週間のMV再生回数が1569万回というのは、1日平均224万回を積み上げる計算で、坂道MVの初日最高、欅坂46「ガラスを割れ!」190万回より30万回以上多く、しかもそれを7日間維持しないと届かない水準です。
ただ、日向坂46「君しか勝たん」は初週1WのCD売り上げ枚数がサウンドスキャン調べで50万枚に達し、配信限定で売り上げゼロ枚のBTS「Butter」を、P項のポイントで大きくリードしている。
こうなってくると、「総合(G)」の順位を決めるに際して、ビルボードがCDセールスとデジタル・セールスをどういう比率で評価するかによって、「君しか勝たん」と「Butter」のどちらが1位となるかが変わる可能性がある。
そして、BTSが1位、日向坂が2位となった。
この順位が公表された6月2日(水)の夕方、Billboard JAPANは以下のようなツイートをしています。
2017年以降、シングル・セールスをHOT 100に合算する際、レシオの平均値が大きく変わる週に関しては、係数を掛けて合算していました。2021年6月2日公開以降、シングル・セールスとデジタル・セールスのバランスをさらに安定させるため、係数を変更しております。今後とも、よろしくお願い致します。
午後6:36 · 2021年6月2日
「レシオの平均値が大きく変わる週」とは、坂道シングルのCD発売初週のように、握手会やミート&グリートの事前予約分が一斉に計上され、いきなり何十万枚という売り上げが発生する週のことだと思われますが、Hot100総合へ合算する際に抑制的に掛けていた係数を、まさにそれが焦点となった06/02公開チャートから、さらに抑制的な方向に変更し、デジタル・セールスをより優先させた、と読むことができる。
大きなCDセールスを出していた日向坂46「君しか勝たん」が、圧倒的なデジタル・セールスを生み出したBTS「Butter」に1位を譲った状況とピタリと符合するツイートだった。
特典商法で巨大なCDセールスが発生した週は、Hot100総合に合算するとき、係数を掛けてポイントを圧縮していたが、06/02公開チャートでは圧縮を従来よりさらにシビアに行い、その結果、CDのない「Butter」がデジタル指標だけで「君しか勝たん」を上回った、という推測には説得力がある。
6月2日は、特典商法によるCDセールスが、ヒット指標としての価値を大幅に失い、代わって、ストリーミング数やMV再生回数といったデジタル指標が大きく価値を高めた、音楽ランキング史上の転換点だったかもしれない。
握手会の魅力で大量のCDを売り上げていたとしても、ストリーミングやMV視聴が好調で、ビルボードのS項やM項で長く上位にランクインしているなら話は違ってきます。
しかし、坂道の最新表題3曲のように、50万枚以上もCDを売り上げながら、S項が100位圏内に一度も入らないとなると、CDセールスは音楽的人気とは全くの別物という見方が社会全体で強まるのは避けられない。
櫻坂46「BAN」も、乃木坂46「ごめんねFingers crossed」も、CD発売週はP項とL項の1位をテコに「総合(G)」で1位を獲得しているが、重要なヒット指標の一つとなりつつあるS項が今後も低迷するようであれば、そういった曲にCDセールスを重視して総合1位を付けることへの躊躇いがさらに強まっていき、係数は何度も変更され、デジタル・セールス優位の流れが加速していくでしょう。
握手会やミート&グリートによって大量のCD売り上げを維持できても、S項やM項が示す配信と動画の人気を落としてしまうと、CDセールスに対する評価が下がり続け、CDを百万枚以上売っても人気アーティストとは見て貰えなくなる。
AKB48がまさにそういう道を辿ってしまったわけで、その姿を間近で見ながら、坂道も同じ道に踏み込みつつあるのだとすれば、秋元式アイドルの宿命という言葉すら脳裏をよぎる、非常に残念な話です。
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