人は経験から学ぶ生き物である。経験を積むにつれて学習が進み、向上していくのが通常の理解である。
しかし一方で、経験は先入観をも生み出していく。生み出された先入観は、我々の目を曇らせ、真実から遠ざける。
経験を積むに従って、この二つの効果が生じていくわけだが、私が見るに、前者にのみ着目する人がとても多いように思う。
前者にのみ着目し、自分は経験によってどんどん賢くなっていると、ある意味一方向的な理解しかしていないと、先入観というものにどんどん支配されていくことになるのは必至である。
そして先入観は、物事のありのままの姿を観察することを困難にし、新たな事柄に挑戦する意欲を奪い、偏見へと転化し、退屈への扉を開く。
その結果人はいとも簡単に、本来避けることのできるはずの、精神的な老いを背負うことになる。
一方で、先入観というものが常に経験というものに付随して生成されていくプロセスを注意深く観察し、経験による学習効果からそれを取り除く作業を地道に行っている者は、このような先入観による呪縛から、少なくともある程度は逃れることができる。
人間はこのように、片方だけでなく、両方の目を開いていかないとどんどんバランスが狂ってしまう。 その点、前回述べた人を信じるリスクと信じないリスクの話とも共通するところだ。