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忘れられた核共有論の意味
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【阿比留瑠比の極言御免】
極東情勢は、風雲急を告げている。残念ながら武力衝突の足音は、すぐ近くにまで迫っているが、日本の国会は何をしているのか。
米海軍制服組トップのギルデイ作戦部長(大将)は19日、中国による台湾侵攻が今年中か来年中にも起きる可能性を指摘した。ブリンケン米国務長官も、17日に「中国はずっと早い時期の統一を追求する決断をした」と述べている。中国共産党の習近平総書記(国家主席)は「2期10年まで」「68歳定年」という2つの慣例を破り、3期目に突入した。16日にはこう宣言している。
「武力行使の放棄は約束しない。祖国の完全統一は必ず実現しなければならないし、必ず実現できる」
[安倍氏の問題提起]
習氏が、独裁者としてさらに4期目も目指すとすれば、それにふさわしい実績は台湾奪取ということになろう。台湾や米国、また日本に準備を整える時間を与えないためには、できるだけ早く侵攻した方がいいと考えてもおかしくはない。
実際、台湾は2023年の防衛費に過去最高の約2兆7千億円を充てるという。人口は日本の5分の1以下なのに。
また、韓国が尹錫悦(ユンインニョル)大統領は25日、北朝鮮の7回目の核実験について「準備を既に完了していると判断される」との見解を表明した。韓国では核武装を含む安全保障論議が活発化し、米戦術核兵器を国内に再配備する案も出ている。
こんな戦後最大の危機的状況にあっても、わが国の国会で最も議論されているテーマが、特定宗教と政治家の接点でいいのか。防衛費を水増しで帳尻合わせしていて、それでいいのか。
今では忘れかけられた議論だが、安倍晋三元首相は今年2月、米国の核兵器を自国領土・領海内に配備して共同運用する核共有について問題提起した。当時、安倍氏に発言の意図を問うと、こう答えた。
「ただちに核共有をやろうというより、考えろということ。核共有に替わるものが何があるのかも、考えなければならない。ドイツやベルギーはきれいごとを言っているが、米国と核をシェアしているのだから」
確かに北大西洋条約機構(NATO)のうち5カ国が米国と核共有していることは、安倍氏の指摘まであまり知られていなかった。
[タブーに逃げるな]
一方、岸田文雄首相は5月、バイデン米大統領との首脳会談で、米国の抑止力を日本の防衛・安全保障に対しても提供する「拡大抑止」の有効性を確認した。米国の核の傘を信じて、日本の安全を図ろうという既定路線である。
だが、安倍氏はその有効性と確実性に疑問を持っていた。4月下旬には、こう考えを説明した。
「拡大抑止と核共有については私はよく言うんだけど、(米国と核共有する)ドイツやイタリアは、自分で相手に核を落とすんだ」
ドイツやイタリアは仮にロシアから核攻撃されて報復する場合、米国に任せるのではなく自国のパイロットが、自国機に搭乗してロシアに核を落としに行く。
「つまり、核攻撃の被害者に対する下手人になる。一方、自国は攻撃されていない米国が自ら何千、何万人も一度に殺す下手人になりたがるだろうか。米国による日本の拡大抑止は、米国に下手人になってもらうということになるが、それが本当に成り立つのか」
拡大抑止も重要だが、そこで思考停止していてはいけないということだろう。国民の生命、財産、自由を守るという最優先の目的のためには、タブーを設けてはならないし、姑息(こそく)な手法に逃げてはいけない。
忘れられた核共有論の意味
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【阿比留瑠比の極言御免】
極東情勢は、風雲急を告げている。残念ながら武力衝突の足音は、すぐ近くにまで迫っているが、日本の国会は何をしているのか。
米海軍制服組トップのギルデイ作戦部長(大将)は19日、中国による台湾侵攻が今年中か来年中にも起きる可能性を指摘した。ブリンケン米国務長官も、17日に「中国はずっと早い時期の統一を追求する決断をした」と述べている。中国共産党の習近平総書記(国家主席)は「2期10年まで」「68歳定年」という2つの慣例を破り、3期目に突入した。16日にはこう宣言している。
「武力行使の放棄は約束しない。祖国の完全統一は必ず実現しなければならないし、必ず実現できる」
[安倍氏の問題提起]
習氏が、独裁者としてさらに4期目も目指すとすれば、それにふさわしい実績は台湾奪取ということになろう。台湾や米国、また日本に準備を整える時間を与えないためには、できるだけ早く侵攻した方がいいと考えてもおかしくはない。
実際、台湾は2023年の防衛費に過去最高の約2兆7千億円を充てるという。人口は日本の5分の1以下なのに。
また、韓国が尹錫悦(ユンインニョル)大統領は25日、北朝鮮の7回目の核実験について「準備を既に完了していると判断される」との見解を表明した。韓国では核武装を含む安全保障論議が活発化し、米戦術核兵器を国内に再配備する案も出ている。
こんな戦後最大の危機的状況にあっても、わが国の国会で最も議論されているテーマが、特定宗教と政治家の接点でいいのか。防衛費を水増しで帳尻合わせしていて、それでいいのか。
今では忘れかけられた議論だが、安倍晋三元首相は今年2月、米国の核兵器を自国領土・領海内に配備して共同運用する核共有について問題提起した。当時、安倍氏に発言の意図を問うと、こう答えた。
「ただちに核共有をやろうというより、考えろということ。核共有に替わるものが何があるのかも、考えなければならない。ドイツやベルギーはきれいごとを言っているが、米国と核をシェアしているのだから」
確かに北大西洋条約機構(NATO)のうち5カ国が米国と核共有していることは、安倍氏の指摘まであまり知られていなかった。
[タブーに逃げるな]
一方、岸田文雄首相は5月、バイデン米大統領との首脳会談で、米国の抑止力を日本の防衛・安全保障に対しても提供する「拡大抑止」の有効性を確認した。米国の核の傘を信じて、日本の安全を図ろうという既定路線である。
だが、安倍氏はその有効性と確実性に疑問を持っていた。4月下旬には、こう考えを説明した。
「拡大抑止と核共有については私はよく言うんだけど、(米国と核共有する)ドイツやイタリアは、自分で相手に核を落とすんだ」
ドイツやイタリアは仮にロシアから核攻撃されて報復する場合、米国に任せるのではなく自国のパイロットが、自国機に搭乗してロシアに核を落としに行く。
「つまり、核攻撃の被害者に対する下手人になる。一方、自国は攻撃されていない米国が自ら何千、何万人も一度に殺す下手人になりたがるだろうか。米国による日本の拡大抑止は、米国に下手人になってもらうということになるが、それが本当に成り立つのか」
拡大抑止も重要だが、そこで思考停止していてはいけないということだろう。国民の生命、財産、自由を守るという最優先の目的のためには、タブーを設けてはならないし、姑息(こそく)な手法に逃げてはいけない。