猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

北朝鮮によるミサイル発射実験について

2006-07-06 03:17:29 | 朝鮮半島
 すでに報道などで周知の通り、7月5日未明から同日夕方にかけて、北朝鮮が断続的に7発(10発とも)のミサイル発射実験を実施し、日本海に着弾した。米偵察衛星の画像などから、発射されたテポドン2号は、ブースター(推進装置)部分が本体から切り離されないまま日本海に落下した可能性が高い、すなわち実験には失敗した事が示唆される。北朝鮮が、わざわざミサイルの性能情報を提供してくれたようなものである。それはともかくとして、我が国が即座に万景峰号の入港禁止措置をとったのは当然である。一方で、国際的連携を優先し改正外為法適用を見送る方針であると伝えられているのは、評価が分かれるところであろう。おそらく「弱腰」を責める声の方が多いと思われる。今回は、沿岸にミサイルが着弾したロシアがかなり立腹しており、サミットの主要議題として北朝鮮問題が取り上げられることに決まった。国際的連携をまずは模索してみるというのはあながち理由のないことではない。しかし、そうはいっても、平壌宣言に違反する上に国連海洋法条約に抵触する暴挙に対して外為法適用を見送るのは、あまり賛成できない。その前に、平壌宣言など破棄するのが筋である。こんなものは、とっておく価値がない。
 北朝鮮の狙いは、言い尽くされた感があるが、米国との2国間対話に何とか持ち込みたいということである。そんな目論見が無駄であることは言うまでもない。米国は、二国間協議には持ち込まない。6カ国協議は有名無実ではあるが、地域の他国を巻き込むのとそうでないのとでは、米国が負担する責任が全然違う。北朝鮮問題を米国が単独で責任を負うなどと考えるのはかなり非現実的である。
 今回の事件で注目したいのは、やはり「情報能力」である。まず、我が国の情報能力の低さは、国土交通省が、ミサイルが落下した日本海などを航行する船舶や日本の空域を飛行する航空機に対し、警報や注意情報を出したものの、ミサイル発射の一報や着弾点の情報がなかなか国交省に伝えられなかった上、省内での対応にも手間取り、船舶への警報が1発目の発射から5時間以上かかるなど対応が遅れた点が象徴的である。こういう不備は早急に改めるべきである。一方、日米の軍事当局による情報収集及び共有はかなりうまく行ったようである。すなわち、米国の偵察衛星がミサイル発射を正確に把握し、我が国のイージス艦が弾道を捕捉した。これは、ミサイル防衛構想の中核をなす部分が作動したということである。変な言い方だが、北朝鮮がよい演習材料を提供してくれたことになる。ついでにいえば、危機感の高まりによって、財務当局による防衛予算への不当な介入が排されるきっかけになれば一層よい。防空能力の強化に逆行するような動きはとてもじゃないが容認できるものではないからだ。また、北朝鮮に対しては実際問題として選択肢に入るともあまり思えないが、「敵のミサイル基地を先制攻撃することは日本国憲法でも法理上可能」という有名な鳩山首相答弁を具現化するような防衛力を整備することは、当然検討されてよい。「情報力は大いに強化されたが、対処するための軍事的オプションがまるっきりない」というのも困る。
 最後に、我が国がなすべき外交努力について。これは、精力的に国連安保理において、非難決議と国際協調に基いた経済制裁を目指すべきである。中国が妨害するようであれば「中国もならず者国家の仲間である」と、国際社会に大いに喧伝すればよいだけだし、賛同してくれるならばそれはそれで結構なことである。日米の連携については、ますます緊密にすべきことが明白になったといえよう。



(参考資料)
【年表】北ミサイル発射をめぐる主な動き(産経新聞)

■北朝鮮のミサイル発射をめぐる主な動きは次の通り。

1993年5月29日 中距離弾道ミサイルのノドンを日本海に向け試射

94・10・21 米朝枠組み合意調印

98・6・16 朝鮮中央通信がミサイルの開発・輸出を認める

8・31 テポドン1号を試射、一部が日本上空を越え太平洋に落下

9・4 北朝鮮が「人工衛星打ち上げ」と発表

99・9・12 米朝がミサイル再発射の一時停止で合意

01・1・20 ブッシュ米大統領就任

5・3 金正日総書記が欧州連合(EU)代表団に03年までのミサイル発射凍結表明

02・9・17 第1回日朝首脳会談。日朝平壌宣言で北朝鮮がミサイル発射凍結を03年以降も延長する意向表明

04・5・22 第2回日朝首脳会談。ミサイル発射凍結を再確認

6・10 北朝鮮が5月初め、テポドン2号とみられるエンジン燃焼実験に成功と韓国紙報道

05・2・10 北朝鮮が核保有宣言

9・19 第4回6カ国協議で共同声明採択

06・3・9 北朝鮮が米本土全域を射程に収めるテポドン3号を開発中と在韓米軍司令官が証言

5・19 北朝鮮でテポドン2号発射準備とみられる動きが活発化していることが判明

6・1 北朝鮮が、米国が圧力強化を続けるなら「超強硬な措置」をとらざるを得ないと警告

7・5 北朝鮮がミサイル発射、日本海に着弾

(07/05 07:36)



