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三重県情報公開審査会 答申第274号 特定法人への廃掃法第18条の報告の徴収又は…

2007年05月21日 | 第三者不服申立て
答申第274号
答    申

 
1 審査会の結論
 実施機関の行った決定は、妥当である。
 
2 異議申立ての趣旨
 異議申立ての趣旨は、異議申立人と異なる開示請求者が平成18年12月28日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定法人への廃掃法第18条の報告の徴収又はそれに関連する報告等を求めた状況の分かる資料」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成19年2月6日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
 
3 本件対象公文書
  報告書(平成18年12月19日付け)
 
4 本件異議申立について
実施機関は本請求に対し、本件対象公文書中に異議申立人の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、異議申立人に対して意見照会を行い、本件対象公文書を部分開示する旨の決定を行った。
個人情報については、他で公になっていない個人識別情報を非開示としたが、本件対象公文書については、公にすることによって、周辺住民の不安を緩和し安全安心の確保につながることが相当程度期待できることから、当該情報の開示は高い公益性を有していると考え、条例第7条第3号ただし書ハに該当するため開示と判断し、異議申立人に対して条例第17条第3項の規定に基づき本決定をした旨の通知をしたところ、本件異議申立が提起されたものである。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成19年2月26日付けで、本件異議申立に係る決定がなされるまで開示を停止する旨の通知を行っている。
 
5 実施機関の説明要旨
 実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○ 法人の役員氏名については、商業登記簿等で閲覧できるものであり、条例第7条第2号ただし書イに該当する。
○ 10年以上前に終了している取引であり、取引先の不法投棄に直接関与した記述はないが、本件投棄事案については、社会的関心が非常に高く、処分委託した事実だけでも明らかになることによって、異議申立人の利益を害することは十分に考えられることから、条例第7条第3号本文に規定する法人情報に該当する。しかしながら、不法投棄事案に対する社会的関心は非常に高く、不法投棄された廃棄物の実態等を明らかにすることは、周辺住民の安全・安心の確保につながることから高い公益性を持つ情報であり、条例第7条第3号ただし書ハにより、公益上開示することが必要と認められる。

6 異議申立て理由
異議申立人は、以下のように主張し、本決定の取り消しを求めるというものである。
役員氏名は個人を識別できる情報であり、非開示とされるものである。また、本件対象公文書が開示されることにより、異議申立人が不法投棄に直接関与していたかのような誤解を与えるものであり、開示されることによって異議申立人の競争上の利益と社会的な信用を損なうものである。さらに、異議申立人が処分委託した廃棄物は、人の生命、身体、健康又は財産に対し危害を生じさせるものでも、生じさせるおそれのあるものでもなく、条例第7条第3号ただし書ハに該当しない。
 
7 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
 
本決定において、実施機関は、特定法人の役員の生年月日を条例第7条第2号本文に該当するとして非開示としているが、この点について争いはない。当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、条例第7条第2号、第3号の該当性について、以下のとおり判断する。
 
(2)本件対象公文書について
本件対象公文書は、実施機関より異議申立人に対して通知された「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第18条第1項に基づく報告の徴収について」に対して、異議申立人から提出された平成18年12月19日付けの「報告書」である。
異議申立人は、本件対象公文書が、10数年以前には規定のなかった廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)第19条の6に基づいて、法的根拠がないにもかかわらず提出を強制されたものであるとし、その開示に支障があると主張している。
法第19条の6は平成12年の改正時に追加されたものであるが、本件対象公文書は法第3条及び第18条に基づいて報告を求められたものであることが認められる。
また条例において、公文書とは、実施機関の職員が職務上取得した文書であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものと規定されていることから、実施機関が、本件対象公文書を開示請求の対象として特定し、その開示非開示の決定を行ったことは妥当であり、異議申立人の主張には理由はない。
 
(3)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。 そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
 
(4)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
開示とされた情報は、異議申立人の過去の代表取締役の氏名である。個人の氏名については、本条本号に該当する個人情報であるが、代表取締役の氏名は商業登記簿等で閲覧できることから、本条本号ただし書イに規定する法令の規定により公にされている情報に該当すると認められることから、これを開示するとした実施機関の判断は妥当である。
 
