Jun日記(さと さとみの世界)

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マルのじれんま 27

2020-05-14 09:39:03 | 日記
 魚釣りが殺生?。マルは心の内で呟きました。そしてすぐにぴん!と来るものが有り、笑い顔を自分に向ける紫苑さんに問い掛けました。

「釣った魚を殺すんですか?。」

この世界の魚釣りはそうなんですか?。と、彼は思わず頭に浮かんだままを口に出してしまいました。そしてしまったと思うと彼は目をぱちくりとさせました。そんな坊主頭の、地球では童顔のように見えるマルの顔は、紫苑さんの目に如何にも悪戯っぽくお道化た風情の顔付きをしたように映りました。

「この世界?。ははははは…、この世もあの世も、極楽ではどうでも現世では釣りは釣った魚を食べる為にする物でしょう。」

生きる為には食べなければ。紫苑さんは答えました。

 この濠のフナやコイ等、戦時中の食料の無い時代には、地元民にとってよいタンパク質とカルシウムの供給源だったそうですよ。私が子供の頃大人達からよく聞かされたものです。現に私の母など、やはり戦時中の物資の無かった頃の話をしながら、よく私がこの濠で釣り上げた成果を飴炊きや味噌煮込みして食べさせてくれました。

「自前で食料が調達できるなんて、お前は甲斐性が有るね。等と褒めてくれましてね。」

彼はすました顔をしてそう言うと、少し離れて横に並んでいるマルに照れた様なはにかんだような微笑みを向けました。そして、『はてさて、円萬さんの釣りは如何いった趣向の釣りである事やら。』そう思いながら、円萬ことマルの答えを待ちました。彼は連れの僧から何やら頓智の利いた答えを拝聴出来そうな予感がしてきます。紫苑さんは喜々として嬉しそうに目を細めると、期待を込めて連れの顔を見詰め彼が答えるのを待っていました。

 「食べるなんて。」

「魚を食べるなんて。今ここで生きて泳いでいるこの魚達を食べるだなんて…。」。マルは今しも残酷そうな笑顔を浮かべて、自分の過去の残虐な行為を自慢気に話した紫苑さんに絶句しました。ここではそんな事が行われているのだ。何て野蛮な星なんだ!。マルは内心そう思うと身震いしました。

 『この地球人にしてはよく出来た人だと思っていた彼でさえ、そんな行為を繰り返して来たのだ。』

マルはすぐに続いて言葉を発する事が出来ません。彼は酷く沈んだ様子で俯くと暗い顔付きになりました。

 そんな状態で小刻みに身を振るわせる釣り仲間に、そうとばかり思っている紫苑さんはマルの体に何か異常があったのだと誤解しました。彼は笑顔を引っ込めて、真顔になるとマルに尋ねました。「如何しました?、具合が悪いのですか。」

 真剣にマルの身を案じる紫苑さんの緊張した面持ちに、マルはハッ!としました。

『いけない、怪しまれてしまったようだ。』

ここは何とか地球人然として、目の前にいるこの地球人をやり過ごさなければならない。彼は気持ちを落ち着けて如何この場を収めたらよいかと思案し始めました。

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