Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 45

2019-09-06 10:06:00 | 日記

 そんな私の密かな有様を、二階の窓からこっそりと父が垣間見ていた。私は全く気付かなかったが、父にすると痛く気に障る行動であったらしい。ムッとしたのだろう、後日改めて面と向かって注意された。

「この前のお前の行動だが、」

と、お小言が始まった。…よくない行為だ。という具合である。

「お前あれに似ているんじゃないか。」

と至極真面目な顔付で、父は内心の怒りを堪えていたのか眉間に筋が立っていた。青筋とまでは行ってい無かったが、私には父の怒りが十分に伝わって来た。私は父は何を怒っているのだろう?と父の話や様子に気を配り始めた。私は彼が始めた話が、未だ無断でお八つを食べた時の事についてだと気付いていなかったからだ。

 こっそりとあんな事をして、しかも皆のお菓子を1人で全部食べてしまったのだろう。いけないなぁ。酷く悪い事だ。父はそう言って、私の顔を見て目を見開くと、めっ!と叱りつけた。私は眉根に皺を寄せて父の顔を見上げた。『ああ、あの時のお八つの事か。』私は合点した。

 しかし、と私は思った。あの時は家の大人は誰も皆忙しかったようだ。私のお八つどころの話では無かったんじゃないだろうか?と疑問に思った。私にしてみると、案外差し迫った空腹感に囚われ、お菓子が入っていた容器も私の茶碗と、確かに勝手だったが自分で判断したつもりだった。私は丁度、家の大人が忙しい時にはあれこれ聞きに来ないで、何事も自分で判断してやってみるようにしなさいと、当の本人の父から言われたばかりの頃だった。

「あの時、家の皆は忙しかったんでしょう?。」

私は父に口を切った。お菓子も私の茶碗にあったから、私は父の言いつけ通りいちいち大人に聞く事を避け、自分で食べてよいと判断した。それに空腹に耐えかねていた。という様な事を弁解した。父はちょっと怯んだ。何しろ自分の言いつけだという事を私が言いだしたものだから旗色が悪くなったのだ。

「こっそりと隠れて食べた訳じゃない。」

「お菓子は全部私の茶碗に入っていた。」

そう主張した。食べた後で私があのお菓子を全部食べたという話も母にして置いた。そう父に言うと、父はあれに?聞いていないがなぁと首を捻った。が、お菓子がすべて私の器に有ったという話は功を奏した。父はそれならあのお菓子は皆お前の物だったのかもしれない。と言ったが、子供のお前にあの大きさと数は多すぎないかと切り返してきた。確かに、あの時全部食べると、今迄に無く多い量だと感じた。が、あの時の私はそれも私が育った為に量が増えたのだろうと解釈していた。

 「まぁ、何にしても。」

父は言った。あれも今また家に居ないから、今度帰って来た時にでも話を聞いてからだ。そう言うと、父の私へのお小言は一旦お預けとなった。そうだ、あの日のあの後、母はまた夕飯になる前に家から出奔した。あの日私が最後に見た母は酷く青ざめてやつれた顔をしていた。そして、こんな性に合わない家、…、少しでも、…とても居られない。等、放心の態で独り言の様に呟いていた。傍で彼女の顔を見上げる私にも、如何やら彼女は気付いていない様な有り様だった。


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