Jun日記(さと さとみの世界)

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土筆(104)

2018-06-17 11:15:37 | 日記

 彼には、

 地区の大将をする事になった弟に対して、弟と同じ年代の頃に大将の役に付く事無く平凡に過ぎた兄の、弟に感じた羨望や劣等感。

 普段当然のように庇護するべき者と思っていた弟という年下に、ある日突然秀でられてしまい、取り返そうにも年上の自分にはもう過去に戻ってやり直す事が出来無いという時間的な絶望や焦燥感。

 この調子では今後も過去の自分の一般的な達成度は年下の優秀でかつ達成能力を具えた弟に大きく抜かれるだろう、差をつけられ続けるだろう。兄の立場である自分にとっては、とてつも無く重圧になる出来事が未来には必ず起こって来るだろうと予想すると、彼は自分も今後は、自分の持つ素質や能力面での更なる活用や努力を強いられる事になるのだ、と思うのでした。

 しかし自分には無理そうだ、否、全く駄目だろうと感じる兄の脅迫観念への絶望感や圧迫感。

 今迄先に生まれたというぬるま湯の様な優越感の中にどっぷりと浸っていた兄だけに、急に年下の弟に冷や水を浴びせられた感じで衝撃を受け傷つくと、彼はこの様に深く暗い感情に抗し切れないで沈み、自分が何気なく過ぎ去ってしまった過去の年月の中で、弟は秀でた何かを成し遂げる可能性がある、いやきっと成し遂げるだろうという考えに全く囚われてしまっていました。

 彼はその後も更に暗い感情に陥って行くと、弟に対して危惧し、生まれて初めて感じた弟への劣等感という暗澹たる感情の坩堝の底に沈んだのでした。

 しかし、未だ若すぎる弟故に、兄の具合を急変させたこの心情が皆目分から無いのでした。

 「兄さん大丈夫かしら?」

次男の甥のこの問いかけに、「ああ、さぁ、多分大丈夫だろう。」何となく長男の甥の心情が察しられた叔父は、口元にだけ微笑みを残し曖昧に太鼓判を押すのでした。

 さて、この家の子供達の母である彼女は長男の為に風邪薬を1包み持つと、湯呑に白湯を入れて長男の部屋へやって来ました。

「お医者様へ行きましょうか?」

寝ているだけで大丈夫かと尋ねる母に、長男は元気無く、さも煩わし気にいいよと答えました。「それに怠くて動けないし…、行きたくてもいけないから。」とだけ言う彼に、彼女は心配し、往診してもらえるかどうかと、主治医に電話を掛けに行くのでした。


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