izumishのBody & Soul

~アータマばっかりでも、カーラダばっかりでも、ダ・メ・ヨ ね!~

梨木香歩と師岡カリーマ・エルサムニーの「私たちの星で」を読んで、多文化共生の時代を期待する

2019-12-20 14:41:17 | 本と雑誌

「わたしたちのいるところ」に続いて読んだ梨木香歩と師岡カリーマ・エルサムニーの往復書簡「私たちの星で」。

こちらも、仏教国でもキリスト教国でもない、あまり知る機会のないイスラムの世界の価値観から見た今の日本の社会がくっきりと浮かび上がってくる往復書簡だ。

 

師岡カリーマは最近気になっている一人で、日本人の母とエジプト人の父の元東京に生まれ、カイロ国際大学、ロンドン大学で学んだ、まさに多文化を生きている文筆家。東京新聞朝刊に書いているエッセイの視点の深さ、鋭さ、宗教や国家を超えた普遍的な倫理や信仰心から来る目線には、毎度アタマと心を揺さぶられる。

一方の梨木香歩は、こちらも世界各地を歩き回り(まるで放浪するかのよう)、自分の出自とは違う世界で暮らす普通の人たちとのやりとりから、人間としての普遍的な存在の意味を知ろうとする。共通するのは「理解し合いたい。知り合たい」という希求の強さだ。

 

「ロンドンで働くムスリムのタクシー運転手やニューヨークで暮らす厳格な父をもつユダヤ人作家、あるいは”民泊“で出会った型にとらわれないゲイのプログラマー・・・」カリーマが世界各地で出会った人たちとの経験を、梨木香歩は”「健やかさ」への信頼”と表現する。

一方、安保法案反対集会に参加していた梨木香歩が、その場での警察官の様子に「吹き出してしまった」という箇所には、思わず共感!正面切ってガチガチに目尻を上げて抗議するのでなく、あくまでもしなやかにユーモアを忘れず、物事の深層を見つめる感性は、先に読んだ「椿宿あたりで」でも随所に感じたのだった。社会に対する問題意識は持ちつつ、時代の流れや自然のなりゆきにも抗うことなく受け入れいていく。凜としてしなやか、カッコイイ!のだ。

 

文化や社会制度や宗教の違い、あるいは自然環境による習慣の違いなどからくる異文化を拒絶せず黙って受け入れていけば、寛容さが鍛えられ、やがてみんな同じ家族になるのでは・・・という梨木香歩の楽観主義は、分断と不寛容に満ちた現在の一筋の光のように思える。

西暦2000年を迎える頃、“21世紀は共生の時代”と言われた。差別や偏見や格差などのない自由で広々とした世界になると希望を持ったが、現実は逆方向に進んでいる。それでも、環境問題に「NO!」と声を上げた16歳のグレタ・トゥーンベリさんのように、次の世界に向けて強いメッセージを掲げる若い世代が登場しはじめている。

まだ目には見えないけれど、本を読んだり、新聞の小さな記事を読んだり、気持ちの通じる友人と話していると、微かな変化の動きが確かに始まっていることを感じる。まさにこの今、後になって振り返ると時代の変わり目だったと位置付けられる、平成最後=令和元年の年であった。

この本の初版は2017年。2019年の今年3刷りが出版されている。徐々に、少しずつでも、多文化共生の時代がきっと来ると、(この本を読んでさらに)希望を持って見ていたいと思う。

 

梨木香歩と師岡カリーマ・エルサムニーの往復書簡「私たちの星で」/岩波書店

 

コメント
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