付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「発狂した宇宙」 フレドリック・ブラウン

2009-11-03 | 時間SF・次元・平行宇宙
「獲物であるよりは猟師であるほうが、あるいは食うためだけに小説を書いているより積極的に行動するほうが、いい気分であることはまちがいなかった」

 ついに宇宙時代が到来するかと沸き立つ1954年のアメリカでは、「バートン式電位差発生装置」をロケットで月に打ち込み、その静電気発光で地球から月面を観測しようという実験が始まるところまで来ていた。
 ところが打ち上げ実験は失敗。観察会に社長の邸宅に招かれていたSFパルプ雑誌編集長のキース・ウィンストンは爆発に巻き込まれ、気がつくと見知らぬ世界に放り出されていたのだ。
 ちょっと目には今までの世界とは変わらない1954年のアメリカだが、ドルは使えず、濃霧管制が敷かれて夜の街は漆黒に覆い尽くされている。そして宇宙旅行があたりまえになっており、奇怪な月人の旅行者が街を歩いていたのだ。
 そこは凶悪な宇宙人の襲来している世界、自分と同じ自分が別の生活をおくっている世界、そしてただの雑誌編集者が宇宙人のスパイとして狩りたてられてしまう世界……。

 慣れ親しんだ見知らぬ世界で、顔なじみの他人たちの間で逃げまどいながら、雑誌編集者としての経験を活かして起死回生を狙う主人公の逃走劇であり、パルプフィクションを皮肉ったスペースオペラのパロディです。平行世界と歴史改変の入門者としても最適。
 まだテレビもない1949年に書かれた平行世界SFの代表作で今読んでも面白く、オールタイム・ベストに入って当然という、理数系に弱い人にも薦められる「SFらしい」SF。オチのひねり方もいかにもブラウン。このオチがたぶん『超時空世紀オーガス』に影響を与えていると思います。というか、『発狂した宇宙』を読んでいない人には『超時空世紀オーガス』のオチはわかりにくかったんじゃないかと……。

【発狂した宇宙】【フレドリック・ブラウン】【平行世界】【宇宙戦争】【ミシン】【パルプ雑誌】【コイン】【露出度】【濃霧管制と夜行団】

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