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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

東京都情報公開審査会 答申第401号 「事故報告書」ほか51件

2008年03月03日 | 法人等に関する情報
諮問第483号
答申


1 審査会の結論
 「事故報告書」ほか51件の一部開示決定において非開示とした部分のうち、別表に掲げる部分については開示すべきであるが、その他の部分については非開示が妥当である。

2 異議申立ての内容
(略)


3 異議申立てに対する実施機関の説明要旨
(略)


4 審査会の判断
(1)審議の経過
 審査会は、本件異議申立てについて、以下のように審議した。
年月日審議経過
平成19年 7月27日諮問
平成19年 9月14日実施機関から理由説明書収受
平成19年 9月18日実施機関から説明聴取(第82回第二部会)
平成19年10月19日異議申立人から意見書収受
平成19年10月22日審議(第83回第二部会)
平成19年11月21日審議(第84回第二部会)
平成19年12月21日審議(第85回第二部会)
平成20年 1月29日審議(第86回第二部会)


(2)審査会の判断
 審査会は、異議申立ての対象となった公文書並びに実施機関及び異議申立人の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。

ア 本件対象公文書について
 本件異議申立てに係る対象公文書は、平成15年度から本件開示請求日までに、特定の7市に所在する特別養護老人ホーム及び介護老人保健施設(以下「本件対象施設」という。)から東京都に報告のあった別表に掲げる52件の事故報告書(以下「本件対象公文書1~52」という。)である。

イ 事故報告について
 特別養護老人ホームは、老人福祉法(昭和38年7月11日法律第133号)15条に基づき設置された老人福祉施設であり、また、介護保険法(平成9年 12月17日法律第123号)86条に基づき指定介護老人福祉施設として都道府県知事から指定を受けた介護保険施設である。
 介護老人保健施設は、介護保険法94条に基づき都道府県知事から開設許可を受けた介護保険施設である。
 これらの施設における事故発生時の対応については、特別養護老人ホームに関しては、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第39号、以下「指定介護老人福祉施設運営等基準省令」という。)35条2項によって、また、介護老人保健施設に関しては、介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第40号、以下「介護老人保健施設運営等基準省令」という。)36条2項によって、サービスの提供により事故が発生した場合は、速やかに市町村、入所者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じる旨規定されている。
 一方、東京都への事故報告については、東京都から上記施設への通知(平成14年5月30日付14福高施第354号)によって、入所者及び利用者の死亡等、重大な事故が発生した場合等については、区市町村のみではなく東京都にも報告するよう各施設に依頼しており、本件対象公文書も本通知に基づいて報告されたものである。

ウ 審査会の審査事項について
 審査会が本件対象公文書を見分したところ、非開示とした部分には、概ね次の事項が記載されている。

(ア)利用者に関する情報
 (a)氏名及びイニシャル、性別、生年月日、年齢、住所、電話番号、前住所、本籍地、被保険者番号、保険者名、保険者番号、家族構成、連絡先として指定された関係機関名及びその担当者、(b)要介護度、既往症、普段の状況、受診及び治療に関する記述、(c)入所経緯、(d)履歴

(イ)事故の経緯に係る情報
 (a)発生年月日、報告年月日及び都の収受年月日に関する記述、発生場所、(b)事故の原因や経過に関する記述、利用者の言動、心身の状況及び状態に関する記述、診療、処置等に関する記述、(c)担当医氏名、(d)治療した医療機関の名称、その所在地及び電話番号、(e)家族との連絡状況に関する記述、(f)施設の今後の対応策等、(g)損害賠償及び利用者家族と施設との話し合いに関する記述、(h)東京都の指導内容

(ウ)施設に関する情報
 (a)事業者(法人)名及び代表者名、施設名(他の情報と照合することにより施設名が特定可能な情報を含む。)、所在地、施設長名、事業所番号、電話番号、文書番号及び記号、(b)職員氏名、嘱託医氏名、(c)保険会社名、(d)印影

