猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

自衛隊の海外派遣に関する恒久法案の概要―自民党小委員会がまとめる

2006-06-15 01:01:44 | 安全保障・自衛隊
 自民党の国防部会防衛政策検討小委員会(石破茂小委員長)が、14日午前、自衛隊の海外派遣に関する恒久法案の概要をまとめた。その概要は以下の通りである。

・国連決議や国際機関の要請がなくても、国会の事前承認などを条件に政府の判断で自衛隊を海外派遣できるようにする
・国連決議や国際機関の要請がない場合は1年ごとに国会承認を得ることとする
・政府の裁量で自衛隊を派遣できる要件を緩和する一方、国会の判断で派遣終了を可能とする
・海外派遣された自衛隊の活動に、市民の救助、破壊活動の防止などの治安維持活動を含める
・派遣先国の軍事組織への教育訓練などを実施する
・暴動などの非常事態に限って正当防衛や緊急避難以外でも武器使用を認める
・自衛隊の活動が認められる「非戦闘地域」は、「非国際的武力紛争地域」に名称を改める

 まず、「国連決議や国際機関の要請がなくても海外派遣可能」と改めるのは、有志連合などの枠組みでの平和維持活動を可能にするものであり、当然のことと評価できる。国連決議や国際機関の要請を唯一の要件にすることは、国家として受動的なものである。政府の裁量を広げ、国益を第一に考慮して自衛隊の海外派遣を決定する形にするのはあるべき姿である。その一方で国会の関与を拡大したのは、歯止め云々というのもさることながら、自衛隊の海外派遣に関する正当性を高める意味がある。自衛隊は国内法的には軍隊でないという政府の公式見解にかかわらず、自衛隊は国家を防衛するために生命を賭して働く組織であるという意味では「国民軍」である。そういう存在である自衛隊を海外派遣するに際しては、全国民の代表者の最高機関である国会の関与があることは、国民の後押しで日本国のために海外に派遣されるのだという理屈を成り立たせるものである。このようにして自衛隊と国民が一体感が高まることは、日本有事の際にも自衛隊の士気が高まることに繋がり、ひいては国民の安全に寄与するというものである。
 「治安維持活動を含める」とか「派遣先国の軍事組織への教育訓練などを実施する」などというのは、"軍隊"を派遣する以上当然のことである。それらの任務がなければ、極論すると文民を派遣すれば十分である。武器使用の緩和に関しては、少し不満が残る。暴動などの非常事態に限って正当防衛や緊急避難以外でも武器使用を認めるとのことだが、非常事態の認定が困難であるし、わざわざ分けて考えることは混乱のもとである。同時に派遣されている他国の部隊との間で齟齬が生じる可能性が拭えない。国際的な交戦規定(ROE)に則って武器使用を行うべきである。ちなみに「正当防衛や緊急避難」を武器使用の要件にするのは軍ではなくて警察の論理であって、これを自衛隊に適用するのは筋が違う。
 「非戦闘地域」を「非国際的武力紛争地域」と言い換えるのは、やや生硬な感じも受けるが、事柄の核心を言い表していると考えられるのでよしとすべきであろう。イラク特措法で散々議論された「非戦闘地域とはどこを指すのか」という議論は、大して難しい話でもなくて、国際法上交戦団体と認められている組織による武力衝突が起こっていない地域のことを「非戦闘地域」と呼んでいるのである。テロリストは国際法上交戦団体の資格は持っていない。ゆえに、イラクの国軍(これは国際法上の交戦団体)が壊滅してテロリストしか存在しなかった、当時のイラクは実は全土が「非戦闘地域」だった。ただし、この定義だと内戦の場合には介入できないということになる。内戦においても両当事者を交戦団体として扱っていこうというのが昨今の戦時国際法の趨勢だからだ。それゆえ、「非国際的武力紛争地域」なる名称が、国際法上の交戦団体としての資格を持つ内戦当事者が武力を行使している地域であっても国際性の要件を欠き国際紛争に相当しないので自衛隊が活動することは差し支えないという意味であれば、現行憲法のおかしな解釈との整合性はとりやすい。私の考えとしては、平和維持活動は国権の発動ではない以上、そこで武力行使することは憲法9条で全然禁止されておらず、活動区域は政府が政府の裁量で適切に決定すべきであると思う。その代わりに、国会の関与を今回の案のように強めておけば歯止めになる。
 このたびの恒久法案概要は、自衛隊の海外派遣に関して正しい方向づけをするものであり、大きな前進である。しかしながら、小委員会の素案がそのまま通ることはあまり多くなくて、換骨奪胎されかねない点が危惧される。是非とも本質を見失わない議論をお願いしたい。



(参考記事)
[自衛隊、国連決議なしでも海外派遣…恒久法案概要]
 自民党の国防部会防衛政策検討小委員会(石破茂小委員長)は14日午前、自衛隊の海外派遣に関する恒久法案の概要をまとめた。
 〈1〉国連決議や国際機関の要請がなくても、国会の事前承認などを条件に政府の判断で派遣できるようにする〈2〉武器使用の基準を緩和する〈3〉治安維持任務を可能にする――などが柱だ。
 7月中に法案化し、与党に提示する方針だ。
 法案概要では、政府の裁量で自衛隊を派遣できる要件を緩和する一方、国会の関与を拡大した。国会の判断で派遣終了を可能としたほか、国連決議や国際機関の要請がない場合は1年ごとに国会承認を得ることを盛り込んだ。
 自衛隊の活動には、市民の救助、破壊活動の防止などの治安維持活動を新たに加えた。派遣先国の軍事組織への教育訓練なども実施する。さらに、警護活動の際も含め、暴動などの非常事態に限って正当防衛や緊急避難以外でも使用を認めるなど、武器の使用基準を大幅に緩和した。イラク派遣の際に問題となった、活動が認められる「非戦闘地域」は、「非国際的武力紛争地域」に名称を改めた。
(2006年6月14日12時38分 読売新聞)


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
早く改善されて欲しいです。 (PJ)
2006-06-16 10:59:28
こんな記事を見つけました。

http://blog.goo.ne.jp/medicus19/e/fe984f79e5793309ff672f46270ac55a

自衛隊が国民から正当な評価を受けていないことが関係あるとしたら本当にやり切れません。

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PJさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-06-17 02:07:58
記事の紹介ありがとうございます。

勤務の厳しさから来るものもあるのでしょう。米軍の帰還兵士も同様だと聞いたことがあります。カウンセリング体制の強化が必要ということです。しかし、日本の自衛隊の場合、正当な尊敬を受けていないことも一因である可能性はありますよね。
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