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大阪府情報公開審査会 大公審第148号 特定協同組合関係文書部分公開決定第三者異議申立事案

2007年10月26日 | 第三者不服申立て
大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第148号)
〔特定協同組合関係文書部分公開決定第三者異議申立事案〕
(答申日 平成19年10月26日)

第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。

第二 異議申立ての経過
1 平成19年3月22日、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「A事業協同組合に係る中小企業等協同組合決算関係書類提出書(平成18年度提出分)」の行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。

2 同年3月26日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書に異議申立人であるA事業協同組合(以下「異議申立人」という。)に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき意見書提出の機会を付与するため、異議申立人に対して、第三者意見書提出機会通知書を送付した。

3 同年4月3日、異議申立人は、実施機関に対し、次のとおり、本件行政文書の公開に反対する旨の意見書を提出した。
(1)公開に反対する部分 公開請求の対象となった行政文書の全ての文書
(2)公開に反対する理由
ア 組合の事業活動に支障をきたすため
イ 個人情報の保護のため

4 同年4月12日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、その旨を請求者に通知するとともに、条例第17条第3項の規定により、公開決定をした理由を(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
(1)行政文書の名称
A事業協同組合に係る中小企業等協同組合決算関係書類提出書(平成18年4月14日収受)
(2)公開しないことと決定した部分
・ 団体の代表者の印影
・ Ⅲ.事業の状況7.プラスチック再生加工物の共同販売事業における取引先企業名
・ 個人の印影
(3)公開決定をした理由
本件行政文書(公開部分)に記録されている情報については、当該団体及びその事業の性質等を考慮すると、当該団体の競争上の地位、その他正当な利益を害するとは認められず、条例第8条第1項第1号に該当しない。
また、当該団体の理事の氏名等の情報は、当該団体の社会的責任及び公益性の点から、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められないため、条例第9条第1号には該当しない。
そのほか、条例第8条第1項各号又は第9条各号(非公開情報)に該当しないため。

5 同年4月23日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
なお、本件決定のうち本件異議申立ての対象となった部分については、同日、異議申立人が、行政不服審査法第48条において準用する同法第34条第2項に基づき、執行の停止の申立てを行い、同年4月25日、実施機関が執行の停止を決定して、その旨を異議申立人及び請求者に通知している。

第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、次の部分(以下「本件係争部分」という。)を非公開とすることを求める。
・ 代表理事以外の役員の氏名
・ 中小企業等協同組合決算関係書類提出書

第四 異議申立人の主張要旨
(略)


第五 実施機関の主張要旨
(略)


第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 事業協同組合について
事業協同組合は、中小規模の商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行う者、勤労者その他の者が相互扶助の精神に基き協同して事業を行うため法に基づき設立される法人である(法第1条、第3条及び第4条)。
事業協同組合の設立にあたっては、組合員になろうとする4人以上の者が発起人となり、組合員たる資格を有する者で創立総会の日までに発起人に対し設立の同意を申し出たものの半数以上が出席して創立総会を開催し、その議決権の3分の2以上で設立を決議した上で、業を所管する行政庁(異議申立人については実施機関)の認可を受けなければならないとされている(法第27条の2第1項)。
また、設立後は、定款変更について、行政庁の認可を受けなければ効力を生じないとされている(法第51条第2項)ほか、役員の氏名又は住所の変更を届け出ること(法第35条の2)、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書及び剰余金の処分又は損失の処理の方法を記載した書面を提出すること(法第105条の2第1項(本件行政文書提出当時の旧法(平成18年法律第75号による改正前の法。以下同じ。)では、第105条の2。))が義務づけられている。
事業協同組合は、基本的には、事業者である組合員の共通の利益を追求する中間法人としての性格を有し、組合自体は営利を目的とするものではなく、法人税率が公益法人と同等程度に軽減されているほか、中小企業振興施策や公共事業の担い手となることが多いなど一定の公益性が認められている法人である。異議申立人についても、特定の地方公共団体の区域における一般廃棄物からの資源の回収と再資源化という公共性の高い事業を独占的に担っていることが認められる。

3 本件行政文書について
本件行政文書は、旧法第105条の2に基づき、異議申立人から実施機関に提出された「中小企業等協同組合決算関係書類提出書」であり、事業報告書、決算報告書及び総会議事録で構成されており、その内容は次のとおりである。

(1)中小企業等協同組合決算関係書類提出書
異議申立人の住所、名称、電話番号及び組合を代表する理事の氏名及び代表者の印影が記載された文書で、異議申立人から大阪府知事あてに提出されたものである。代表者の印影は非公開とされている。

