神が宿るところ

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市杵島神社(茨城県行方市)

2023-05-20 23:35:46 | 神社
市杵島神社(いちきしまじんじゃ)。通称:弁天様。
場所:茨城県行方市芹沢1613。茨城県道50号線(水戸神栖線)「榎本」交差点から北西へ約220mで左折(南西へ)、約400m。狭い駐車スペースあり。「玉造工業高等学校」の西側。なお、参道途中にある「子安神社」(祭神:木華開耶媛命)は当神社の摂社。
社伝等によれば、第59代・宇多天皇の9代の後裔である佐々木太郎定綱の末子・頼定は近江国甲賀郡山中村(現・滋賀県甲賀市)に住して山中氏を称したが、その子・四郎泰定は平氏との争乱に敗れ、永暦元年(1160年)に次男・清定と共に武蔵国蕨(現・埼玉県蕨市)に逃れた。その後、佐竹氏に従い、養和元年(1181年)、常陸国行方郡に所領を与えられ、前住地の地名を採って蕨村(現・行方市芹沢字蕨)とし、館を構えた(「山中館」。現・玉造ゴルフ俱楽部若海コースの北端辺り)。領内の「一の沢」地区の「枡池」に佐々木氏の守護神「竹生弁才天」(現・滋賀県長浜市、「都久夫須麻神社(竹生島神社)」及び「巌金山 宝厳寺」)を勧請して社祠を建て、崇敬した。なお、元は「枡池」の池の中にあったが、安政2年(1855年)の大地震によって山津波(土砂崩れ)が発生し、「枡池」自体が埋まってしまったため、やむなく現在地に遷宮したという。大正2年、芹沢「大宮神社」(前項)に合併されたが、その後も氏子は祭典を行い、昭和39年、旧に復した。現在の祭神は市杵島姫命であるが、本尊(御神体?)は鎌倉時代初期の木彫の宇賀神弁財天像であるという。なお、弁才天(弁天)は、元はヒンズー教の河川の女神であるが、仏教に取り入れられて音楽・芸術・福徳の神として信仰されるようになり、わが国では神仏混淆して七福神の1神となり、元の水神としての性格から宗像三女神(市杵島姫命はその1柱)とも同一視されて、海・川・泉などの水辺に多く祀られた。明治期の神仏分離により神社になったところの多くは宗像三女神または市杵島姫命を祭神とするようになったとされている。
なお、伝説によれば、永正元年(1504年)、蕨(山中)城主・山中左衛門清定の孫・定俊に娘が生まれた。しかし、娘の背中に3つの鱗があり、成長すると鱗は全身に広がり、「蛇女良(へびじょろう)」との綽名がつけられた。娘は年頃になってこれを恥じ、一の沢の「枡池」に投身した。以来、「枡池」には大蛇が棲むといわれ、妖気が漂った。投身した娘の甥に当たる山中永定が不憫に思い、叔母の霊を配祀した。11月15日の祭日には「放禮(なげまつり)」といって、神官が馬上から松火を池に投げ込む神事が行われ、永正年間から安政年間まで3百数十年続いたという。現代では先天性魚鱗癬という難病が知られており、これは皮膚が厚い角質に覆われて魚の鱗のように見える病気で、発汗作用が阻害されるので高体温になりやすく、皮膚のバリア機能が低下して感染症にも罹りやすい。遺伝性の病気で、根治療法は無いという。今、合理的に解釈すれば、「蛇女良」が魚鱗癬という病気であった可能性が高いと言えるが、これを知らない昔の人々からすれば、蛇の祟りなどと考えてもおかしくはない。ただし、この伝説においては、そのような因果応報的な話は伝わっていないところが、逆に不思議ではある。
さて、当地の芹沢や蕨といった地名は中世以降のものということになるが、「常陸国風土記」行方郡の条に「(鴨野の)野の北に櫟(イチイ)・柴(クヌギ)・鶏頭樹(カエデ)などの樹木があちこちに生い繁っており、自然と山林を成している。ここに枡池がある。これは高向大夫(たかむくのまえつぎみ)の時に築かれた池である。北には香取神子之社がある。」(現代語訳)という記述があり、「常陸国風土記」の解説書の多くは、この「枡池」が上記の「一の沢の枡池」と同じものとしているようである。「枡池」というからには、四角くて深い池が想像されるが、当神社の南西側は崖で、下に降りてみると、細長い谷が現在は水田になっている。確かに、これの両端を閉じれば四角い池になるような気はする。「枡池」の北の「香取神子之社」については、次項で。


写真1:「市杵島神社」鳥居


写真2:社殿


写真3:石碑。冒頭に、「一の沢地は、常陸国風土記に見える高向大夫が築いた枡池である。」ということが記されている。


写真4:境内の南側が崖になっている。


写真5:下に降りると、細長い水田になっている。

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