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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

新潟市情報公開・個人情報保護審査会 新情審第22号の7 植物標本整理事業にかかる人件費,仕入れの…

2008年05月27日 | 法人等に関する情報
新情審第22号の7
平成20年5月27日

新潟市教育委員会 様

新潟市情報公開・個人情報保護審査会
会長 風 間 士 郎

不服申立てに関する諮問について(答申)

平成18年11月14日付け新総セ第464号の2によって諮問のあった案件について,次のとおり答申する。

第1 審査会の結論
新潟市教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成18年9月12日新総セ第328号の2において非公開と決定した植物標本整理事業に係る文書について,以下の部分については公開することが妥当である。
(1)「算出根拠(人件費)」中の「分類」,「作業名」,「点数」,「人件費計」,「人件費+仕入費用」,「人件費を80%とした場合のその他費用」,「利益相当額」,「入札価格」
(2)「算出根拠(仕入)」中の「品名」(商品名及び事業者名の記載部分を除く),「金額」

第2 事実関係
1 答申に至る経緯
(1)異議申立人は平成18年9月4日付けで,新潟市情報公開条例(以下「条例」という。)第5条の規定に基づき,実施機関に「平成16年度に教育センターが委託した植物標本整理事業で委託を受けた業者が事業の実施に際して提出した総事業費に係る費用等の内訳書」の公開を請求した。

(2)実施機関は,同年9月12日,本件請求文書が,条例第6条第3号の「当該法人に不利益を及ぼすおそれがある」情報に該当するとして非公開決定し,その旨異議申立人に通知した。

(3)異議申立人は,この決定を不服として平成18年11月5日,実施機関に対して非公開決定を取り消すよう,異議申立てを行った。

(4)実施機関は,平成18年11月14日,条例第12条の規定に基づき,当審査会に諮問した。

(5)当審査会における審査の経過は次のとおりである。
平成18年11月14日諮問書受理
平成18年12月28日実施機関から弁明書受理
平成19年 1月23日異議申立人から弁明書に対する意見書受理
平成19年12月20日審査会開催(第1回)
平成20年 1月31日審査会開催(第2回)
平成20年 3月17日審査会開催(第3回)
平成20年 4月22日審査会開催(第4回)
平成20年 5月22日審査会開催(第5回)


2 本件請求文書について
本件異議申立てに関係する文書は,実施機関が実施した植物標本整理事業(以下「本事業」という。)に係る文書である。本事業は,指名競争入札により受託事業者を決定したものであるが,請求のあった公文書は,当該受託事業者が事業を開始する際に提出した,総事業費に占める費用見込みの内訳書であり,1「算出根拠(人件費)」,2「月別請求額」,3「採用予定表」,4「工数表」,5「人件費予定表」,6「算出根拠(仕入)」の6種類からなる文書(以下「請求文書」という。)である。

3 本事業の要件について
本事業は,実施機関が「新潟県緊急地域雇用創出特別基金事業」の一つとして実施した事業であり,雇用情勢の厳しさを受けて,臨時応急的な措置として,市町村が各地域の実情に応じて,公的部門における緊急かつ臨時的な雇用・就業機会の創出を図ることを目的としたものである。事業採択にあたっては,失業者の安定を図るための雇用創出効果の高い事業が実施されるよう「事業費に占める人件費割合が概ね8割以上であり,かつ事業に従事する全労働者数に占める新規雇用の失業者数の割合が概ね75%以上」という基準が設けられている。

第3 当事者の主張の要旨
1 異議申立人の主張
異議申立人は,異議申立書及び弁明に対する意見書において,概ね以下のように主張している。

(1) 非公開決定通知書において特定された6種類の文書のうち,1「算出根拠(人件費)」及び6「算出根拠(仕入)」の2つが請求している文書であり,就業した個人名や作業工数などの企業独自の技術情報は請求していない。

(2) 「新潟県緊急地域雇用創出特別基金事業」で実施された事業であり,これは委託金額に対する人件費の割合が定められた特殊な事業である。企業が得られる利益は定められており,収益性の向上や企業独自のノウハウを盛り込めないものであるため,該当法人に不利益を与えるおそれは全くない。仕入品に関しても,わら半紙,クラフト紙,トレーシングペーパーなど市販のものであり,その仕入価格を公開することで与える不利益はない。

2 実施機関の主張
異議申立書において請求している文書として特定された1「算出根拠(人件費)」及び6「算出根拠(仕入)」については,受託事業者が作成したものである。「新潟県緊急地域雇用創出特別基金事業」により実施された事業ではあるが,その採択基準内でどのように業務を遂行するかについては,受託事業者の営業活動上の秘密に関する情報と考える。よって,公開することにより,当該受託事業者に不利益を与えるおそれがあることから,非公開が適当と判断したものである。