(2)事業報告書
事業報告書は、平成17年2月1日から平成18年1月31日までの間の本件事業協同組合の活動状況等を報告するものであり、「Ⅰ.概況」、「Ⅱ.庶務事項」及び「Ⅲ.事業の状況」の項目にわかれている。「Ⅰ.概況」中の第5回通常総会の「役員選挙について」の議案中に理事名と監事名が記載されており、「Ⅲ.事業の状況」には、異議申立人の取引先の事業所名が記載されている。異議申立人の取引先の事業所名は非公開とされている。

(3)決算報告書
平成17年2月1日から平成18年1月31日までの間の決算報告書であり、貸借対照表、損益計算書、販売費・一般管理費、原価報告書、利益処分の各文書と、監査意見書が添付されている。決算報告書中の代表者の印影と、監査意見書中の監事の印影が非公開とされている。

(4)総会議事録
総会議事録については、平成18年4月12日に開催された第6回通常総会における平成17年度の事業報告、会計報告、会計監査報告、平成18年度の事業計画(案)、予算(案)の承認等の議題についての議事経過と結果をまとめた記録であり、議長理事及び出席理事の印影が非公開とされている。
なお、異議申立人は、上記(1)から(4)の非公開部分を除く部分(本件係争部分)の非公開を求めている。

4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由
異議申立人は、本件係争部分の公開は、「異議申立人の事業活動に支障をきたし、組合役員等の個人情報を保護できないおそれがある」などとして、本件係争部分に記録された情報が条例第8条第1項第1号及び条例第9条第1号に該当すると主張している。
本件係争部分のうち、異議申立人は、代表理事以外の役員の氏名及び決算報告書の非公開について主張しているところであるが、異議申立書においては、中小企業等協同組合決算関係書類提出書全体の非公開も求めていると考えられることから、まず、代表理事以外の役員の氏名、決算報告書について検討した後、これらを除く部分についても検討する。

(1)条例第8条第1項第1号について
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。 同号は、
ア 法人・・・その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)
が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。
また、本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。

(2)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について
本件係争部分に記録されている情報は、法に基づき法人として設立された事業協同組合である異議申立人の情報であることから、(1)アの要件に該当することは明らかである。
次に、本件係争部分に記録されている情報が(1)イの要件に該当するかどうか個別に検討する。

ア 代表理事以外の役員の氏名
事業協同組合には、役員として、3人以上の理事及び1人以上の監事を置くこととされている(法第35条第1項及び第2項)。事業協同組合における理事及び監事は、株式会社等における取締役及び監査役に相当する重要な役職であり、理事は組合の業務を執行するとともに、理事会を構成して組合の業務執行に係る意思決定を行い、監事は組合の財産の状況及び理事の業務執行の状況を監査することを職務とする。
このような理事や監事に誰が就任しているかという情報は、当該事業協同組合が経済活動を行う中で、取引を行おうとする第三者がその信用を判断するための重要な要素となるべき情報であって、公にすることにより、社会一般の取引の安全や公正な競争秩序の維持に資することがありこそすれ、公正な競争の原理に反する結果となるとは認められない。
また、このような情報は、技術上又は営業上のノウハウや金融上、経営上の秘密等にあたらないことは明らかであり、公にすることにより、当該事業協同組合に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報であるとも認められない。
ところで、この点に関し、異議申立人は、「異議申立人の役員であるものは、通常、自ら組合員である法人の役員または個人事業主を兼任しており、広く異議申立人の役員を開示することは、当該組合員の競業他社との関係等において、上記均衡に亀裂をもたらす蓋然性が高い。」とし、「異議申立人には、その役員が誰であるかの秘匿につき、重要な経営上の利益を有しているのであって、それを公開することは、当該組合員を構成員とする異議申立人自身の公正な競争が侵害される蓋然性が高い。」と主張する。
しかしながら、事業協同組合が、法人として経済活動を行う主体である以上、役員が誰であるかという情報は、上述のとおり、公にされることによってこそ社会一般の取引の安全や公正な競争秩序の維持に資するものであり、事業協同組合と同様に構成員の利益の追求を目的とする中間法人について、役員の氏名が登記事項とされていることからしても、異議申立人の主張を採用することはできない。
また、異議申立人は、「事業協同組合の代表理事については、登記簿により公開が予定されているものであるが、その他の役員については、登記することが求められていない」とし、「法律によって開示が義務づけられていない事業協同組合の役員につき、公益法人と同様もともと公示的な性格を持つという理由でもって、開示を認めることになれば、結局、法律の下位規範である条例が、法律を侵害若しくは改廃し、または法創設機能を有することになる。」と主張している。
しかしながら、法は、登記簿という形式で公示すべき情報を規定しているに過ぎないものであり、登記事項とされていない情報について、条例に基づいて公開することを禁止したものではないと解されるから、異議申立人のこの主張もまた、採用することができない。
以上のことからすると、本項の情報は、公にすることにより、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず、(1)イの要件に該当しない。

