Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

竹馬の友、8

2016-12-02 17:07:30 | 日記

 坂道を登りながら、私は来る時に来た角を曲がらずに、このまま真っ直ぐに上り坂を歩いて行って、

次の角で曲がって帰ろうかと思いました。

どちらからでも家に行き着く事が出来たからです。

顔を上げて坂の先を見晴らすと何人かの人が見えました。

 今まで上り坂を上って来て息が切れていたので、続けての上りはきつかったのですが、

敢て私は自分にはきつい上りの道を選ぼうと決めました。

何故なら、人の危難を見て来た後、人の悲しみを傍観して来た後だったからです。

自分だけが楽な環境でいる事が自分ながら許せない気がしたからでした。

『今の自分にはきついけれど、続けて坂道を上ろう。』

あの人達へのお詫や共感も込めて。そう決意してその道への第一歩を上げました。

 それから、私は近所の親子連れが下りて来るのに気付きました。

おばさんはちょっと怖い顔をしています。

『何だか私に怒っているみたい。』

おばさんがこちらを見ている雰囲気がそんな風に見えます。

そう思うと、自然上げた足はくるりと向きを変え、

私の体は元きた道の方向へと向き 、平坦な道へと続く曲がり角で曲がりました。

  曲がってすぐに、バッタリとLさんがやって来るのに出くわしました。

先程と丁度逆の状態、来る者と帰る者が逆になった訳です。

しかも又同じ場所での再会となりました。

 「あれ、Junちゃん!」

行っちゃいけないと言ったのに、向こうに行って来たの?と、彼女に言われて、

私は、ううんと否定の言葉がつい口から出たものの、

 誰の目から見ても私が角から出て来たのは一目瞭然でしたから、

嘘を吐けば直ぐにバレるというものです。

私にもその事は直ぐ分かったのですが、彼女に忠告された手前、

その言い付けを破ったという事実が彼女の思いやりを無駄にしたようで、

彼女に対して非常に悪く思えたのです。

でも、嘘を吐く事はもっと彼女に悪く、自分自信にとっても許せない事でした。

私は他の子にもそうでしたが、紹介されたという事があったので、特に彼女には誠実に接していました。

 「うん、行って来た。」

私は直ぐに頬を赤らめて、視線を落として白状しました。

 Junちゃん、私言ったらだめって言ったでしょう。どうして行って来たの。

駄目だって言ったのに、行くなんて。私の言った事が分からなかったの。…

この時のLさんは普段に無い非常に激しい口調でまくし立てるので、

勢いに驚いた私が視線を上げて彼女の顔を見ると、本当にきっと、目に角が立っていました。

こんな顔の彼女を見るのは初めての事でした。

それで、Lさんが真面目に心底怒っているのだという事実が確実に伝わって来ました。

 これは、相当Lさんのご機嫌を損ねたわと、

私は取り付く島もない自分の立場をひしひしと感じていました。

 ごめんね、Lさんに行かないように言われた事は分かっていたんだけど…。

『母が無理に引っ張って行ったの』。という言葉を飲み込んで、

そんな変な人がJunちゃんのお母さんなんだ、と思われたくないし。と私は口を噤んで黙ってしまいました。

 考えても他に言葉はありません。

「ごめんね、私が悪かったわ。」と謝るしかありません。

もう、Junちゃんがこんな子だったなんて、如何しよう。そんな言葉がLさんから出ると、

私はLさんとの友好関係もこれまでだわ、もう遊ばないと断られてしまうのだわと感じたのでした。

 ごめんね、お家が水に浸かっていると言われて、見たくなってしまったから。

そんな事をもごもご言って、本当にあんな酷い事になっていると知っていたら行かなかったわ。

本当に行かない方がよかった。Lちゃんの言ってくれた事を無駄にしてしまってごめんね。

酷かったわ、本当に酷かった、人が可愛そうで、…

堪えていたのにLさんについ色々と喋ってしまうと、言葉と共に涙が出て来ていたかもしれません。 

 ふと、Junちゃん、最後まで行って来たの?とLさんが言うので、

そう、水の所まで、ごめんね。私がそう言うと、

私も行って見て来る。とLさんは言い出しました。

Junちゃんが行って見て来たんだから私も行くと言うのです。

今度は私が引き止める役に回りました。

 とても酷い事になっているから行かない方がいいよと引き留めます。

特に悲しんでいる人を見るのが可愛そうだ、行かない方がいいよと引き留めました。

 しかし、Junちゃんが見て来たのなら私も言って来ると、Lさんは角の向こうへ勢いよく歩き出して行きました。

私は止めたほうがいいよともう1度言って、佇んだままLさんを見送っていました。

角を曲がって先を見た途端、Lさんの口からあっと声が漏れました。

如何したのかな私は思いましたが、Lさんに駆け寄って角の向こうを見る気も起きず、

佇んで見守る内に、Lさんは向こう側へと家の壁に姿を消してしまいました。

 

 

 

 

 


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