第4 審査会の判断
本件にかかる請求文書は,実施機関が「新潟県緊急地域雇用創出特別基金事業」の一つとして実施した植物標本整理事業において,受託事業者が事業実施に際して提出した,総事業費にかかる費用等の内訳書である。これに該当するものとして,実施機関では,1「算出根拠(人件費)」,2「月別請求額」,3「採用予定表」,4「工数表」,5「人件費予定表」,6「算出根拠(仕入)」の6種類を特定して非公開決定をした。しかし,異議申立人が異議申立書の中で,これらの文書のうち,公開を請求している文書は1「算出根拠(人件費)」及び6「算出根拠(仕入)」の2つであると主張していることから,当審査会においては,この2つの文書(以下「対象文書」という。)について検討することとする。

1 対象文書の記載内容について
1「算出根拠(人件費)」は,総事業費に占める人件費の内訳を一覧表にしたもので,作業の大まかな「分類」と具体的な「作業名」,そして,それぞれの作業ごとに標本の「点数」,「1点あたり時間」,「見込み総時間」,「時給」,「金額」,「工数」についての具体的な数値の記載がある。表中下部分には,「人件費計」,「人件費+仕入費用」,「人件費を80%とした場合のその他費用」,「利益相当額」,「入札価格」が記載されている。
また,6「算出根拠(仕入)」は,総事業費に占める仕入れの内訳で,わら半紙やコピー用紙など当該事業に使用する消耗品のほか,作業スペース借上げの家賃・光熱費などの「品名」とともに,それぞれの品名ごとの「数量」,「単価」,「金額」が記載されている。なお,「品名」欄には消耗品の規格のほか具体的な商品名などの固有名詞が記載されている。

2 条例第6条第3号該当性について
条例第6条第3号は,「法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって」,「公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」を非公開情報と規定していることから,これに照らして本件対象文書について検討する。
対象文書1「算出根拠(人件費)」及び6「算出根拠(仕入)」に記載されている各項目の内容は,受託事業者が本事業の実施にあたり独自に積算した見込みであり,それぞれ1点あたりの所要時間,総時間,時給,金額,工数及び本事業に使用すると思われる消耗品の品名,数量,単価,金額などである。これらは,本事業の実施に要する時間,能力や賃金のほか,消耗品の種類,調達方法など,事業者独自のノウハウが含まれる情報であり,これを公にするとなると当該事業者が,どれくらいの単価で従業員を雇い,一点あたりの処理にどれくらいの時間を要し,また,それぞれの作業にどれくらいのコストをかけるか等やどういう種類の消耗品を,いくらで調達できるかなどが明らかとなるものである。
こうした情報は,一般的には当該受託事業者が独自で培った企業秘密に該当する情報であり,これが公開されることにより,当該受託事業者の競争上の正当な権利を侵害するおそれがあると考えられるものである。よって,条例第6条第3号に該当する情報であり,また,同号ただし書の「人の生命,健康,生活,又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」にも該当しないと判断されるものであるが,以下それぞれ対象文書及び本事業の性格等について個別に検討する。

