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情報公開・個人情報保護審査会 平成19年度(行情)答申第323号 国際協力銀行に係る検査報告書等

2007年11月13日 | 法人等に関する情報
諮問庁 : 金融庁長官
諮問日 : 平成19年 3月22日 (平成19年(行情)諮問第146号)
答申日 : 平成19年11月13日 (平成19年度(行情)答申第323号)
事件名 : 国際協力銀行に係る検査報告書等の不開示決定に関する件


答 申 書




第1  審査会の結論

 国際協力銀行に係る検査報告書等(以下「本件対象文書」という。)につき,その全部を不開示とした決定については,本答申書の別紙に掲げる部分を開示すべきである。


第2  異議申立人の主張の要旨

(略)



第3  諮問庁の説明



1  本件対象文書について

 本件対象文書は,国際協力銀行に対する平成15年8月18日を検査実施日とする検査に係る検査報告書である。検査報告書は,主任検査官が検査の結果及び検査中の状況を検査当局幹部に報告するものである。検査報告書を改めて審査したうえで,検査当局としての最終的な見解をまとめたものが検査結果通知書及び主務大臣への検査結果報告書である。
 なお,検査結果通知書及び主務大臣への検査結果報告書については,主務省である財務省で開示・不開示の判断を行うことが適当であるとして,法12条1項に基づき,財務省に事案を移送したところである。移送の結果,金融庁は,財務省が開示・不開示の判断を行う部分以外の行政文書である検査報告書に対し全部不開示の決定をした。
 以下,検査報告書の不開示理由について説明する。
 (注)国際協力銀行に対する検査については,主務大臣より立入検査の権限が内閣総理大臣に委任され,当該権限は内閣総理大臣から金融庁長官に委任されている。
 また,立入検査をしたときはその結果について主務大臣に報告することとされている。


2  不開示情報該当性について

 現に業務を行っている金融機関の検査報告書等については,これまで情報公開・個人情報保護審査会で示された答申(平成15年度(行情)答申第32号,平成17年度(行情)答申第401号等)において考え方が示されているので,これらも踏まえながら不開示理由を説明する。
 なお,国際協力銀行は,本件諮問時において,現に業務を行っている金融機関である。


(1)  法5条1号該当性について

 検査報告書に記載される検査官の氏名については,法5条1号に規定する個人情報に該当し,どの金融機関をどの検査官が行ったかについては公表慣行がなく,また,開示した際に検査官に対して不当な圧力がかかる蓋然性があることから,これを公にすることが予定されていると言えないので,同号ただし書イに該当しない。


(2)  法5条2号イ該当性について

 検査報告書に記載される情報は,被検査金融機関に関する情報と当該金融機関の取引先に関連する情報に分類される。
 取引先に関連する情報についてみると,一般に,特定の法人が金融機関とどのような取引をしていたかなどの金融取引に関する情報や,取引先法人の財務情報にかかわる情報が記載されている。これらの法人の情報は当該法人の事業の中でもとりわけ重要かつ機微な情報で,事業の根幹に触れる秘匿されるべき情報である。こうした情報は公にすることにより,当該取引先の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものであり,法5条2号イに該当する。


