Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 153

2021-05-06 18:11:53 | 日記
 それですよ、それ。お義父さん、この機会にとっちめてやりましょうよ、あの子。嫁は息巻いた。

「この儘では下の子が不憫で。」

そうね、可哀想に。気の毒だったわ、あの子。嫁と彼女の娘逹は、口々に舅で有り祖父で有る彼に訴えた。

「あの子はあの話を未だ聞いていないんでしょう。」

嫁が口にすると、舅はそうだと言う様に黙った儘でコクリと頷いた。

「何時迄も自分ばかりが男の子、この一家の惣領息子のつもりでいて。そんなあの子の大きな態度も、この辺で大概にしてもらわないと。」

よろしいでしょう、お義父さん、もうあの子があの事を知っても。嫁は続けた。世間は勿論、この子達だってもう疾うに知っているという事実ですよ。

「よろしいですね。」

そう彼女は念を押すように繰り返すと、舅に事の確認をする為に彼の目の奥をじいっと覗き込んだ。

 舅はやや逡巡した。その気配の中彼はただ俯くと無言で頷いた。これは彼が嫁の言葉に同意し、彼女のこれから仕様とする事に彼が許可を与えた事を示唆していた。嫁は舅のこの態度を見て取ると、すっくと椅子から立ち上がった。さぁ、行きましょう。もう良い頃合いでしょう。彼女は自分の子供達を促すと、店の主人に食事の代金を払うべく、彼女の財布を入れてある自分の懐に手を伸ばした。 

「ああ、いいよ、いいよ。」

代金は私が持っておくから。透かさず彼女に言葉を掛けた舅に、まぁ、申し訳ないと嫁も素直に応じた。

 では、私逹これから参ります。行ってきます。頑張ってくるね、お祖父ちゃん。ごゆっくりと、彼女達は口々に彼に言葉を掛けると、皆で連れ立ってさっさと食堂を後にした。

 「大した御器量でやすなぁ、旦那さんの息子さんのご内儀連は。」

何方もそうでやすなぁと、主人は客の男性に声を掛けた。客はなぁに、それ程でも無いよとその強張っていた表情を緩めて店主に応えた。

「聞こえてきたお話の様子では、あちらのお子さん達は未だなんですな。」

未だ何もご存知じゃ無いんですね、と店主は客に語り掛ける。ああと客は頷いた。下の子は会った事がある。おや、そうなんでと店主が受けると、意味は分からなかったようだ、見ただけだよ。お互いにね。と、初老の男性客は答えた。

うの華3 152

2021-05-06 17:21:32 | 日記
 舅は嫁に勧められるままに椅子に腰かけると、にこにことした笑顔で彼の2人の孫の顔を交互に見比べていた。が、ふっと目前に視線を落とした。そんな彼は寂しそうな表情を浮かべると物思いに沈み、続いて嘆息した。

 一緒にテーブルにいた姉妹はお互いに見詰め合うと目配せした。2人はそんな祖父を気遣う様にそれと無くちらちらと彼に視線を注いだ。彼はそれと気付くと、 自分の孫2人に向けて元気な笑顔を作りニコニコと交互に見返して見せるのだった。

 孫達の母は、そろそろ時計の時刻が気になりだしていた。彼女の目は店内の柱にある振り子時計に釘付けとなり、これからの段取りを考えるのに余念が無い風情であり、周囲の事は殆ど上の空の体だった。そんな彼女の時計に注ぐ視線に気付いた舅は、何かあるのかいと小声で彼女の姉娘に尋ねた。こくりと頷いた姉娘は深刻そうな瞳で彼を見詰めると困った表情になり、話はお母さんからと言うと、横にいた母へ視線を向け片手でその袖を引いた。彼女の母で有る嫁は、何ですと怪訝んな表情でそんな娘に応対したが、舅で有る祖父が何かあったのかと尋ねていると長女が説明すると、はあんと合点して彼女は舅に向けて話し出した。

 「実は、三郎さんの所のお子さん達が…、」

と、彼女が渋い顔をして話し始めると、えっ、と舅は驚いた。彼は、知っていたのかいと言うと彼女の顔やその子供逹の顔を見詰めた。それに対して嫁はええと相槌を打つと、「先程家の前で出会いました。」とその時の事を口早に彼に説明した。

 それでか、と舅は合点した。

「道理でよく出来た話だと思った。」

ふふっと可笑しそうに彼は笑った。そうしてやれやれと呆れた様に言った。財など築く物では無いね。自分の為にも子孫の為にも。彼はそんな言葉を2人の孫娘に面白そうに呟いてみる。

「それぞれのお母さん方も、相当に裕福な家の出同士なのになぁ。」

愛想よく舅がいうと、まぁ、お義父さんたらと嫁は恥じらってほほほと笑った。

「孫の父親逹だって、それぞれが確りした職業に就いているのに、」

この先の自分や兄弟の行く末が気になるとは…。三郎の所も、はてさて、如何したものやら。舅は苦笑いして、冗談の様に目の前の嫁に愚痴を零してみる。