*『原発ゼロ』著者 小出裕章 を複数回に分け紹介します。12回目の紹介
『原発ゼロ』著者小出裕章
原発を廃絶させるまで、私は闘いたい。
原発は、都会では引き受けることができない寛大な危険を抱えています。「原子力マフィア」はまさか大事故は起きないだろうと高を括り、人々に対して「原発 は決して大事故を起こさない」と嘘をつきました。それでも不安を払拭できない彼らは、原発を過疎地に押し付けたのです。私は破局的な事故が起きる前に原発 を廃絶させたいと活動してきましたが、福島第一原発事故が起きてしまいました。私の人生すべてが否定されてしまい、自分の非力を無念に思わずにはいられま せんでした。しかし、この事故を忘れまいとする人々もまだ大勢いてくれることを、本当にうれしく思います。被害者の苦しみを少しでも減らし、嘘をついてき た巨大な権力を処罰するために、私自身も決して挫けずに闘いたいと改めて思います。
----------------
**『原発ゼロ』著書の紹介
「第2章 もはや東京の一部も放射線管理区域」P87~ より
「新基準」は原発再稼働のための手続きでしかない
原発を再稼働するにあたっては、原子力規制委員会がつくった新規制基準(新基準)を、まずはクリアしなければならないことになっています。新基準が施行されたのは2013年7月ですが、その後これまでに、東京電力柏崎刈羽原発を含む9原発16基が適合性審査を申請しています。(表6)
審査が進んでいるのは柏、大飯、高浜、伊方、川内、玄海の6原発に設置される10基で、このうち柏発3号機と高浜原発3、4号機は基準を満たしていないカ所を指摘されて現在工事中ですが、原子力規制委員会は2014年1月の時点で、「早ければ今春には”合格第一号”が出る」という見解を示しました(『産経デジタル』2014年1月20日)。
原子力規制委員会は、この新基準を「世界で一番厳しい基準」だと自負しています。でも私は、どうしてこの新基準をつくれたのかが、まずわかりません。新基準をつくらなければいけなくなったのは、福島第一原子力発電所の事故があったからですが、今はまだ猛烈な放射能で建屋に人間が入ることができず、どこがどう壊れているのか、溶けた炉心がどこにあるのかがわかっていない。
そして、原子炉が壊れたのは地震が原因なのか、津波が原因なのか、あるいはまた例の要因なのかという、そういうこともわかっていない。それでどうやったら新しい基準がつくれるのでしょうか。
私は事故の検証作業に少なくとも10年はかかると思います。ですからその間、新しい基準はつくれないし、原発を動かすこともできないはずです。
新しい基準ができれば、あたかも安全な原発ができるかのような期待があるようですが、新しい基準を「安全基準」としないで「規制基準」としたのは、原発が絶対に安全だなどとは言えないことが、福島の事故で示されたからです。「これを守れば安全です」というのではなくて、「ここまで守れば容認しましょう」ということにしたのです。そして、そもそも事故原因がわかっていないのですから、本当は対策を打ちようはずがありません。その上、新基準をつくり、運用している人たちは、まるまる「原子力マフィア」の一員です。
原子力規制委員会は、2012年9月に原子力安全・保安院から移行する形で発足した組織なのです。ですから例えば、発足して半年も経たない2013年2月上旬、原子力規制委員会の事務局メンバーが、内部資料の断層評価報告書案をこっそりと日本原子力発電に渡していたことが明るみに出ましたが、これは当然のことなのです。彼らとすれば、以前からやっていたのと同じことをしただけなのであって、体質は何も変わっていないのです。
原発は大きな機械ですから、壊れる要因は山ほどあります。人類はこれまで、炉心が溶けて大量の放射性物質を放出する事故を、4回経験しています。最初は英国のウインズケールにあるプルトニウム生産炉で1957年に、その次が1979年に起きた米国のスリーマイル島原子力発電所事故。そして1986年の旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故と、2011年の福島第一原子力発電所事故。
福島第一原子力発電所の事故は地震と津波が引き金になりましたが、他の3つの事故が起きた時には、地震も津波もありませんでした。しかし、そのどれもが予測を超える要因によるものでした。ですから、もし5回目が起こるとすれば、それは別の要因でしょう。
機械とは、そういうものなのです。だから例えば、高浜原発3、4号機の審査を行うにあたり、原子力規制委員会は津波の想定を従来よりも高く見直すよう求め、関西電力はそれに適合する防潮設備の建設を急ピッチで進めていますが、津波の想定を最大値にしたからといって、「安全が確保された」なんて言うのは馬鹿げています。
また新基準では、第二制御室など、つくるのに時間がかかりそうな設備については「猶予」というのを設けていますが、事故というのは何が要因で起こるか予測できませんので、ひょっとしたら次に起きるのは、第二制御室が必要でない事故かもしれない。でも、必要な事故かもしれないのです。
※続き『原発ゼロ』著書の紹介は、12/16(水)22:00に投稿予定です。