notation

映画【スケアクロウ】

2007-10-14 23:46:26 | 映画


スケアクロウ
1973
Jerry Schatzberg (ジェリー・シャッツバーグ)

名作の誉れ高い本作。
確かに良い作品です。グッと来ます。
今更の初見ですので普通に感想です。


ロードムービーの様な2人の男の物語で、もの凄い微妙に彼らが変化していきます。
変化していくと言うよりも、次第に心がむき出しになっていきます。
マックス(ジーン・ハックマン)は刑務所帰りの人間不信さと神経質、加えて猥雑。刑務所で貯めた金を元手に洗車商売で一発当てようとピッツバーグへ向かう。
ライオン(アル・パチーノ)は人なつっこく陽気でユーモアを常に忘れない。5年の船員生活から足を洗いデトロイトの我が家へ一度もあったことのない子どもに会いに行く。
このみすぼらしい格好をした2人が路上で出会い、旅を共に氏、徐々に心を開き友情を通わせていく、という「ソレ、本当に面白いの?」というプロット。

この2人を見事に対比させて物語を展開させています。
守るべきものがある者は強く人に優しくあることができ、反面、失うものが何もないからこその省みない強さという対比。
おぼろげながら拠り所があるライオンは常にユーモアを持ち人を気にすることができ、マックスは誰も待ってくれる者がいないと端からあきらめすぐに粗暴になってしまう。
欲しいモノを手に入れるための方法が正反対の2人。
例えとしてはちょっと遠いかもしれませんが「太陽と北風」の様な2人。
そんなマックスも、次第にライオンという友達を失わないがために、行動が変わっていきます。この展開が絶妙なのです。

はっきり言ってしまえば、ワンシーンでの強烈な面白さはありません。キメのイカした台詞もありません。
しかし、時間が積み重なっていく映画です。
アカデミー賞ではなく、カンヌのパルムドールというあたりからご想像下さい。
たった112分にこの物語を焼き付けられていることが驚きです。今だったら3時間モノになってそう。
コンパクトな尺の中に積み重ねられた時間がきっちり効いている、不思議な映画です。

「卒業」「真夜中のカーボーイ」なんかのアメリカン・ニューシネマに分類される本作です。
アメリカン・ニューシネマ全般はアンチ・ハッピーエンドと言われることが多いのですが、それは当時の社会の黙殺されていた不条理さを描いたのもので、「生きている人間がどうやって何を考えて生きているのかを描いた作品」であるからで、エンディング(結果)のための作品ではな無かったんですね。
本作も同様で、これが「エンディングのための映画」であったら、そんなどうでも良いことを描くことに何の意味があるんだ、ということになるんですが、それまでの物語こそが映画であるという考えで撮られた作品です。
映画のエンディングの後にもその主人公達は生き続けるし、生き続けなければいけないのです。
人生にすれば死こそがエンディングなのか。しかし、人は死ぬために生きてるわけじゃないという宗教がかった解釈にもなってしまいますが、ほぼそういうことでしょう。
「人生で何も起こらないことなんてあるわけがない」と言ったのは「アダプテーション」の脚本家チャーリー・カウフマンです。
オチが無ければいけないとか、ハッピーエンドじゃなきゃイヤだ、というのも良いですが、たまにはこういう作品も良いですね。


ごちゃごちゃ書いてますが、名作に間違いありませんでした。