さて、私は事典の好きな項目から将来の夢を描きます。この時、漸く私の人生の目標が出来たのでした。
『将来は、考古学者か、天文学者か、科学者になりたい』
というものでした。
突き詰めて研究する、道を究めるという言葉が好きで、好きなその道に携わっていたいと思うのでした。
そうして、嬉しそうに人生の指針を父に話したのです。
多分父はとても喜んで賛成してくれるだろう。
何しろ、3年時にせっせと勉強して学問で身を立てろと言っていたのだから。
私の方針が決まった事を一刻も早く知らせて、大いに喜んでもらおうとしました。
しかし、私の言葉を聞いた父は慌てず騒がず全く動じる気配も無く
「おまえ、金の儲からない物にばかりなりたがるんだなぁ。」
と、一言。
ややふんという感じでした。
これには驚きました。
私はショックを受けたといってよく、失望したとも言えます。
何に失望したかというと父本人にです。
幼少時、父は私にこう言ったものです。
「お金の事をいう人間ほど汚いものはない。お金の事でごねごね言うな。」
私はそうか!と思い、清廉潔白な父の事を尊敬の眼で見つめ、
この言葉を格好良い言葉だ!と思ったものです。
早速、父のこの言葉に酔った私は当時最も仲の良かったおー君に話しました。
私のお父さんがこう言ったと言うと、おー君はびっくりしました。
いつもニコニコ私に相槌を打つばかりでしたが、その時は真顔でした。
真剣な顔で、違うよというと、
君のお父さん変だね、変なことを言うんだね、と言い、
「世の中お金だよ、富を握るものが世の中を牛耳るんだ。」
と言うのでした。
君のお父さん間違ってるよ、彼はそう言うと言っておかなくちゃと、元来た道を私の家に向かって走って戻って行ったのです。
その後どうなったか私には分かりませんが、道に取り残されてぽつんとしていた私は、
暫くして彼の後を追い家に戻りました。
でも、私の家に彼はいなくて、その日はそれっきり彼には会いませんでした。
父からもこの件でどうという話もなかったと思います。その後父は考えを変えたのでしょうか。
私はこの時、2つの点で過去と今で言動が違うと父をなじりました。
昔、おー君がこう言っていたけど、それで父の考えが変わったのか、何か彼と話したのか?
何故昔と考えが変わったのかとも問い、おー君の言う通り父は変だと言い放ちました。
当然父の機嫌がいい訳がありません。
お父さんは矛盾している。そう言う私に
「もう遅いなかぃ」
と、父が言うので、その時、私の脳裏にも担任の先生の言葉が浮かんで来ました。が、私はへこたれませんでした。
多分、昔理想としていた父の言動がほぼ真逆に変わってしまっている事、
父が世の荒波に飲まれているらしい様子を子供ながらに憂えて残念に思ったのです。
「昔のお父さんはどうしたの、理想に燃えていたでしょう、確りしてちょうだい。」
と、父を鼓舞するのでした。
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