Jun日記(さと さとみの世界)

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赤い服 14

2021-08-31 13:37:02 | 日記

 私の還暦の誕生日のこと、特別に赤い頭巾やちゃんちゃんこ、座布団等用意して祝うという事はしませんでした。それでもこの年は格別な思いがした物です。自分の人生の大きな区切りと感じ、過ぎ去った年月に格別な感情が湧いたと同時にその過去は希薄な物となり、この歳迄自分が来れたという現在、当時の自分という者がこの真新しい時点のスタート地点に立っているという様な、そんな感慨も一入に感じた物でした。

 私は春生まれなので、この年はこの様にフワフワと新鮮な感情の儘、うっとりとした軽い気分を身に纏った儘その儘にカレンダーが過ぎて行きました。そうして夏になり、お盆が近付いた頃の在る日です。その日も私は墓参り用にと、真新しい夏用の服を用意しようと複数のお店を物色しながら歩いていました。

 高齢に近付くに連れ、例年の私は墓所での風や虫などの難儀を避けキュロットやズボン等身に付けると、自然上下を分けた服装でお寺に参拝する事が多くなっていました。今年は如何しようかと考えながら、衣料品店を覗く内に、私はそうだ!と思い付きました。今年は女性らしくワンピースにしよう!と思ったのです。

 若い頃の私の、改まった席にはおニューのワンピースが定番、なので私の若かりし頃の墓参りの服装も、これまたおニューのワンピースが主流だった訳です。昔を今に、というのでも無いのですが、今年は還暦だし、赤い服で行こうと先ず思いました。赤いワンピースでと考えると、自然ふふっと口元から笑いが零れたりします。この時点、ちっとも恥ずかしい等と思っていないのです。

 しかし、探してみても、私が思う様に気に入る様な希望通りの服には出会えない物です。私はお盆に赤いワンピースを着る事を諦め始めました。ワンピースだけを残し、その線で探す事にしました。

 そんな時です、私は或るお店で、カジュアルなオレンジ系の格子柄のワンピースを見付けました。ふんふんと、私は試着室の鏡にその服を合わせた自分の姿を映してみます。いいんじゃないかな、という私の感想が返ってきます。続いて試着室に入り試着してみます。サイズはF、だけに中年メタボ体系の私でもゆとりが有りました。私のメガネに敵いにこやかに購入決定です。ふんふんと機嫌良く帰ってきました。

 さて、お盆当日です。私は臆面もなくオレンジ、朱色のボーダーに、紺と赤の細かい線が格子となったワンピースを着込み、多分夏用の涼しいスパッツを身に付け、折角若作りだからとメイクもそれなりの塗り込みを試みます。普段は入れないハイライトの上にラメ入りのアイシャドウ。オレンジのルージュの上にうる艶の上塗り。と、私は全く気にせず墓参りに臨み、今や何事も無く境内を後にしようとしていました。

 私達が釣鐘堂の横に差し掛かり、菩提寺の山門というような場所に掛かった時です。ふっと前方の視界に入った女の人らしい姿の、その瞳が妙にギラっと敵意に満ちた光を私に放った様で、私はハッとしました。


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