(3)  法5条6号イ該当性について



ア  政策金融機関である国際協力銀行に対する検査については,国際協力銀行法53条に基づき,国際協力銀行の主務大臣である財務大臣が,政策金融機関の担う政策目的の実現を図る観点から,業務運営の適切性の検証や財務内容の把握等を目的に行うこととされている。
 当庁は,同法53条の21項及び3項に基づきリスク管理の分野における検査の権限について,財務大臣より委任を受けている。これは,国際協力銀行に対する検査を行うにあたり,財務の健全性を確保する観点から,民間金融機関を検査してきた当庁のノウハウや専門性を検査に活用することが有用であるという理由によるものであり,民間金融機関に対して行なう立入検査と同様の手法で実施されている。
 一般に,当局が金融機関に対して行う立入検査は,捜査機関による捜索差押のように直接的・物理的な強制力の行使を伴うものとは異なり,罰則による間接的な担保により心理的に立入りの受忍を強制しようとするものである。これは法律で,検査の権限は「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」(同法53条3項)と規定されていることからも明らかである。正当な理由なく検査を拒んだ場合には罰則が科せられることとなるが(同法58条),事実上罰則が科せられるのは,悪質な検査忌避,検査妨害がある場合に限られていることから,罰則があるとはいえ,強制力には一定の限界がある。
 また,一定の数の限られた検査官が多数の金融機関に対して行う検査は,法律に基づく検査権限を背景にしつつも,被検査金融機関が検査に協力するという前提の下で効率的に推進される必要があり,検査権限があるからといって直ちに被検査金融機関の全面的な協力が得られるわけではない。
 さらに,検査は,当該検査の結果が公表されないという前提で行われており,検査官はこの前提の下に金融機関との一定の協力関係を保ちながら,資料の提出や事情の聴取などを求めて,検査を行っている。検査報告書には,現に業務を行っている金融機関にとって極めて重要かつ機微な情報が記載されており,仮にこれが公にされることになれば,金融機関が検査に対して非協力的ないし消極的な態度をとり,その結果検査の効率,実効性において支障が生じることとなり,検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。
 以上のとおり,金融機関に対する検査事務を適正に遂行するために不可欠な被検査金融機関の協力は,検査結果が公表されないという前提で担保されるものであり,こうした事情は国際協力銀行に対する検査においても,なんら変わるものではない。



イ  加えて,検査報告書には,検査の結果判明した問題点の詳細など,これを公にすると他の金融機関に指摘を免れる方法を示唆するいわゆる手口情報に当たるものがある。



ウ  さらに,検査報告書は,主任検査官が立入検査の結果及び立入検査中の状況を検査当局幹部に報告するものであるとともに,最終的な検査結果通知書の原案となるものではあるものの,あくまでも主任検査官の認識を表現している,内容が不確定で未成熟な段階にあるものである。これに対し,検査結果通知書は,主任検査官の認識をそのまま記載するのではなく,最終的に検査当局としての見解を表明するものであり,そのために検査報告書に対して十分な審査を行っている。さらに,一連の検査は検査結果通知書の発出をもって終了することとしており,検査報告書は,立入検査終了時点で作成されることから考えても,あくまでも検査の途中段階での文書である。
 検査当局としての最終的な見解は検査結果通知書に尽きており,検査報告書のような途中段階の文書を開示すれば,検査の過程における検査官の率直な意見,認識の表明が不当に損なわれるおそれがあり,検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。
 また,検査報告書が開示されれば,検査官の率直な指摘が検査報告書に記載されなくなることも考えられ,違法行為等を見逃すおそれも生じることから,結果として検査において正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがある。



 以上のアからウまでの事情を勘案すれば,検査報告書は,全体として法5条6号イ及び柱書きに該当する。


(4)  法5条6号ホ該当性について

 検査報告書に記載される情報は,被検査金融機関に関する情報と当該金融機関の取引先に関連する情報に分類される。
 一般に,被検査金融機関に関する情報については,当該金融機関の経営状況や内部の問題点など機微にわたる様々な情報であり,本件対象文書にも,国際協力銀行の取引先に対する融資という具体的な取引情報が記載されており,これを開示すればそういった情報が明らかとなり,国際協力銀行としての企業経営上の正当な利益を害するおそれがあることから,法5条6号ホに該当する。


(5)  原処分について

 行政機関関連の文書では報告,決裁処理等といった行政処理があるが,本件については文書の一つでも開示されると検査関係情報が開示されたのではないかという憶測を生むなど,検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるので,検査報告書と一体のものとして全体を不開示としている。


3  異議申立人の主張について

 異議申立人は異議申立書において,本件対象文書の全部開示を求めているが,上記のとおり,本件対象文書は法5条1号,2号イ並びに6号イ,ホ及び柱書きに該当する。
 したがって,異議申立人の主張には,理由がない。


