Jun日記(さと さとみの世界)

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うの華3 99

2021-01-12 20:52:28 | 日記
 だから私は今の今迄、目の前にいる一つ歳上の従兄弟が物事では何でも私より上手なのだと信じ込んでいた。そして、物事に対する考察や洞察力も勿論私より上で優れているものだと疑う事なく信じ込んでいた。しかし、今日、この時になり私は気付いた。もしかすると従兄弟には自分の考えが無いのではないか?と。従兄弟の持つ物は所謂耳学問という物らしいという事に気付いたのだ。

 「物事は自分でよく考えてみる物だ。」

人の言葉を鵜呑みにしないで、自分でも考えて、それは如何いった物か、何を如何やったら良いか、自分でも一応考えて判断することが大事だ。自分の考えを確り持つ事も大切な事だぞ。私はかつてそんな事を父から言われた事があった。そこで私は物事について、一応の自分なりの考察を持つ時間を取っていた。従兄弟について、この時感じた疑問を私は尋ねてみた。

 「勿論自分の考えはあるよ。」

従兄弟はこう答えた。そうだよね、私もそうだ、それが当たり前だと、内心ほっとして従兄弟の答えに相槌を打った。急に何故そんな事を聞くのかと、ちょっと用心深くなった瞳をこちらに向けて、今度は反対に従兄弟が私に尋ねて来た。

 それは、…。私は言い淀んだ。色々な考えが私の胸の内に去来した。その主な物は、ここで正直に言えばこの従兄弟に良くは思われないだろうという様な損得勘定だったが、『人間正直に』の私の父の言葉が胸に浮かぶと、自分が今日の従兄弟の言葉に対して感じた思いというものを、私は私の目の前にいる当の本人に正直に吐露する羽目になった。

 「まるで人の言葉を自分の考えの様に言っていたみたいだったから。」

私は従兄弟に対して笑顔を浮かべると、歯に噛む様に「そんな事無いのにね。」と、如何にも自分は取り間違えた、考え違いをした愚か者だねという感じで、気さくな仲間同士がお互いの仲間内で馴れ合って同意を求めるような調子で話し掛けた。

 すると従兄弟は一寸たじろいだ。私はこの従兄弟の反応にやや驚いた。ついじいっと従兄弟の顔、その様子に注視すると、私は瞬きもせずに従兄弟の一挙手一投足を見詰めてしまった。が、私が見つめる従兄弟の全体像は極めて静寂そのもの、寡黙であり殆ど身動きはなかった。従兄弟は腕組みなどして私からやや顔を逸らすと俯き加減でいた。そして目だけは動いてその視線が時折私に注がれている様だった。

 その内そのお互いの長い沈黙に、私も従兄弟から視線を外し気味になると遂には従兄弟同様顎を引き、俯くと畳に視線を落とす結果となった。しかし私の方は腕組み等していなかった。これは私がわざと従兄弟に同調しなかったからだった。何とはなく私は、この時の従兄弟と考えを異にすべきだと感じていた。そうしてその時感じた事を感じた儘に行動する事にしてそうしたのだ。

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