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情報公開・個人情報保護審査会 平成19年度(行情)答申第451号 法科大学院における答案練習会等の…

2008年02月22日 | 事務・事業に関する情報
諮問庁 : 文部科学大臣
諮問日 : 平成19年11月20日 (平成19年(行情)諮問第534号)
答申日 : 平成20年 2月22日 (平成19年度(行情)答申第451号)
事件名 : 「法科大学院における答案練習会等の実態調査について(依頼)」の一部開示決定に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 「法科大学院における答案練習会等の実態調査について(依頼)」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,不開示とされた部分を開示すべきである。

第2  異議申立人の主張の要旨

1  本件異議申立ての趣旨
 本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成19年9月12日付け19諸文科高第3の92号により文部科学大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。

2  本件異議申立ての理由
 異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)  異議申立書

ア  不開示部分である直通電話及びメールアドレスは,中央省庁の職員録等で容易に知ることができることから既に公にされている情報である。
 よって,法5条6号の不開示理由に該当しない。

イ  諮問庁は,不特定多数の者から担当者あての電話や電子メールが殺到すること等が予想されるとするが,何故そのように予想されるか具体的理由が全く記載されていないことから理由不備であり,行政手続法8条の趣旨に反し,違法又は不当である。

ウ  日本国憲法16条は,何人に対しても請願権を保障していることから,不特定多数の者から担当者あての電話や電子メールが殺到することをもって直ちに法の不開示理由に該当すると判断することは憲法違反である。

エ  法5条6号本文の「支障」の程度については,名目的なものでは足りず実質的なものであることが必要であり,「おそれ」も抽象的な可能性では足りず法的保護に値する程度の蓋然性が要求される。
 本件においては,「法科大学院における答案練習会等の実態調査について(依頼)」という行政文書の性質から,電話や電子メールをするのは,平成19年新司法試験受験生と法科大学院学生の中で,当該調査に納得できず担当者に対して特に意見を述べたい者に限られ,その数は不特定多数ではなく特定少数であり,電話や電子メールが殺到するとは考えられないことから,不開示部分を開示しても実質的な「支障」も法的保護に値する程度の蓋然性のある「おそれ」も生じない。
 よって,法5条6号の不開示理由に該当しない。

(2)  意見書
 諮問庁の不開示情報該当性の理由は,事実認定を誤り,法の解釈と適用を誤っていることから違法であり,不開示部分は開示すべきである。

ア  諮問庁担当者の直通電話番号の周知状況について
 諮問庁担当者の直通電話番号は,諮問庁のホームページに公開されており,既に不特定多数の者に周知されている。
 また,諮問庁の直通電話番号はすべて,財団法人「文教協会」発行の「文部科学省国立大学法人等職員録」(以下「職員録」という。)の「文部科学省電話番号表」に掲載されている(なお,職員録には,法科大学院係の電話番号が掲載されていないが,諮問庁に問い合わせたところ,必ずしもすべての係が直通電話番号を有しているわけではなく,法科大学院係に電話したいのであれば法科大学院係に隣接する教育大学係に電話すればよい旨教示された。)。
 したがって,諮問庁の不開示部分の直通電話番号は,担当課の所掌事務の遂行に必要な範囲で関係者に通知しているものであるとの理由は,事実に反することから開示すべきである。

イ  担当者のメールアドレスの周知状況について
 担当者のメールアドレスは,不特定多数に周知されていないようであるが,国民の幅広い意見を担当各課及び係が聴取するために,代表電話番号,代表メールアドレス及び担当者の直通電話番号だけでなく,担当者のメールアドレスも不特定多数に周知するべきである。

ウ  担当課全体における事務の適切な遂行に支障を及ぼすおそれの当否
 諮問庁は,担当者の直通電話番号やメールアドレスを開示しない理由として,「本事案(新司法試験考査委員である特定大学教員により受験指導が行われた事案)については,社会的な関心も高いことから,新聞等でも度々報道され,諮問庁にもほとんど匿名で多数の電話,文書及びメールが寄せられている。インターネットにおける匿名掲示板にも,開示請求に関して諮問庁とのやり取りが掲示されるなど多数の書き込みがなされている。このような状況の中で,不特定多数の者が知ることにより,これまで以上に多数の電話等が予想される。その対応により担当課全体における事務の適切な遂行に支障を及ぼすおそれがあると判断し」と説明するが,事実認定を誤っていることから「担当課全体における事務の適切な遂行に支障を及ぼすおそれ」があるとの結論に至ったと思われるので,以下反ばくする。
 まず,「本事案」について「社会的な関心」が高いのは,単に「新司法試験考査委員」が受験指導をしただけからではなく,「新司法試験考査委員」の法科大学院教授が新司法試験の問題を漏えいした疑いが強く,当該教授にとどまらず法科大学院という組織そのものの責任,新司法試験行政の主管官庁である法務省の責任,法科大学院行政の主管官庁である諮問庁も問われてしかるべき事案だからである。その点については,第168回国会平成19年11月8日衆議院法務委員会においても詳細に審議されている。
 したがって,諮問庁に対して,多数の電話,文書及びメールが寄せられて様々な意見表明がなされるのは当然のことである。もちろん本事案がいくら重大な事件であったとしても,業務を妨害するためのいたずら電話やウイルスメールの送付などは許されないことはいうまでもないが,諮問庁の理由にはそのような事実はどこにも記載されておらず,諮問庁に対する多数の電話,文書及びメールは,すべて何らかの正当性を有するものである。
 次に,「匿名」の電話,文書及びメールが多いのは,本事案の直接の利害関係者である新司法試験受験生及び法科大学院学生は,実名で意見表明をすれば,司法試験委員会や法科大学院に知られるところとなり,そのことによって自らが何らかの不利益を被ることをおそれているからである。仮にそのおそれが杞ゆうであったとしても,法科大学院修了生しか新司法試験受験資格を得られない現状においては十分に理由がある。
 さらに,「インターネットにおける匿名掲示板」に諮問庁との「開示請求」のやり取りが掲示されることは,諮問庁の本事案に対するスタンス及び情報公開に対する姿勢を,多くの利害関係者が知ることができ,それは,利害関係者による諮問庁に対する正当かつ建設的な意見表明を促進することになり,むしろ諮問庁の法科大学院行政の適切な遂行に資すると言える。もちろん,掲示されている「やり取り」が,聞き違えなど単純な事実誤認ではおさまりがつかない完全なねつ造であれば許されないことはいうまでもないが,諮問庁の理由には,そのような事実はどこにも記載されておらず,国民による正当な報道である。
 よって,仮に直通電話やメールアドレスがインターネットに掲示され,不特定多数の者が知ることにより,これまで以上に多数の電話等が予想されることが事実であったとしても,それらは,すべて諮問庁に対する正当な意見表明であり,諮問庁の法科大学院行政の適切な遂行に資するものであることから,「担当課全体における事務の適切な遂行に支障を及ぼす」ことはあり得ない。単に担当課全体の行政事務量が増えることを嫌い不開示とするのであれば,諮問庁の職務け怠を正当化するものであり,到底許されない。
 そもそも,担当係とは,代表電話番号を通じて誰もが意見を表明することができるところであり,文書や資料等も法科大学院係あてで郵送することが可能な現状にあるから,新たに担当者の直通電話番号とメールアドレスを不特定多数の者が知ることになっても,これ以上に多数の電話等がなされるとは予想しがたい。
 以上,諮問庁理由は,事実認定を誤り,法の解釈と適用を誤っていることから違法であり,諮問庁は,不開示部分を開示すべきである。

