*『原発ゼロ』著者 小出裕章 を複数回に分け紹介します。11回目の紹介
『原発ゼロ』著者小出裕章
原発を廃絶させるまで、私は闘いたい。
原発は、都会では引き受けることができない寛大な危険を抱えています。「原子力マフィア」はまさか大事故は起きないだろうと高を括り、人々に対して「原発 は決して大事故を起こさない」と嘘をつきました。それでも不安を払拭できない彼らは、原発を過疎地に押し付けたのです。私は破局的な事故が起きる前に原発 を廃絶させたいと活動してきましたが、福島第一原発事故が起きてしまいました。私の人生すべてが否定されてしまい、自分の非力を無念に思わずにはいられま せんでした。しかし、この事故を忘れまいとする人々もまだ大勢いてくれることを、本当にうれしく思います。被害者の苦しみを少しでも減らし、嘘をついてき た巨大な権力を処罰するために、私自身も決して挫けずに闘いたいと改めて思います。
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**『原発ゼロ』著書の紹介
「第2章 もはや東京の一部も放射線管理区域」P81~ より
国民に犠牲を強いるだけの除染対策
放射能まみれになっている広大な土地を何とか取り戻そうと、国はこれまで厖大な国費を除染に注ぎ込んできました。復興予算(平成25年度東日本大震災復興特別会計予算概算決定総表)を見てみると、2012年度は4547億円、2013年度は6220億円という額が、それぞれ「除染等」という項目の横に書かれてあります。
合計すると、およそ1兆1000億円です。毎年この予算の半分弱を、国が直轄で行わない被災地の除染に充てるよう福島県が管理する「基金」に積み立てているのだそうですが、これが2012年度には4割未満しか使われていないと言うのです。除染作業が進んでいないんですね。
それで、使わなかった6割のお金は、当然次年度に繰り越されたわけですが、どうしたことか、2013年には、また新たな予算がほぼ従来通りに計上されて積み増しされたという不思議なことがありました。
ともあれ、どうしてそんなに除染が進まないのか、地元市町村の担当者に尋ねたという記事が朝日新聞デジタル版(2013年7月12日)に掲載されていました。それによれば、環境省の除染のガイドラインが厳しすぎて、なかなかやりたいようにやれないようです。そして、「判断の権限を市町村に与えれば除染は加速する」とも行っている。
それで環境省に聞いてみたところ、「東電が認めない手法は認められない」という答えが返ってきたと言うのです。国が直轄しない除染費用は東京電力が負担することになっていて、環境省が国費で立て替えている404億円の除染費用を東京電力に請求しているのですが、今現在支払いは滞っている状態です。だから環境省としては、「東電が支払いを拒まないよう交渉するのは当然」なのだと言う。呆れた話です。
要するに、国は国民のことよりも、東電を救済することばかりを考えているのです。国としては、被害者の手前があるので予算はそれなりに計上するけれども、その予算を実際には使いにくくすることによって、東電の出費を抑えてあげようと、そういうことではないかと思えてしまいます。
さらに、2013年12月、今後かかる除染費用はすべて国が負担する、除染のゴミを保管する中間貯蔵施設の整備費や建設費も国が負担する、ということを決めました。これから数十年、あるいは100年かけたとして、それでも終わるかどうかもわからない。これからかかる費用も5兆円とは言われていても、本当にそれで済むのかどうか、確かなことはわかりません。けれども、この後はいくらかかかろうが、国が払います、と言ったわけです。そしてこの決定に先立つタイミングで、5兆円という見積もり額が、急に半分の2・5兆円に減りました。
これはどういうことかー。
かなり衝撃的でしたのでご記憶の方も多いと思いますが、この前の月の11月には、原子力規制委員会が、「年間20ミリシーベルト」以下の被曝なら、健康に大きな影響はないと言いました。実はこのことと関係しているのです。
つまり、こういうことです。<東電を再建させたい⇒除染費用を負担してあげよう⇒でもお金がかかる⇒なんとか安く済ませることができないか⇒除染作業を減らせるようにしたい⇒そうだ、年間1ミリシーベルトになるよう除染しようとしていたが、年間20ミリシーベルトまでなら安全だということにしてしまおう>
そして、犠牲になるのは国民の命です。政府はまた、帰還困難区域を中心とした地域の住民に、移住する選択肢を与えるという支援策も打ち出しましたが、実はこれも、除染費用を節約するための一つの作戦です。あまりに汚染されたところは、お金も時間もかかるので当面様子をみることにして、汚染の少ないところに集中しようというわけです。
それで、さらに続きがあります。<これで費用を半分に削れたとしても、まだ2・5兆円・・・⇒そうだ、原子力損害賠償機構が持っている東電株の売却益を使おう>
この「売却益」というのは、株を将来売った時に得られる利益のことです。今、保有する東京電力株の評価額は1兆円。これが将来には2・5倍の2・5兆円に値上がりするだろうと見込んだわけです。でも、この先どうなるともわからないような東京電力です。もし政府の期待通りに値上がりしなければ、開いた穴は、私たちが支払う税金か電気代で埋めるしかありません。
また、実際に得ていない利益を見込んで予算を立てているのであって、当面かかる費用を支払うための財源が必要です。この財源は何かというと、これも私たちが電気代と一緒に払っている電源開発促進税です。いずれにしても、身を切るのは国民だということです。
※続き『原発ゼロ』著書の紹介は、12/15(火)22:00に投稿予定です。