 実施機関は、その理由説明書によると、前記(ア)のすべて、(イ)のすべて、(ウ)(a)及び同(b)が条例7条2号に該当し、前記(イ)(d)、(ウ)(a)及び同(c)が同条3号に該当し、前記(ウ)(d)が同条4号に該当するとしている。
 このうち、異議申立人は、異議申立書及び異議申立人から提出された意見書によると、前記(ア)(a)、同(c)、同(d)、(イ)(c)、(ウ)(b)及び同(d)については争わないとしていることが認められる。
 したがって、審査会は、前述の異議申立人が争わないとしている部分以外の非開示部分の妥当性について判断する。

エ 条例7条2号該当性について
 条例7条2号本文は、「個人に関する情報で特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を非開示情報として規定しており、同号ただし書において、「イ 法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」、「ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」、「ハ 当該個人が公務員等…である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定している。

(ア)利用者に関する情報のうち要介護度、既往症、普段の状況、受診及び治療に関する記述
 審査会が見分したところ、当該部分には、事故に係る施設利用者の認定された要介護度、病名、病状、日頃の言動や身体状況等が詳細に記述されている。これらの情報は、当該利用者の心身、健康状態に直接かかわる極めて機微にわたる私的な情報で、通常、他人に知られたくない情報である。したがって、これらの情報は、特定の個人を識別することができるとまではいえないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であり、条例7条2号本文に該当すると認められる。また、その内容及び性質から同号ただし書のいずれにも該当しない。

(イ)事故の経緯に係る情報
a 発生年月日、報告年月日及び都の収受年月日に関する記述、発生場所
 審査会が見分したところ、当該部分には、事故の発生年月日、施設が当該事故を東京都又は関係市に報告した年月日、当該報告書を東京都が収受した年月日及び当該事故が発生した施設内の場所に関する情報が記載されている。
 このうち、発生年月日等の日付に関する部分について検討すると、本件については、当該施設名及び当該事故に係る利用者の搬送先・治療先の医療機関名等が公表されていないこと、また、当該施設の所在市までは既に開示されているとはいえ、本件開示請求の対象となった7市域における特別養護老人ホーム及び介護老人保健施設の設置状況を審査会が調査した結果、いずれの市域にも複数の施設の存在が確認されたことを勘案すると、新たに発生年月日等の日付が公にされても、直ちに当該事故に係る特定の利用者を識別できるとまでは認められず、条例7条2号本文には該当しない。
 次に、発生場所について検討すると、フロア階数やすべての施設に存在し得る標準的な設備名称等については、前述の発生年月日等と同様に条例7条2号本文には該当しないものと認められるが、特定の施設名を冠した設備名及び特定の施設にのみ存在する設備名等については、当該事故に係る特定の施設が識別され、上記で開示すべきとした発生年月日等、既に開示されている救急車の到着・出発時刻及び病院への到着時刻等の事故の経過に係る情報等と照合すると、当該事故に係る利用者を識別することができると認められるため、同条2号本文に該当する。また、その内容及び性質から同号ただし書のいずれにも該当しない。

b 事故の原因や経過に関する記述、利用者の言動、心身の状況及び状態に関する記述、診療、処置等に関する記述
 審査会が見分したところ、当該部分には、事故発生前後の利用者の行動や状況及び施設や医療機関による対応等の経過並びに事故の概要及びその原因に関する施設の見解が記載されている。
 このうち、事故発生に至るまでの当該事故に係る利用者の行動、事故発生後の当該利用者の症状や言動、医療機関での診療内容と処置内容等が詳細に記載されている部分については、当該利用者の心身、健康状態に直接かかわる極めて機微にわたる私的な情報で、通常他人に知られたくないものである。したがって、これらの情報は、特定の個人を識別することができるとまではいえないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であり、条例7条2号本文に該当すると認められる。また、その内容及び性質から同号ただし書のいずれにも該当しない。
 しかしながら、事故の概要及びその原因に係る記載のうち上記以外の部分については、当該事故の内容を端的に示したものにすぎず、当該利用者の心身、健康状態に直接かかわる極めて機微にわたる私的な情報とまでは認められないため、これを公にしても、個人の権利利益を害するおそれがあるとは認められず、条例7条2号本文には該当しない。