(参考記事)
[船、航空機へ警報遅れる 国交省に情報伝わらず]
 北朝鮮のミサイル発射を受け国土交通省は5日午前、ミサイルが落下した日本海などを航行する船舶や日本の空域を飛行する航空機に対し、警報や注意情報を出した。しかし、ミサイル発射の一報や着弾点の情報がなかなか国交省に伝えられなかった上、省内での対応にも手間取り、船舶への警報が1発目の発射から5時間以上かかるなど対応が遅れた。
 ミサイルは同日午前3時半すぎから断続的に計6発発射されたが、海上保安庁が警報を出したのは午前8時53分。海保は「着弾点の情報が入らず、警報の対象地域が特定できなかった」と説明している。
(共同通信) - 7月5日13時47分更新

<北朝鮮経済制裁>国際的連携を優先し改正外為法適用見送り
 政府は5日、北朝鮮への経済制裁で、改正外為法に基づく措置については動向を見極めながら追加措置として検討するにとどめた。同法を適用すれば、北朝鮮への送金停止、貿易停止などの措置が可能になるが、第三国を経由した場合に抜け道があり、日本単独での制裁は実効性が未知数。このため、国際的な連携を優先させる。
(毎日新聞) - 7月5日23時38分更新

[北への送金、事実上停止へ…ミサイルで経済制裁]
 政府は5日、北朝鮮への経済制裁として、日本から北朝鮮への送金や現金などの持ち出しを、許可制とする方向で検討に入った。
 外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく措置で、これまでの届け出制から許可制にすることで事実上、送金を停止する。
 銀行などを通じた送金や、北朝鮮への渡航者による現金の持ち出しができなくなれば、北朝鮮が得る外貨が減り、経済活動にも大きな制約がかかる。
 ただ、第三国を経由した迂回(うかい)送金などの逃げ道も残るため、国連安全保障理事会の決議を受けた、加盟国による協調制裁が不可欠ともみられている。
 財務省によると、日本から北朝鮮へ送られた資金は、財務相への届け出ベースで2005年度に30億4300万円(送金2億8000万円、持ち出し27億6300万円)に上る。
(読売新聞) - 7月5日15時51分更新

<北朝鮮ミサイル>ロシア軍参謀総長「10発発射」と言明
 【モスクワ杉尾直哉】インタファクス通信によると、ロシア軍のバルエフスキー参謀総長は5日、「(北朝鮮の)ミサイルが発射されたことは、我々の監視手段で確認された。さまざまな情報によると、10発が発射された。さまざまなクラスのミサイルだったとの情報もあれば、すべてのミサイルが大陸間(弾道弾)だったとの情報もある」と語った。
(毎日新聞) - 7月5日20時59分更新

[推進装置分離せず本体落下=「完成度低く、逆に危険」-北朝鮮ミサイル・防衛庁]
 北朝鮮によるミサイル発射で、防衛庁は5日午後も、海上自衛隊のイージス艦と電子戦データ収集機EP3を日本海とその上空に出動させ、厳戒態勢を継続している。同庁は、米偵察衛星の画像などから、発射されたテポドン2号は、ブースター(推進装置)部分が本体から切り離されないまま日本海に落下した可能性が高いとみている。
 防衛庁によると、米軍の偵察衛星が5日撮影した画像では、5月上旬から監視していた北朝鮮ミサイル基地の発射台からテポドン2号が見えなくなった。今回発射し、失敗した3発目とみられる。同庁は護衛艦を出動させ、落下物の捜索を続けている。
 同庁幹部は「燃料系統の不具合で失速したのか原因は分からないが、いずれにせよテポドン2号の完成度が低いことが証明された。どこに落下するか予測できないという意味では、テポドン1号より危険度は逆に高い」と指摘した。 
(時事通信) - 7月5日19時0分更新

[米軍の早期警戒衛星が最初に発射確認、日本に緊急連絡]
 北朝鮮が5日未明から断続的に発射したミサイルについて、日本政府に最初に入った情報は、米軍の早期警戒衛星からだった。
 スカッドまたはノドンと見られる1発目のミサイルが北朝鮮南部から発射された午前3時半すぎ、米軍から防衛庁に対して、「北朝鮮が弾道ミサイルを発射した」との緊急連絡があった。発射情報は午前3時50分ごろ、防衛庁幹部から、小泉首相、額賀防衛長官ら政府要人に伝えられた。米軍の早期警戒衛星は、その後も続いたミサイル発射を確実にとらえていたという。
 一方、日本海で警戒を続けていた海上自衛隊のイージス艦「こんごう」は米海軍のイージス艦と連携し、ミサイルの弾道を捕捉した。上空からも、海自の電子データ収集機EP3が北朝鮮軍の指令などの電波傍受を試み、哨戒機P3Cは海上を警戒した。在日米軍の弾道ミサイル追跡用電子偵察機「RC135S」(コブラボール)も出動し、ミサイルを追尾したという。
(読売新聞) - 7月5日11時29分更新

