1966年に制作されカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した映画「男と女」。クロード・ルルーシュ監督、ジャン=ルイ・トランティニャンとアヌーク・エーメ主演によるこの映画の50年後の二人を描いた、「男と女 人生最良の日々」を観た。
カーレーサーだったジャン=ルイは、今は認知症が出て来て老人ホームに暮らしている。息子のアントワーヌ言うところの「最悪の中のベストな施設」である(素晴らしい環境!)。ほとんどの記憶が薄れていく中で、彼が繰り返し口にする名前が「アンヌ」。。アヌーク・エーメ扮するかつて愛し合った女性である。アントワーヌは父親の記憶のためにアンヌを探し出し、ジャン=ルイに逢いに行くように頼む。そこから50年を経た二人の新たなストーリーが始まる。。。。
認知荘の主人公ジャン=ルイを演じるジャン=ルイ・トランティニアンがとってもとってもチャーミング❣️顔に深く刻み込まれた皺も、薄くなった唇も、小さくなった眼も、白髪も、着ている服も何もかも、すべてが魅力的!!ドキドキ胸キュンである。
車椅子を押されながら女性スタッフに「いつ寝てくれるンだ?」と話しかけるのはしょうもない年寄りなのだが、アンヌに向かって「(庭にある)あそこの扉から一緒に脱走しよう」と語るジャン=ルイの眼は、少年のようにキラキラ輝いている(アンヌが誰かは認識できてないのだが)。
アヌーク・エーメも当時と変わらず美しく気品があり、言葉は少ないのだがジャン=ルイへの溢れる想いが伝わる。フランスの女優ならではの魅惑的な存在感だ。
ドーヴィルの海岸を子供たちと散歩する二人、ホテルで気まずく分かれて電車でパリに戻るアンヌを、先回りして駅で出迎えるために車を走らせるジャン=ルイ、映画のプロンプターをしていたアンヌが、亡くなった夫と馬に乗るアンヌの回想シーン(夫役はピエール・バルー!)。。。記憶として流れる前作の映像シーンはモノクロで全体を通して珠玉の宝石のように散りばめられている。対してジャン=ルイのアタマの中で繰り広げられるアンヌとの逃走ドライブはハイパーなカラー(これが 哀しくも可笑しいの!)。。
ラストシーンは猛スピードで疾走する車から見る夜明け前の街並みーー後方に過ぎ去っていくのは時間、消えてゆく記憶、でも愛は消えない。。。懐かしくも切なく、いとおしい美しい映画だった。
前作と同じ監督、俳優、音楽はフランシス・レイ(2018年に亡くなった)が制作した奇跡的な素晴らしい映画!公開当時から何度も再上映された「男と女」を観て震えるような憧れや感動を感じた、同じように年を経てきた者にとっては、まさに年取ったからこそ深く感じ入る映画であった。前作を知らなくても、これが甘美なノスタルジックでなく、記憶や夢、愛は時間を超えて瑞々しく蘇るということに深く安堵すると思う。
上が1966年、下が2019年の「男と女」ジャン=ルイとアンヌ。どちらもため息がでます。