静かの海

この海は水もなく風も吹かない。あるのは静謐。だが太陽から借りた光で輝き、文字が躍る。

タシケントの日本人捕虜(3) 航空士官学校で楽を

2009-10-24 13:16:14 | 日記
 そこには航空隊もいました。私はね、輜重隊だったけれど、航空隊に自動車乗る人がおらなんだんやね、そんで私らをそこへ向けたんです。輜重隊からはずれて。そんで航空隊に勤務していたんですわ。陸軍の航空士官学校の航空隊に勤務したんですわ。そこの生徒は地上の訓練はしません。飛行機に乗る人は乗るだけ、整備兵は整備するだけで、飛行機には乗りませんざ。飛行機乗る人は、故障してもどこが悪いかわからんのです。そういう任務になっているんです。この士官学校の生徒はこの満州で訓練をしていた。生徒やから戦争に行かない。四十九期生やった。まだ若いんやも。十八とか・・・の学生やね。赤トンボと呼ばれた飛行機で訓練していた。その人らは終戦後すぐ帰ったんや、もう。捕虜にならんと(ならないで)。なんでかというと、学生やで(だから)・・・ソ連がね、学生は帰したんや。<注:ソ連政府が、兵隊と生徒を区別していたことがわかる。兵士たちが、自分たちが捕虜だという意識を持つのは当然といえよう>。

 ソ満国境で何をしていたかというと、輜重隊やでね、はじめは自動車の訓練ばっかり。それが終わると荷物を運ぶ訓練とかね、まあ運送屋の訓練やね。食料、兵器、被服、米俵とか、それから燃料。航空隊やから燃料・タイヤ、そういうものを運ばにゃいかん。そういう任務があるんや。満州は戦争地区ではなかったんや。そこで訓練して戦地にいったんや。シナ<ここでは満州を除く中国>とか南方とか。それから兵隊がシナから内地へ帰るとき、満州にいっぺん寄ってね、そして休養して内地の方に帰りました。あそこは休養(?)場所やね。
 ソ満国境はずーっとトーチカです。ずーっと山の中、トーチカです。ソ満国境はそりゃー全部トーチカです。私ら車で通っただけですが、トーチカが続き日本兵でいっぱいです。それはひどいですわ。

 私らは歩兵じゃないでね、飯盒炊飯じゃありません。大きな炊事場があって、そこでご飯を食べました。飯盒炊飯など、そういうことはしません。歩兵と違って。同じ軍隊でも楽したんです。そして歩かんのです。そして給与、つまり食べ物がいいんです。食べ物はありました。そりゃ家<自分の>にいるよりいいんです。家に残った人は、ひどいもの、じゃがいもみたいなものを食べていたけど、私たちは羊羹を食べていました。ご飯は麦を混ぜたご飯でした。満州は大豆の生産地やけど、豆ご飯などは食べません。腹こわすでね。

 私らは軍隊に入っても楽したんです。ふだん暇なときは野球してるんやで。あそこは航空隊やでね、戦場地区じゃないし、航空隊に学生がいるだけやからね。
 航空隊の飛行場の周囲には満人(中国人)がおりますんや。それを警備せにゃいかん。そこを警備するのが警備中隊で、それは歩兵と同じや。自動車には乗らんし、私らとは全然違う。任務が違うんや。飛行場を警備しているんです。絶えず回っていました。だけど満人が攻めてくるなんてことはない。普通の農家の人やさかいね。日本の兵隊が恐ろしいんです。日本の兵隊が行ったら小ちゃくなるんや。日本の兵隊は威張っていて、気の毒なくらいです。威張っているのがいるさかいにね(いるからね)。

 私ら乗っている車はカーキ色でした。内地から徴発した車は全部カーキ色です。星のマークがついています、前と後や横にね。それで、日本の軍が来たったら全部止まってしまうんです。そこを日本の車がずーっと通るんです。私らの部隊は輜重隊でしょう。そういうマークつけてゆく。一台二台じゃない、隊を組んで行きますさかいね。ときには二百台くらいがずーっと行きます、車間距離七メートルほどとって。それも訓練や。満州の道は何も舗装してないです。ハルピンの街の中はしてあったけど。新京(長春)という街があるでしょう。あれは立派な街です。電車も通っておりました。今は名前が変わっています。

 満州は夏暑く冬寒いんです。朝晩冷えます。コーリャン、大麦、小麦、そして米も作っていました。内地のような田植えではなくて、ばら播きですね。見渡す限り平野、どこへ行っても畑ばっかり。満州の太陽は赤いんです。想像以上に真っ赤です。楽しみといえば、日曜の休みです。外出もできます、街へ。
 街へ出るんでもね、五人以上でないとだめですね。危なうて。満州ではね、それだけ日本に対して反感を持っているんです。満州国を承認したのはね、日本だけです。誰も承認しておりません。はっきりいうと、満州国は日本のものにしたようなものです。ほとんど日本人が支配しております。鉄道にしろ、いろいろ事務関係にしろ、ずーっと日本人がやっている。満人は、何も認めんのです。満州の皇帝おりましたね、ほんの名前だけで、もう日本が全部やっています。
 満州には兵隊のほかに開拓団ちゅうのがあって、開拓団も兵隊です。まあいうとね。日常は畑で仕事しておる。農産物の生産にいそしんでいる。帰ってくるとちゃんと家はあります、鉄砲持って。さあ戦争ちゅうと、その人が出る。そういう訓練しています。そういう人たちも、いざとなると、鉄砲持って出にゃならんのです。命令が出ればね。


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