第3  諮問庁の説明の要旨

1  異議申立てに係る行政文書について
 本件異議申立てに係る行政文書は,平成19年7月3日付けで文部科学省高等教育局専門教育課長が,法科大学院を置く国公私立大学長宛に依頼した「法科大学院における答案練習会等の実態調査について(依頼)」である。
 本件対象文書のうち,担当者の氏名,直通電話番号及びメールアドレスを記載した部分について法5条6号の不開示情報に該当することから不開示としたところ,異議申立人から,当該部分の開示を求める旨の異議申立てがされた。
 なお,原処分については,平成19年11月20日付け19諸文科高第3の92号により,担当者名を開示する変更開示決定を行いその旨を異議申立人に通知している。

2  不開示情報該当性について
 以下に掲げる理由から法5条6号に該当する。
 直通電話番号やメールアドレスは,担当課の所掌事務の遂行に必要な範囲で関係者に通知し,課内で共用しているものであり,本件対象文書においても,調査内容に関する照会や事務連絡に供するため各法科大学院に対し通知した。
 本件請求の契機となったのは,新司法試験考査委員である特定大学教員により受験指導が行われた事案が判明したことによる。本事案については,社会的な関心も高いことから,新聞等でも度々報道され,当省にもほとんどは匿名で多数の電話,文書及びメールが寄せられている。インターネットにおける匿名掲示板にも,開示請求に関して当省とのやり取りが掲示されるなど多数の書き込みがなされている。
 このような状況の中で,不開示とした部分を公にした場合,直通電話番号やメールアドレスがインターネットに掲示され,不特定多数の者が知ることにより,これまで以上に多数の電話等が予想される。その対応により担当課全体における事務の適切な遂行に支障を及ぼすおそれがあるので,不開示とした。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成19年11月20日  諮問の受理
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年12月10日  異議申立人から意見書を収受
④  平成20年2月20日  本件対象文書の見分及び審議

第5  審査会の判断の理由

1  本件対象文書について
 本件対象文書は,「法科大学院における答案練習会等の実態調査について(依頼)」である。
 原処分においては,本件対象文書の記載の一部が,法5条6号の不開示情報に該当するとして不開示とされている。諮問庁は,平成19年11月20日付け19諸文科高第3の92号により,原処分で不開示とされた部分のうち一部を開示する旨の変更決定をしているが,その余の部分についてはなお不開示とすべきとしているので,当審査会において本件対象文書を見分した結果に基づき,当該その余の部分(以下「本件不開示部分」という。)の不開示情報該当性について,以下,検討する。

2  本件不開示部分の不開示情報該当性について
 当審査会において見分したところ,本件不開示部分には,本件対象文書についての問い合わせ先である電話番号及び本件対象文書の回答の提出先であるメールアドレスが記載されていると認められる。
 諮問庁は,本件不開示部分を公にした場合,直通電話番号やメールアドレスがインターネットに掲示され,不特定多数の者が知ることにより,これまで以上に多数の電話等が予想され,その対応により担当課全体における事務の適切な遂行に支障を及ぼすおそれがある旨説明する。
 しかしながら,本件不開示部分に記載されている情報は,当審査会において諮問庁のホームページを確認したところ,当該ホームページに掲載されている当該担当課に係る別の通知等により既に公となっていることが認められる。すると,本件不開示部分を公にしても,それによって当該担当課にこれまで以上の多数の電話等が寄せられると言うことはできない。
 したがって,諮問庁の説明には理由があるとは認められないことから,本件不開示部分は,法5条6号の不開示情報に該当せず,開示すべきである。

3  本件一部開示決定の妥当性
 以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条6号に該当するとして不開示とした決定については,不開示とされた部分は,同号に該当せず,開示すべきであると判断した。

 (第1部会)

 委員 大喜多啓光,委員 村上裕章,委員 吉岡睦子


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