c 治療した医療機関の名称、その所在地及び電話番号
 審査会が見分したところ、当該部分には、当該事故発生後、当該利用者が搬送され治療を受けた医療機関の名称、その所在地及び電話番号が記載されている。
 特別養護老人ホームは、指定介護老人福祉施設運営等基準省令28条及び29条により、入院治療を必要とする入所者のために、また、介護老人保健施設は、介護老人保健施設運営等基準省令30条及び31条により、入所者の病状の急変等に備えるために、あらかじめ、協力病院を定め、当該施設の見やすい場所に掲示することが義務付けられている。
 したがって、医療機関による治療が必要となった利用者の多くは、上記協力病院を受診することが推察されることから、当該利用者が治療を受けた医療機関名、その所在地及び電話番号については、公にすることにより、本件対象施設が識別され得ると認められ、その結果、前記aの特定の施設を識別することができる発生場所と同様の理由により、当該利用者を識別することができると認められるため、同条2号本文に該当する。また、その内容及び性質から同号ただし書のいずれにも該当しない。

d 家族との連絡状況に関する記述
 審査会が見分したところ、当該部分には、事故に係る利用者の家族の氏名及び当該利用者との関係を示す記述、当該家族と施設との連絡の経緯が記載されている。
 家族の氏名及びその利用者との関係を示す記述については、当該家族個人に関する情報で特定の個人を識別できる情報であり、条例7条2号本文に該当する。また、その内容及び性質から同号ただし書のいずれにも該当しない。
 また、当該家族と施設との連絡の経緯には、必ずしも当該利用者の意思の確認を経たとは言えない事故後の治療方法等についての家族の率直な希望や、当該利用者の病状に対する家族の見解が記載されており、これらの情報は、当該家族の名誉に係る機微な情報で、通常他人に知られたくないものである。したがって、これらの情報は、特定の個人を識別することができるとまではいえないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であり、条例7条2号本文に該当すると認められる。また、その内容及び性質から同号ただし書のいずれにも該当しない。

e 施設の今後の対応策等
 審査会が見分したところ、当該部分には、本件対象施設が事故後にまとめた、再発防止に向けての今後の対応策が記載されている。
 このうち、当該事故に起因する利用者の身体的状況、今後の治療方法及び日常生活動作の推移等が具体的に記載された部分については、当該利用者の名誉や資質に係る機微な情報で、通常、他人に知られたくない情報であると認められる。したがって、これらの情報は、特定の個人を識別することができるとまではいえないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であり、条例7条2号本文に該当すると認められる。また、その内容及び性質から同号ただし書のいずれにも該当しない。
 しかしながら、上記以外の部分については、施設内における事故防止の対策を端的に示したものであり、当該部分には、当該利用者の具体的な身体状況や治療方法等を推察できる情報は含まれていないことから、これを公にしても、個人の権利利益を害するおそれがあるとは認められず、条例7条2号本文には該当しない。

f 損害賠償及び利用者家族と施設との話し合いに関する記述
 審査会が見分したところ、当該部分には、事故に係る利用者の家族の施設に対する損害賠償請求に係る記述や、当該家族と当該施設との話し合いにおいて、当該家族が行った治療費の請求に係る率直な意見及び事故原因に対する推測に基づく見解等が具体的に記載されている。これらの情報は、当該利用者及びその家族の名誉に係る機微な情報で、通常、他人に知られたくない情報である。
 したがって、これらの情報は、特定の個人を識別することができるとまではいえないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であり、条例7条2号本文に該当すると認められる。また、その内容及び性質から同号ただし書のいずれにも該当しない。

