猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

上海協力機構首脳会議―資源、安保での結束強化が謳われる

2006-06-17 01:49:33 | ロシア・中央アジア
 上海協力機構(SCO)は、中国、ロシアと中央アジア4か国(カザフスタン・ウズベキスタン・タジキスタン・キルギス)で構成される緩やかな協議体である。その設立5周年記念首脳会議が15日に上海で行われた。中露の狙いは、容易に察せられるとおり、米国による一極支配への反対と、米国のこの地域への浸透の防止である。先日も『日本も中央アジアのパワーゲームに積極参加すべきだ』の中で、中央アジアでのパワーゲームの重要性について説いた。今回のSCOサミットは、それをあらためて示してくれたと言える。
 安全保障面では、SCOは次のような動きをしてきた。まず、これまでに計3回イスラム過激派勢力によるテロを想定するとの名目で合同軍事演習を行った。一方、昨年には中央アジアに駐留する米軍の撤退を促す宣言を採択するなど、米国を強く牽制している。実際、2005年のSCO首脳会議の中で中央アジアに駐留する米軍の撤退時期明示を求める宣言が採択された結果、ウズベキスタンの基地が閉鎖され、キルギスの基地は使用料が値上げされている。
 政治的には、今回の首脳会議での宣言に明確なように「体制の違いを口実にした内政干渉はすべきでない」として、これも明らかに米国を強く意識した姿勢を打ち出している。また、テロ対策と並んで「分離主義」対策でも協力するそうだが、要するに中国による新疆ウイグルやチベット独立の独立運動弾圧や、ロシアによるチェチェン独立運動弾圧を正当化しあうということに他ならない。その他特筆すべきは、核開発をめぐって交渉がなされている最中のイランが招かれ「SCO関係国によるエネルギー相会議をイランで開くことを提案、SCOを強化し他国による内政干渉や脅しに対抗すべきだ」と主張する機会が与えられた点である。イランは準加盟国(他にはインド、パキスタン、モンゴル)なので、呼ばれること自体は十分にありえることだが、このデリケートな時期にわざわざイランに大々的に発言させることは刺激的な話である。米国が警戒感を隠さないのも当然である。ラムズフェルド国防長官は「反テロを掲げながらイランをオブザーバー参加させることは奇妙なことだ」と明確に非難している。実は、イランに好き勝手な主張をさせるよりも、現在提示されている包括的妥協案を受け入れるよう説得したほうが、長期的には米国に対する中露の発言力は逆に高まったと思う。
 SCOの参加国は、エネルギー資源産出国が多くを占める。従って、エネルギー協力の強化が打ち出されるのは自然な成り行きである。イランのアハマディネジャド大統領によるエネルギー相会議開催の提唱や、ロシアのプーチン大統領による、加盟国間でエネルギー協力を強化する「SCOエネルギークラブ」の創設を提唱などが、このような動きを象徴するものである。
 SCOは、必ずしもその目的が達成されるかどうかは分からないものの、米国に異を唱え、中露の二大大陸国がユーラシア大陸東部を支配しようともくろむ組織には違いない。ちなみに、旧ソ連構成地域でも西のほうの国々は、グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバの四カ国が、さる5月23日に新たな地域協力の枠組みである「民主主義と経済発展のための機構GUAM」の創設宣言に調印して、ロシアの影響力排除を目指す親欧米派ブロックを誕生させている。これは、ロシアによる資源恫喝外交に懲りたためである。中央アジア諸国は国際政治における「草刈場」になってしまう可能性が高いが、中露による資源外交という名の恫喝外交が警戒されるようになれば、SCOの結束は強固なものではなくなる。中央アジア諸国に浸透する上で、先日東京で開かれた、麻生外相と中央アジア諸国の外相らによる「日・中央アジア外相会合」は重要なものである。民主的体制を確立しようとする国には手厚く援助して、民主主義の促進を鼓舞すべきである。もちろん、何よりも重要なことは、海洋国家である日米が同盟を徹底的に強化し、地域の覇権国家たらんとする国々に隙を与えないことである。日米同盟を中核として、アジア太平洋の海洋国家による集団防衛体制を目指す必要がある。

【上海協力機構首脳会議の宣言骨子】
・大量破壊兵器の不拡散体制を強化
・国連安保理改革で、意見の相違が大きい案への強行採決や期限設定に反対
・政治体制、価値観などの違いを口実とした内政干渉に反対
・地域紛争を防止するための仕組み作りを研究
・テロ、分離主義、過激主義、麻薬取引対策での協力促進が優先課題