(1)対象文書1「算出根拠(人件費)」について
本事業は指名競争入札により実施されており,その際指名業者に対して,本事業の概要として「高等植物・蘚苔植物標本整理事業 仕様書」が提示されている。本仕様書中の記載項目について検討してみると,「作業手順」及び「標本の数量」として,「手書きで作成してある標本台帳のデータをコンピューターに入力する」「約21,000点」,「標本の束の表紙に貼付されているデータ及び,各標本の台紙に貼付されているラベルのデータをコンピューターに入力する」「約84,000点」,「標本貼付のメモをコンピューターに入力する」「約70,000点」など詳細な作業手順及び数量が記載されており,対象文書1「算出根拠(人件費)」には,これに符合するものとして受託事業者がそれぞれの作業の内容等を要約して,「台帳より入力」「21,000点」,「標本添付ラベルより入力」「84,000点」,「標本の束からの入力」「70,000点」などと記載して整理したものと認められる。
そうすると,対象文書1「算出根拠(人件費)」に記載されている「作業名」及び「点数」はすでに指名業者全員に提示されているものであり,これを秘密にする特段の手立ても講じられていないことからすると,こうした情報はすでに公とされている情報と同等のものであり,またこれを秘匿する必要性も極めて低いものと思われる。よって,「作業名」及び「点数」については,公開することが妥当であると考えられる。
次に,表中下部分の「人件費計」,「人件費+仕入費用」,「人件費を80%とした場合のその他費用」,「利益相当額」及び「入札価格」について,本件にかかる請求文書は,指名競争入札終了後に受託事業者が契約締結の際に提出した書類であり,入札結果については公表している情報であることから,当然「入札価格」は公開すべきものである。また,その他の項目について,「利益相当額」は企業の利益を直接的に示すもので,企業秘密に該当する情報である。しかし,これを非公開としても,「入札価格」から「人件費+仕入費用」を差し引くと「利益相当額」は判明するものであり,これを非公開とするためには,「人件費+仕入費用」も非公開としなければならない。
「人件費」については,本事業が「新潟県緊急地域雇用創出特別基金事業」の一つとして「事業費に占める人件費割合が概ね8割以上であり,かつ事業に従事する全労働者数に占める新規雇用の失業者数の割合が概ね75%以上」という条件設定がされていることから,これが適正に行われるかどうかというのは,衆人の監視のもとにおかれ,市民への説明責任を果たすという観点からも公開すべきものと考えられる。「仕入費用」についても,本事業が上記条件から人件費を除くその他費用は20%以内であり,また緊急地域雇用創出特別基金事業という,極めて公共性の高い事業であるという特殊事情を考慮すると,何にどのくらいの費用が使われるのかという情報は,公開すべきものであるとともに,植物標本整理という比較的単純な業務であること,さらには詳細な仕様書がすでに提示されていることからしても本事業に要する消耗品の種類についても,相当程度推測することは難しいことではない。よって仕入費用の額についても,ことさら秘匿するまでの情報ではないと考える。
これらのことからすると,「入札価格」及び「人件費+仕入費用」が公開されることにより,おのずと「利益相当額」も判明することになるが,このことは本事業の実施における人件費割合等についてあらかじめ条件設定がされていること,また本事業に限定しての利益であるという点を考慮すると,やむを得ないものと考える。さらに,「人件費を80%とした場合のその他費用」については,人件費が公開されるとなると,計算によって容易に判明するものである。
よって,「人件費計」,「人件費+仕入費用」,「人件費を80%とした場合のその他費用」,「利益相当額」及び「入札価格」については公開すべきものと考える。

(2)対象文書6「算出根拠(仕入)」について
本文書に記載されている情報は,当該事業に使用する消耗品及び作業スペース借上げの家賃・光熱費それぞれの「品名」及び品名ごとの「数量」,「単価」,「金額」である。これらの情報のうち「品名」及び「金額」については,上記(1)の「仕入費用」と同様の理由から公開すべきものと考える。しかしながら,「数量」については,何をどのくらい使用するかは,企業努力によって左右されるところが大きいものと考える。
また,「単価」についても,仕入数量と密接に結びつくものであるとともに,当該受託事業者と仕入先業者との取引関係など企業努力によるところが大きく,仕様書において具体的な作業手順や標本の点数等がすでに明らかとなっていたとしても,企業によって違いが大きいものと考えられる。このことからすると,「数量」及び「単価」については,非公開とすることが妥当と考える。
なお,「品名」欄には具体的な商品名及び事業者名が含まれているが,これらの情報は消耗品の種類を示すものではないことから公開すべきと考えられるものではない。

以上のことから,「第1 審査会の結論」のとおり答申するものである。

なお,対象文書の記載内容についての判断は以上のとおりであるが,実施機関が非公開決定通知書において記載した「非公開の理由」につき,付言しておく。
実施機関は,異議申立人に送付した非公開決定通知書において,非公開部分の非公開理由につき,「当該法人に不利益を及ぼすおそれがある」としか記載していない。非公開決定には理由を提示すべきとされた(新潟市行政手続条例第8条第1項本文)趣旨は,非公開の理由の有無について,実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してその恣意を抑制するとともに,非公開の理由を公開請求者に知らせることで不服申立てに便宜を与えることを目的としているのであるから,非公開決定の理由の記載は,いかなる事実に基づき,情報公開条例のどの規定を適用して非公開とされたのか,通知書の記載自体から了知しうるものでなければならない(平成4年12月10日最高裁判決)。新潟市「情報公開事務の手引き 平成19年改訂版」にも,「通知書には,非公開とする根拠となる条項を列挙するとともに,非公開とする具体的な理由を記載しなければならない」,あるいは「公文書の一部が公開できない場合は」,「その部分にどのような情報が記載されているかが分かるように具体的に記載する」との記述がある。以上のことから,本件における非公開決定は,新潟市行政手続条例第8条第1項が課すところの理由提示義務を怠ったという重大な瑕疵があると言わざるを得ない。このような瑕疵は,前述した最高裁判決によれば,対象文書の記載内容如何にかかわらず,それだけで独立の非公開決定取消事由となる。かつ,異議申立審査手続きにおける弁明等において,詳細な理由を実施機関が説明したことで治癒され得るものでもない(平成11年11月19日最高裁判決)。実施機関においては,今後,公開できない部分が存在する場合には,非公開決定通知書において,公開できない理由を具体的に明記するよう運用を改善されることを意見として付け加える。


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