じゅんむし日記

心は急いでいる。それなのに、何も思い通りの形にはなっていかない。がまんがまん。とにかく、今できることから始めよう。

「紙の月」角田光代

2016-05-03 | 
幼少の頃、
小・中学校の頃、
学生時代、就職してあの時、
「もしも…がなかったら」
「もしも…をしていたら」
「もしもそばに居た…が…のように接してくれていたら」

無数にある「もしも」がたとえその通りに行われたとしても、
結果として、今の私に到達してくるのではないでしょうか。
つまり、周りのせいにしたところで、
また周りがその時にうまく対応してくれたところで、
今の私が今より素晴らしくなるはずもない。

私に関わった人・モノ・自然…私に触れたすべてをひと塊として、
何もかもひっくるめて私自身なのだと思います。

私を取り巻く関係性そのものが私自身です。

少し前に、”アドラー心理学をやさしく解説”的な本を読んで、私なりに解釈したのですが、
きっと角田さんも、この本を通じてそう言いたかったのではないでしょうか。

(アドラーはちょっと理解できないところもありますが)

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正義感が強かったはずの主婦・梨花は、
年下の大学生・光太と知り合い、ほんのちょっとした自分自身への言い訳から始まり、一億円横領という犯罪に手を染めていく…。

ほんのちょっとのキッカケ。
その出来事に至るまでの心理描写が丁寧に書かれていて、
(その時は想像すら出来なかった)犯罪に進んでしまう気持ちの追い込まれ方もリアリティがあります。

あまりの大胆さは、私たちとは全く関係ない世界の事と思いたくなりますが、
もしかしたら、そんな暗い穴に足を踏み入れてしまう瞬間は誰にでもあるのではないでしょうか。

それに、もちろん同じことではありませんが、私にも実際そんな瞬間があったような、なかったような…。
何か、ふっと同じ匂いのする出来事を、若かりし時にかすめたような、かすめなかったような…。
転落へのきっかけなぞ、確かに誰でもありうることだと思うのです。

梨花と関わりのある「岡崎木綿子」「中條亜紀」「山田和貴」の物語も同時展開しており、
それによって梨花の人間性が浮き出て、幅広で奥行きのあるストーリーとなっています。
(少し浮いた感じのする箇所もあったように感じましたが…)

物語の中では影が薄い夫もとても重要な要素で、
何でもないことと思えるのに、緻密さを持って最初から最後まで登場しています。
そこら辺の家庭にも居そうで、よく発しているだろうその言葉が、深く物語を表しています。

一気に読ませてしまう角田さんの筆力は、やはりすごいと思います。
読み返せば、またさらに違う発見があるかもしれません。

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