4  結語

 以上のとおり,異議申立人の主張には理由がないので,不開示処分は維持するのが相当であると思料する。


第4  調査審議の経過

 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。


①  平成19年3月22日  諮問の受理

②  同日  諮問庁から理由説明書を収受

③  同年5月8日  異議申立人から意見書を収受

④  同年6月13日  本件対象文書の見分及び審議

⑤  同年10月24日  諮問庁の職員(金融庁検査局審査課長ほか)からの口頭説明の聴取

⑥  同年10月26日  審議

⑦  同年11月9日  審議



第5  審査会の判断の理由



1  本件対象文書について

 本件対象文書は,国際協力銀行法53条の2,同法53条に基づき,金融庁長官が実施した国際協力銀行に対する検査(平成15年8月18日実施分)に係る検査報告書等であり,金融庁長官から国際協力銀行の主務大臣である財務大臣及び外務大臣あての検査結果報告書のうち「国際協力銀行の検査結果報告案(平成15年8月18日実施分)」を除く部分(以下「文書1」という。),及び金融庁長官から被検査機関である国際協力銀行に対する検査結果通知書のうち「国際協力銀行に対する検査結果案(平成15年8月18日実施分)」を除く部分(以下「文書2」という。)である。
 当審査会において見分したところ,文書1は,①決裁鑑,②主務大臣への検査結果報告鑑案(財務大臣あて)及び③主務大臣への検査結果報告鑑案(外務大臣あて)から構成されており,文書2は,①決裁鑑,②検査結果通知鑑案,③検査結果報告,④検査班作成の検査結果案(財務省用),⑤検査班作成の検査結果案(外務省用),⑥計数チェックリスト,⑦受領書,⑧検査命令書及び⑨検査報告書処理簿から構成されている。
 諮問庁は,本件対象文書は,法5条1号,2号イ並びに6号柱書き,イ及びホの不開示情報に該当し,当該文書は一体のものとして全体を不開示とすべきとしていることから,以下,本件対象文書を見分した結果及び諮問庁口頭説明の聴取結果を踏まえ,その不開示情報該当性につき検討する。


2  不開示情報該当性について



(1)  文書1及び文書2の決裁鑑には,金融庁職員の職名及び氏名が記載され,印影が押捺されている。
 職名及び検査官以外の金融庁職員の氏名,印影については,法5条1号本文前段の個人識別情報に該当するところ,職名は同号ただし書ハに該当し,氏名及び印影は同号ただし書イに該当するため開示すべきである。
 一方,検査官の氏名及び印影については,法5条1号本文前段の個人識別情報に該当するところ,どの金融機関をどの検査官が検査したかについては公表慣行がなく,また,これを開示すると,当該検査官に対して不当な圧力がかかるおそれがあり,「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」(平成17年8月3日情報公開に関する連絡会議申合せ)における「特段の支障が生ずる場合」に該当するため,法5条1号ただし書きイには該当せず,同号ただし書きロ及びハに該当する事情も存しないことから,不開示が妥当である。



(2)  金融庁の行う国際協力銀行に対する検査について
 文書2の③ないし⑥には,検査の対象となった国際協力銀行内部におけるリスク管理その他の業務管理上の問題点,経営状況や検査当局の評価等の機微にわたる様々な情報が文書全体に詳細かつ赤裸々に記述されており,また,検査の着眼点や手法等の検査方法に係る情報が記載されている。
 諮問庁の説明,関係法令等を総合すると,金融庁が行う国際協力銀行に対する検査及び検査結果については,次のような事情が認められる。



ア  金融庁が行う金融機関に対する検査は,金融の安定性を確保し預金者等の保護を図るため,金融機関の業務の健全かつ適切な運営を確保し,必要な監督上の措置を採る前提として,金融機関の経営の実態を正確に把握することを目的として行われているものである。国際協力銀行の立入検査の権限は,国際協力銀行法53条に規定されているところ,立入検査は,捜査機関による捜索差押のように直接的・物理的な強制力の行使を伴うものとは異なり,罰則による間接的な担保により心理的に立入りの受忍を強制しようとするものである。正当な理由なく検査を拒んだ場合には罰則が科せられることとなるが,事実上罰則が科せられるのは,悪質な検査忌避,検査妨害がある場合に限られていることから,罰則があるとはいえ,強制力には一定の限界がある。
 また,本件金融検査は,国際協力銀行法の検査権限を背景にしつつも,国際協力銀行が検査に自発的に協力するという前提の下に効率的に推進されていることが認められ,検査権限があるからといって直ちに国際協力銀行の全面的な協力が得られることとなるわけではない。
 さらに,金融検査は,一般に当該検査の結果が公開されないという前提で行われており,本件においても検査官はこの前提の下に国際協力銀行との一定の協力関係を保ちながら,資料の提出や事情の聴取などを求めて,検査を行っていることが認められる。金融検査の結果は,現に業務を行っている金融機関にとって極めて機微な情報を含むものであり,本件においても文書2の③ないし⑥には,その全般にわたり国際協力銀行の業務の根幹をなす極めて機微な情報が記載されていると認められる。仮にこれが公にされることになれば,国際協力銀行が検査に対して非協力的ないし消極的な態度をとり,その結果金融検査に何らかの支障が出るおそれがあることは否定できないと認めれる。仮に国際協力銀行が検査に対して消極的であっても,金融検査自体は国際協力銀行法に基づくものであり,また,間接強制による担保も用意されているので,金融庁は検査自体を遂行できるが,金融検査の結果が公にされれば,検査に対する国際協力銀行の消極性により,検査における正確な事実の把握が困難になるおそれがあると言わねばならない。
 なお,異議申立人は,第2の2(2)のとおり,国際協力銀行は特殊法人であり,政策金融機関として設立されていることを指摘するが,金融検査の対象としての国際協力銀行の法的地位は,他の金融機関と異なるものではない。