<北朝鮮ミサイル>狙いは日米に揺さぶり
 【ソウル中島哲夫】北朝鮮が5日、テポドン2号を含む弾道ミサイルの連続発射実験を行った主な狙いは、核問題を扱う6カ国協議や日本人拉致問題をめぐり、こう着状態に陥っている米国、日本との関係に揺さぶりをかけ、突破口を開くことだとみられる。脅威を誇示して交渉相手の譲歩を求めるのは北朝鮮の常とう手段であり、関係国政府には冷徹な判断が求められる。
 北朝鮮がテポドン2号を発射台に据えたまま特段の動きがなく、周辺国で「実験しないかも」という観測が流れていた6月中旬、韓国の元政府高官は毎日新聞に「必ず発射する」と断言した。
 今も北朝鮮の内情を知りうると言う元高官は、ミサイル発射実験の狙いを「いろいろやってみたが米、日の強硬姿勢を変えられない。この際、状況をひっくり返してみようということだ」と要約した。
 米国の強硬姿勢とは昨年9月の6カ国協議後、マカオの銀行に制裁をかけ、北朝鮮の資金を凍結させたことだ。北朝鮮は制裁解除を6カ国協議復帰の条件としているが、米国は対話にさえ応じない。また、拉致被害者、横田めぐみさんの件を中心とする日本政府の強い姿勢も軟化しない。
 この両国を動揺させようとテポドン発射の動きを米偵察衛星に見せつけても効果がなかったが、「発射台に立てたミサイルを見返りなしに引っ込めることは出来ない。それでは金正日(キムジョンイル)総書記の体面が傷つく」と元高官は話していた。
 一方、北朝鮮の軍事情報に詳しい韓国への亡命者は5日、「米国の関心を引くこと、(小泉純一郎首相とブッシュ大統領の)首脳会談で示された日米結束に冷水をかけること、さらに北朝鮮内部向けの目的もある」と指摘した。北朝鮮指導部は食糧不足を含む深刻な経済難の中で核兵器と弾道ミサイルの開発に巨額の資金を投じてきたが、その成果を国民に見せねばならないというのだ。
 ほかにも、重要な外貨獲得手段であるミサイルの能力宣伝など多目的の実験だったろうが、「問題は、北朝鮮には軍事的脅威しか交渉カードが残っていないことだ」とこの亡命者は語った。
 外交目的を達成しようとする時、譲歩しない相手には脅すしかない北朝鮮。実際の軍事力は、総力戦なら米国が歯牙にもかけない程度のものだ。今回も、米国でペリー元国防長官らがミサイル基地への攻撃を主張し、ホワイトハウスが否定したのを見極めて発射したものとみられる。しかし、テロが国際社会を揺るがすのと同様の効果が北朝鮮の戦術にはあり、対応は容易でない。
(毎日新聞) - 7月5日12時35分更新


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
米国の動向より、中露を注視 (pibe)
2006-07-06 06:48:03
>北朝鮮の狙いは、言い尽くされた感があるが、米国との2国間対話に何とか持ち込みたいということである。



それじゃ今回の奇行を説明するにはあまりにも不足だと感じているんです。物足りない、北もそこまで馬鹿じゃないだろって。

すると、ふとイランが思い浮かんだんですね。違うかな?
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pibeさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-07-06 10:25:38
コメントありがとうございます。

イランへの対応を参考にしたというのはその通りでしょう。



>今回の奇行を説明するにはあまりにも不足だと感じているんです



「米国との2国間対話に何とか持ち込みたいということである。

」と言い切ってしまったものの、確かにそれでここまでの奇行をやるのか?という疑問ももっともではあります。しかし、奇行のように見えて一応計算しているようにも見えるし…。



>中露を注視



そうですね。中露には要注目です。



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イランへ (PJ)
2006-07-06 13:03:37
武器の商品のデモンストレーションとか?

ミサイルの捕捉には中国から提供された機材が使われたとのことで、イランから10人くらい来てると言うし、

もしかしたら中国もイランに売りたいのかもしれませんねぇ?

テレビを見てて、万景峰号に乗ってた生徒たちも送り返しちゃえばいいのに・・・と、つい思ってしまいました。

だって北朝鮮から空路で帰ってくればいいだけだし・・・。

朝鮮学校の生徒たちのインタビューでのフザケタ言動には頭に来てたんで・・・。m(_ _)m
返信する
PJさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-07-08 00:45:10
>武器の商品のデモンストレーションとか?



それもなきにしもあらずでしょうね。そのためにも、テポドンの実験が失敗した時に失敗のイメージを減らすべく、ノドンを乱射した側面があるのではないかという、防衛庁の研究員の推測をTVで見て、「なるほど」と、少し納得しました。
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