Jun日記(さと さとみの世界)

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うの華3 39

2020-09-16 10:26:20 | 日記
 既に大人になり家庭を持ち、毎日の生活が定着した様でそう差して変化のない暮らしを送るようになった父には、私の様に朝目覚めては来る日の出来事で、これは初めてだと驚き感動し、やたらきょうきょうと騒ぎ立てるという様な、感動的で真新しい出来事や、驚き勇むような変化が無かった様だ。

 そんな彼の日々の中だ、喜々として目を輝かせては纏い付き、自身の未曽有の体験をさも嬉し気に、又は感動的に、毎回報告する子供の私に対して、煩がり、また彼なりにやっかむ気持ちもあったのだろう、

「そんなに新しい事や楽しい事が、毎日のように有って結構な事だな。」

と嘯いたりした。彼は顎を出したような雰囲気で、面白くもなさそうな顔になると、やおら私から離れる時に彼の二つの指で私の頬など軽く握るように摘まんで行った。そんな彼の所作に、ふと、私は子供ながらも父は私の事が気に食わないのだろうか、と感じたりしたものだ。

 が、兎に角、父のいう事は言う事だと思い返すと、私は彼のこの忠告めいた言葉を受けてからは、それ以降、私のその何度目かの真新しい瞬間を心待ちに待ち受けていた。自身の記憶や心に新鮮な状況を味わい、それをきっちりと飲み砕くべく、私は全身全霊でそれを受け止めようと満を持して待っていた。

 今がその瞬間なのだ!。私は私の言葉に反応する祖母の様子、その時の自らの心情の動きに注力していた。物事に集中する私の神経は研ぎ澄まされて来た。するとこの2階の部屋の私の周囲の空気迄もが研ぎ澄まされて、室内の万物を如何にも明瞭に際立たせた。それらは私の目にくっきりと映し出されてくるのだ。私は普段感じた事も無い下瞼の奥にさえ光が差すのを感じた。 

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