g 東京都の指導内容
 審査会が見分したところ、当該部分には、東京都が本件対象公文書による事故報告を受けた際に、施設の今後の対応等に不明な点がある場合等に指導を行った内容が記載されている。
 このうち、当該事故に係る利用者の事故当日の身体状況、事故後の治療方法及び日常生活動作の推移等が具体的に記載された部分については、当該利用者の名誉や資質に係る機微な情報で、通常、他人に知られたくない情報であると認められる。したがって、これらの情報は、特定の個人を識別することができるとまではいえないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であり、条例7条2号本文に該当すると認められる。また、その内容及び性質から同号ただし書のいずれにも該当しない。
 しかしながら、上記以外の部分については、施設側の再発防止に関する計画の一部に対する東京都の意見が記載されたものであり、当該部分には、当該利用者の具体的な身体状況や治療方法等を推察できる情報は含まれていないことから、これを公にしても、個人の権利利益を害するおそれがあるとは認められず、条例7条2号本文には該当しない。

(ウ)施設に関する情報のうち、事業者(法人)名及び代表者名、施設名(他の情報と照合することにより施設名が特定可能な情報を含む。)、所在地、施設長名、事業所番号、電話番号、文書番号及び記号
 審査会が見分したところ、当該部分には、本件対象施設の名称及びそれを運営する法人名とその代表者名、当該施設の所在地、電話番号等が記載されている。これらの情報は、事故が発生した特定の施設を識別することができる情報であり、前記(イ)aの特定の施設を識別することができる発生場所と同様の理由により、当該利用者を識別することができると認められるため、同条2号本文に該当する。また、その内容及び性質から同号ただし書のいずれにも該当しない。

オ 条例7条3号該当性について
 条例7条3号本文は、「法人その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれると認められるもの」を非開示情報として規定している。
 また、同号ただし書は、「イ 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命又は健康を保護するために、公にすることが必要であると認められる情報」、「ロ 違法若しくは不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある支障から人の生活を保護するために、公にすることが必要であると認められる情報」、「ハ 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある侵害から消費生活その他都民の生活を保護するために、公にすることが必要であると認められる情報」のいずれかに該当する情報については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定している。
 施設に関する情報のうち、保険会社名については、本件対象施設が損害賠償保険契約を結んでいる保険会社の名称である。
 特別養護老人ホーム及び介護老人保健施設については、入所者に対する各施設サービスの提供により事故が発生した場合に備えて、それぞれ国の通知である指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について(平成12年3月17日付老企第43号)及び介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準について(平成12年3月17日付老企第44号)において、賠償すべき事態において速やかに賠償を行うために、損害賠償保険に加入しておくことが望ましいとされている。
 このことから、本件対象施設については、その多くがいずれかの保険会社と損害賠償保険契約を結んでいることは容易に推察できること、また、本件については、施設名が公表されていないことに鑑みると、保険会社名が公にされても、当該施設の競争上又は事業運営上の地位が損なわれるとは認められないため、条例7条3号本文には該当しないものと認められる。
 また、当該保険会社については、その会社名が公にされても、本件においては、当該施設と保険契約を結んでいる事実が明らかとなるのみであり、取引内容等の具体的な経営戦略が明らかとなるものではないから、当該保険会社の競争上又は事業運営上の地位が損なわれるとは認められないため、同条3号本文には該当しないものと認められる。

 なお、実施機関が条例7条3号に該当するとして非開示とした事故の経緯に係る情報のうち治療した医療機関の名称、その所在地及び電話番号は、前記エ(イ)cにおいて、また、施設に関する情報のうち、事業者(法人)名及び代表者名、施設名(他の情報と照合することにより施設名が特定可能な情報を含む。)、所在地、施設長名、事業所番号、電話番号、文書番号及び記号については、前記エ(ウ)において、条例7条2号に該当すると認められることから、同条3号の該当性を論じるまでもなく、非開示が妥当であると認められる。

 よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
 瀬田 悌三郎、中村 晶子、中村 輝子、山田 洋

別表
本件対象公文書一覧と開示すべき部分
(略)


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