イ  また,金融庁は,民間金融機関に対する金融検査マニュアルを用いて国際協力銀行に対する検査を実施していることから,本件対象文書を公にすることにより,検査対象となる他の民間金融機関等において,検査の着眼点や手法等を予測することが可能になると考えられ,その結果,他の民間金融機関等に対する検査において違法又は不当な行為の発見を困難にするおそれがあるものと言うべきである。
 なお,本件対象文書を見分したところ,上記金融検査マニュアルは,臨機応変に活用されていると認められ,金融検査マニュアルのいずれの部分を利用するかも含め,その手法は公にされているものではないことから,金融検査マニュアルが公表されていることは,上記検査内容を公にする根拠とはならない。



 以上のア及びイの事情を勘案すれば,文書2の③ないし⑥は,法5条6号イに該当するものと認められる。


(3)  文書2の③ないし⑤及び⑨は,検査の結果及び検査中の状況を検査局幹部に報告するものであるとともに,最終的な検査結果通知書の原案となるものであって,主任検査官限りの認識を表現している,内容が不確定で未成熟な段階にあるものである。さらに,当該文書は,立入検査終了時点で作成されることから考えても,検査の途中段階での文書であると言える。
 検査当局としての最終的な見解は検査結果通知に尽きており,当該文書のような途中段階の文書を開示すれば,じ後の検査の過程における検査官の率直な意見や認識の表明が不当に損なわれるおそれがあり,結果として,検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号柱書きに該当するものと認められる。



(4)  文書2の③ないし⑥には,上記(2)で述べたようなリスク管理等の機微にわたる様々な情報が詳細かつ赤裸々に記述されているところ,これらを公にすれば,国際協力銀行の業務管理上の問題点や経営状態等についての憶測を招き,ひいては同銀行の信用が国際的に低下するなどの事態を生じかねず,同銀行の企業経営上の正当な利益を害するおそれがあるものと言うべきであり,法5条6号ホに該当するものと認められる。



(5)  本答申書の別紙の部分について

 本件対象文書は,それぞれ異なる文書から構成されているところ,文書1の①決裁鑑(検査官の印影を除く。),②主務大臣への検査結果報告鑑案(財務大臣あて)及び③主務大臣への検査結果報告鑑案(外務大臣あて)並びに文書2の①決裁鑑(検査官の氏名及び印影を除く。),②検査結果通知鑑案,⑦受領書及び⑧検査命令書(検査官の氏名を除く。)については,上記(1)ないし(4)で検討した情報は記載されておらず,法5条1号並びに6号柱書き,イ及びホに規定する不開示情報のいずれにも該当しないほか,同条2号イに該当する事情も存しないことから,開示が妥当である。


3  異議申立人のその他の主張

 異議申立人は,その他種々主張するが,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4  本件不開示決定の妥当性について

 以上のことから,本件対象文書につき,法5条1号,2号イ並びに6号柱書き,イ及びホに該当するとして,その全部を不開示とした決定については,本答申書の別紙に掲げる部分以外の部分は,法5条1号並びに6号柱書き,イ及びホに該当すると認められるので,同条2号イについて判断するまでもなく,不開示が妥当であるが,本答申書の別紙に掲げる部分は,同条1号,2号イ並びに6号柱書き,イ及びホのいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。


 (第2部会)


 委員 寳金敏明,委員 秋田瑞枝,委員 橋本博之






 別紙
(略)


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