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素粒子
2007
オスカー・レーラー


とても優れた作品です。
失われた愛情を取り戻す2人の兄弟の二通りの恋の物語。

母からは放任され、父からの愛情も得られずに育った2人の異父兄弟。
大人となり兄は文学青年崩れの国語教師となり、弟は天才的数学者として成功。
しかし2人は愛情を受けることも与えることも苦手としている。
兄は結婚し子供を授かるも激しい性衝動のため人格を崩し精神病院へ、弟は愛情を受けることができぬまま童貞の道を突き進む。
その2人の兄弟の回り道の後の二通りの恋の話。


二人の主人公(兄弟)の描写が素晴らしく、感情移入ドコロではなく、まるで自分がその物語の中にいるかのような感覚すら覚えます。
国籍に関係なく、現代に住まう人間の欠陥をとても上手に描いています。
生い立ちは違えど、本作の主人公のような感覚を抱えている方は沢山いるのでは。
大げさに言うとトラウマになるんですが、少なからずトラウマを誰でも抱えていて、それがどう表出するかといのも様々なものです。
トラウマの要因の全てが虐待というわけではなく、愛情を感じなかったと言うこともトラウマとなりうる。本作の場合はこっち。
本作の核は恐らくそこで。
そのトラウマを抱えたまま大人になった人間はどう振る舞うのか、そして彼らはいつ愛情知ることができるのか、というのがテーマだったのではないでしょうか。

感情を持たないかのような2人のエグイ描写が序盤続きます。
物語が展開するにつれてその行動が他者への思いに基づき始めますが、それはまだエゴととれる行動ばかり。
この2人の最終的に行き着くところは他者から観たハッピーエンドではありません。
その本人だけが感じることがでいる幸せな世界。
悲しい結末ですが、グッと来ます。
できればこの彼らのような結末は迎えることなく過ごすことができるのが一番幸せなことなのだと思うのですが、こういう曲折を経て手に入れたものの確かさは、もう誰にも揺るがすことが出来ないんだろうなぁ。


官能的でアバンギャルドな社会の描き方が話題となったミシェル・ウエルベックによる「素粒子」の映画化です。もの凄く成功しているのでは。

お勧めの映画です。

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