(5)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
 
(6)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書には、異議申立人が特定の廃棄物処分業者に処分委託していた事実があること、異議申立人がその処分委託は適法であったと認識していること、当該処分委託は10数年以前に終了しており記録が存在しないことが記載されている。
実施機関は、本件対象公文書に記載されている処分委託そのものが10数年以前に終了していること、当該処分業者が現在休眠状態にあること、当該処分業者が行った産業廃棄物不法投棄に異議申立人が直接関与したことを示す記述がないことから、公にすることによって直ちに異議申立人の利益を害するとは認められないが、本件投棄事案については、社会的関心が非常に高く、処分委託した事実だけでも明らかになることによって、異議申立人の利益を害することは十分に考えられることから、条例第7条第3号本文に規定する法人情報に該当すると判断している。
これに対して異議申立人は、当該処分委託契約は10数年以前に終了しているものではあるが、当該処分委託に際しては委託先が適法に事業を行っていることを確認した上で契約していたものであることから、異議申立人は適法な事業活動をしていたにもかかわらず、本件対象公文書が開示されることにより、異議申立人が当該処分業者の不法投棄に関与したかの誤解を受けるおそれがあり、そのことによって競争上の地位その他の不利益を受けるものであることを理由に条例第7条第3号本文に規定する法人情報に該当すると主張している。
一般に、法人間の取引に関する情報は、開示することにより当該法人の事業活動が損なわれるものであると認められる情報であり、本事案では、開示することにより、不法投棄を行っていたとされる当該処分業者との取引関係が明らかにされることにより、当該法人の社会的評価を損なうと認められることから、条例第7条第3号本文に規定する非開示とできる法人情報に該当する。この点で、実施機関と異議申立人には争いはないと認められる。
 
次に、条例第7条第3号ただし書の該当性について判断する。
実施機関は、本件対象公文書は、当該処分業者の不法投棄について、投棄されたものの一部ではあるが明らかにするものであり、公にすることにより周辺住民の不安を緩和し、ひいては住民の安全・安心の確保につなげることができることから、高い公益性を有する情報であると考え、条例第7条第3号ただし書ハに該当し、開示すべきであるとしている。
これに対して異議申立人は、異議申立人の排出した廃棄物は、人の生命、身体、健康又は財産に対して危害を生じさせるものでも、生じさせるおそれのあるものでもないとして、条例第7条第3号ただし書イに該当するものではなく、同条同号ただし書ハにも該当しないと主張している。
当該不法投棄事案については、実施機関による安全性確認調査によって現地に投棄された産業廃棄物の実態と周辺環境への影響に関する調査結果が明らかにされており、差し迫った生活環境保全上の重大な支障のおそれはないとの意見が学識経験者等から出されていることから、異議申立人の処分委託が同条同号ただし書イに該当するとはいえない。また、当該処分委託が違法又は不当な事業活動であったとはいえないことから、当該処分委託に関する情報が同条同号ただし書ロに該当しないと認められる。
しかしながら、当該不法投棄事案については、より一層の実態解明が周辺住民から求められていること、特定の廃棄物の処分に際しては、当該事案当時には求められていなかった遮水シート等の設置が、現在では義務付けられていることなど、処理を誤れば問題となりうる性格を持っていることから、本件対象公文書に記載されている廃棄物に関する情報を明らかにすることには公益性があると考えられる。
よって、条例第7条第3号ただし書イには該当しないが、同ただし書イに準ずるものとして公益上公にすることが必要であると認められることから、同条同号ただし書ハに該当するとして実施機関の行った決定は妥当であると判断する。
 
(7)結論
よって、主文のとおり答申する。
 
8 審査会の処理経過
  当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。

別紙1
審 査 会 の 処 理 経 過


年 月 日処 理 内 容
19. 2.26・諮問書の受理
19. 2.28・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼
19. 3. 8・非開示理由説明書の受理
19. 3. 9・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、
 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
19. 3.20・異議申立人の意見書受理
19. 3.26・実施機関に対して意見書(写)の送付
19. 4. 6・実施機関の反論書受理
19. 4. 9・異議申立人に対して反論書(写)の送付
19. 4.13・実施機関より参考資料の提出
19. 4.19・異議申立人の再反論書受理
19. 4.20・実施機関に対して再反論書(写)の送付
19. 4.23・書面審理
・異議申立人の口頭意見陳述
・実施機関の補足説明
・審議                (第269回審査会)
19. 5. 9・実施機関の反論書受理
19. 5. 9・異議申立人に対して反論書(写)の送付
19. 5.18・異議申立人より三度び反論書の提出
19. 5.18・実施機関に対して三度び反論書(写)の送付
19. 5.21・審議
・答申                (第271回審査会)


三重県情報公開審査会委員


 職  名氏    名役  職  等
 会  長岡 本  祐 次元三重短期大学長
※会長職務代理者樹 神    成三重大学人文学部教授
※ 委  員伊 藤    睦三重大学人文学部准教授
※ 委  員渡 辺  澄 子元三重中京大学短期大学部教授
 委  員藤 野  奈津子三重短期大学准教授
 委  員丸 山  康 人四日市看護医療大学副学長
 委  員室 木  徹 亮弁護士


なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。


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