(参考記事1)
[資源、安保で結束強化 上海協力機構首脳会議]
 【上海15日共同】中国・上海で15日開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議は、テロとの戦いなど安全保障面での密接な協力をうたった共同宣言を採択した。各国首脳はエネルギー開発などを通じた結束強化を訴え、米国の「一極支配」に対抗し、「多極化」をリードしていく姿勢を明確にした。
 準加盟国イランのアハマディネジャド大統領はSCO関係国によるエネルギー相会議をイランで開くことを提案、SCOを強化し他国による内政干渉や脅しに対抗すべきだと強調、米国をけん制した。ロシアのプーチン大統領も、加盟国間でエネルギー協力を強化する「SCOエネルギークラブ」の創設を提唱した。
(共同通信) - 6月15日20時57分更新

(参考記事2)
[エネルギー協力強化を 上海協力機構が首脳会議]
 【上海15日共同】中国、ロシアと中央アジア4カ国でつくる上海協力機構(SCO)は15日、中国・上海で創設5周年を記念する首脳会議を開いた。準加盟国イランのアハマディネジャド大統領は、SCO関係国によるエネルギー相会議をイランで開くことを提案。同機構を強化し他国による内政干渉や脅しに対抗すべきだと訴え、米国を批判した。資源大国として、米国の「一極支配」に対抗する存在感を誇示、米国の反発を招きそうだ。
 首脳会議には中国の胡錦濤国家主席、ロシアのプーチン大統領らが出席。プーチン大統領も、加盟国間でエネルギー協力を強化する「SCOエネルギークラブ」の創設を提唱した。
 胡主席は「SCOは地域の平和と安全保障面で重要な役割を果たし、大きな成果を挙げている」とあいさつ。各国首脳は会議後、共同宣言などの文書に調印し、同日午後、記者会見する。
(共同通信) - 6月15日14時19分更新

(参考記事3)
[上海協力機構首脳会議が開幕、安全保障問題をテーマ]
 【上海=加藤隆則】中国、ロシアと中央アジア4か国(カザフスタン・ウズベキスタン・タジキスタン・キルギス)で構成する上海協力機構(SCO)の首脳会議が15日午前(日本時間同)、中国・上海で開幕した。
 会議には中国の胡錦濤国家主席、ロシアのプーチン大統領ら6か国首脳のほか、オブザーバーとして、イランのアフマディネジャド大統領、パキスタンのムシャラフ大統領らが参加。
 安全保障、経済協力などに関する宣言を採択し、同日午後、閉幕する。
 アフマディネジャド大統領は胡錦濤主席、プーチン大統領らとの個別会談を予定しており、自国の核問題への支持を求め、活発な外交を展開すると見られる。
 SCOは設立から5年を迎え、これまでに計3回、イスラム過激派勢力によるテロを想定した合同軍事演習を行う一方、昨年には中央アジアに駐留する米軍の撤退を促す宣言を採択するなど、米国けん制の動きを強めている。今回の首脳会議でも、安全保障問題が最大のテーマだが、「第三国に対する軍事同盟にはならない」と国際社会の懸念払しょくに躍起となっている。
 また、SCOは経済分野での結束も強めており、新華社通信によると、首脳会議期間中、各国間で、水力発電所建設などインフラ整備に関する20億ドル規模のプロジェクト、融資が合意される見通しという。
(2006年6月15日12時30分 読売新聞)


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
>大量破壊兵器の不拡散体制を強化 (PJ)
2006-06-17 13:26:34
これがいちばん笑えますねw
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Unknown (猫研究員。=高峰康修)
2006-06-17 23:09:36
>PJさん

イラン呼んでそんなこというなんて、これはもう、最高級の(?)ブラックユーモアですよ。
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Unknown (Repunit)
2006-06-19 10:15:34
>安保理改革~

これは暗に拒否権の正当化ですよね。いっそ新理事国にも拒否権くれませんかね(笑)
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Repunitさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-06-20 00:47:06
さすが、お目が鋭い。要するに中露で安保理改革を阻もうということですね。ちなみにSCOにはインドがオブザーバー参加してるんですが、この点でも中露とインドとの利害が明らかに一致していません。足並みの揃わない機構であることは間違いないでしょう。
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狙いは中央アジア版NATO (tsubamerailstar)
2006-06-20 01:04:57
ずばり反米合従連合ですね。一発逆転はトルクメニスタンへの米軍基地でしょうな。
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tsubamerailstarさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-06-20 01:13:30
>ずばり反米合従連合ですね。



でも呉越同舟なんですよね。中央アジア4国を巻き込んでいるから緩衝材になって中露の利害関係の不一致が明らかになりにくいのであって、そこがつつきどころでしょうね。中露とお付き合いするより日米同盟の側についたほうが得だと思わせることが重要です。
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