イ 決算報告書の公開決定部分について
決算報告書は、その文書の性質上、公にすることにより、異議申立人の全般的な財務状況を把握することが可能な情報である。本件決算報告書に記録されている数値からは、様々な財務指標を算出することが可能であり、異議申立人の経営規模、資産構成、収支バランス等が把握できることが認められる。
しかしながら、本件決定においては、事業報告書に記録されている異議申立人の取引先の名称は非公開とされており、本件決算報告書のうち本件係争部分に含まれる部分には、他に異議申立人の共同事業や取引行為に関する具体的な情報は記録されていない。審査会において、本件決算報告書を見分したところによっても、異議申立人の営業上、技術上のノウハウや取引上、経営上の秘密が具体的に明らかとなるような情報は含まれていないことが認められた。
さらに、事業協同組合の決算報告書については、当該事業協同組合の組合員のみならず、債権者から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、当該事業協同組合自らが、これを閲覧又は謄写させなければならないとされている(法第40条第12項(本件行政文書提出当時の旧法では、第40条第3項。))。
また、事業協同組合は、2で述べたとおり、中間法人としての性格を有し、組合自体は営利を目的とするものではなく、税制上の優遇措置がとられているほか、中小企業振興施策や公共事業の担い手となることが多いなど一定の公益性が認められている法人である。異議申立人についても、公共性の高い事業の独占的な担い手となっていることが認められ、その全般的な財務状況に関する情報は、府民の正当な関心の対象となるべきものである。
ところで、異議申立人は、「法第40条は、組合と法的利害関係を有しない一般市民に公開を義務付けていないとし、本項の情報を公開すべきではない」と主張している。
しかしながら、法第40条第12項の規定は、債権者等の利益の保護のため、法人が自ら行わなければならない決算報告書の開示について定めたものであり、実施機関において提出を受けた決算報告書を条例に基づいて公開することを禁じるものではないと解されるから、この点についての異議申立人の主張は採用することができない。
以上のことを総合して判断すると、本項の情報は、公にすることにより、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するものとは認められず、(1)イの要件には該当しない。

ウ 中小企業等協同組合決算関係書類提出書及びその添付書類に係る公開決定部分(ア及びイを除く。)について
中小企業等協同組合決算関係書類提出書中の事業報告書は、平成17年2月1日から平成18年1月31日までの間の本件事業協同組合の活動状況等を報告するもので、総会議事録については、通常総会における事業報告等の各議題についての議事経過と結果をまとめた記録であり、その内容は定型的で、上記イで述べた事業協同組合の性格や公益性等から判断すると、公にすることにより、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するものとは認められず、(1)イの要件には該当しない。

以上のとおりであるから、本件係争部分に記録されている情報は、いずれも、条例第8条 第1項第1号に該当しない。

(3)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

(4)本件係争部分の条例第9条第1号該当性について
本件係争部分のうち、中小企業等協同組合決算関係書類提出書については、役員の氏名等の 情報を除き、専ら法人たる事業協同組合である異議申立人に関する情報であり、(3)アの要件に該当しないことは明らかである。そこで、代表理事以外の役員の氏名について、(3)アないしウの要件に該当するか否かを検討する。
代表理事以外の役員の氏名については、公にすることにより、特定の個人が特定の事業協同組合の役員に就任していたという事実が明らかとなる情報であり、(3)ア及びイの要件に該当すると認められる。
事業協同組合の役員は、営利法人である会社法上の株式会社や民法上の公益法人である財団法人や社団法人、中間法人法に基づく中間法人など、他の法令に基づく法人の役員の氏名が登記事項となっているのとは異なり、代表理事を除いては、法により、その氏名の登記が義務づけられておらず、一般に誰もが閲覧できる情報とはなっていない。 しかしながら、事業協同組合の役員である理事及び監事は、その権限や責任において、株式会社の取締役及び監査役、民法に基づく財団法人・社団法人及び中間法人の理事及び監事と同等の役職であるうえ、その組合員は、本来、当該事業を営む個人あるいは、法人の代表者であることからしても、当該事業協同組合の役員であることを秘匿すべき正当な理由があるとは認められない。
以上のことからすると、代表理事以外の役員の氏名については、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められないものであり、(3)ウの要件に該当しない。
以上のとおり、本件係争部分に記録されている情報は、条例第9条第1号に該当しない。

5 結 論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(主に調査審議を行った委員の氏名) 岡村周一、福井逸治、松田聰子、岩本洋子


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