猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

陸自の最新型ミサイルデータ、総連団体に流出―”諜報コミュニティ”を確立せよ

2006-01-28 05:56:06 | 安全保障・自衛隊
 24日に紹介した『ヤマハ発動機、中国向けに無人ヘリ不正輸出疑惑』と同様の、いや、それをはるかに上回る、我が国の情報安全保障を脅かす事態が勃発していることが明らかになった。陸自の最新型ミサイルデータが朝鮮総連団体に流出していたという事件である。
 まず、産経の報道に基づいて事実関係を要約しておくと次の通りである。データが流出したシステムは「03式中距離地対空誘導弾システム」(中SAM)で、陸上自衛隊が平成十五年度から順次配備を始めているものである。防衛庁の技術研究本部では六年から七年にかけて、開発に向けた研究を実施しており、研究開発段階から、三菱電機や三菱重工、東芝など国内の大手防衛関連企業が参画していた。それに関するデータを総連傘下の「在日本朝鮮人科学技術協会(科協)」が入手したというのが今回の事件の概要である。そして、この資料に記載されている戦術弾道弾に対する要撃高度や援護範囲などの考え方からは、陸自が中SAM以降の地対空ミサイルシステムで整備を進めるとみられる戦術弾道弾への対処能力を予測できる。それゆえに、北朝鮮側に対抗手段を示唆しうるものであり、我が国の地対空ミサイルシステムを無力化あるいは弱体化させる懸念がある。さらに、科協は、その元幹部が北朝鮮やイランへの精密機器の不正輸出に関与していたことが判明している。すなわち、ならず者国家への武器の不正輸出のルートである可能性が高いということであり、対テロ戦争に参加している我が国がよりによって、ならず者国家やテロ組織に都合のよい存在となっている可能性がある。これが国家安全保障上の大問題でなくて何であろうか。
 さて、読売の報道によれば、流出ルートは、防衛庁技術研究本部→三菱電機→三菱総研→科協元幹部が社長を務めるソフトウェア会社→北朝鮮、ということらしい。とりわけ、三菱総研→ソフトウェア会社の部分で、三菱総研側にソフトウェア会社が総連にかかわりのあるものであったと認識していたか否かが解明すべき重要な鍵である。また、例え知らなかったとしても、そのような軍事機密を扱っている以上、十分な調査をしなかったことの過失は極めて重大であろう。三菱電機の監督責任も問われる場面が出てくるかもしれない。いずれにせよ、北朝鮮の工作員による諜報活動が行われた事が強く推定される。
 このような、敵性国家の工作員による諜報活動に対抗するには、何度も指摘している通り、防諜法(スパイ防止法)の整備が必須である。ヤマハ発動機による無人ヘリ不正輸出事件や冷戦末期の東芝ココム事件など、いずれも外為法による捜査や摘発となったが、少なくとも今回の件や東芝ココム事件などは防諜法の対象とするのが筋であろう。
 防諜法を整備するのは大前提として、我が国の余りにも貧弱な情報(諜報)組織を確固たるものに整備していかねばならない。とりわけ、対外情報(諜報)活動を統括する組織の確立は急務である。今回の北朝鮮へのミサイルデータ流出事件は、北朝鮮の工作員が関わっている可能性が高い。とすれば、これは公安よりも対外諜報組織が扱うべき内容だということである。もちろん一朝一夕に米国のCIAのような機関を作れといっても土台無理な相談だし、そこまでやる必要はない。それよりも、各情報機関がそれぞれ入手した情報をプールし合える、いわゆる「情報コミュニティ」を作ることが肝要である。そうすることによって、政策や戦略の決定のために情報を必要としている内閣に効果的に情報を提供することができる。そのためには「対外情報庁」を設立して「国家情報長官」をおくのがよい。
 「対外情報庁」の具体的な構想については、元・内閣情報調査室長である大森義夫氏の著書『日本のインテリジェンス機関』に詳しいのでごく一部を紹介したい。それによれば、
①「対外情報庁」を設立して、そのトップを日本の国家情報機関の総元締めとする。
②情報庁トップはカスタマー(政権中枢)サイドに立って国家戦略・戦術に沿ったオーダーを情報機関に出す。逆にカスタマーに対しては得られた情報に基づいて戦略・戦術を報告する。
③情報庁トップは総理大臣の承認を得て各機関に情報収集や提供を命ずる権限を持つ。
④対外交渉時の防諜について柔軟に経済官庁を支援する。
⑤「対外情報活動関係法」を制定して日本人を対象にした「盗聴」は基本的に行わないという人権保護の原則を定める。
⑥実効的な活動を阻害しない範囲で国会(非公開の特別委員会など)に報告する仕組みを作る。
⑦カスタマー及び情報機関の仕事振りについて勧告権限を持つ専門委員会を設置する。
⑧情報庁トップは政治家ではないプロフェッショナルをあて、国会の同意を得て総理大臣が任命する。
⑨国家安全保障会議(NSC)を設け統幕議長と情報庁トップを加える。
⑩国家機密情報の漏洩に対しては国会議員を含めて厳罰の対象とする。
以上の他に、身の丈にあったサイズや内容から始めるべきこと、能力主義をとるべきことなどが指摘されている。こういう組織論は、やはりプロフェッショナルの手になるものには到底敵わない。生兵法は怪我の素である。ここで紹介した大森氏の案は、実に緻密でありかつ機能的にして、なおかつ諜報活動が持つ人権侵害などの副作用にもよく気を配った、素晴らしい案であると思うが、いかがであろうか。
 

(参考文献)
『日本のインテリジェンス機関』大森義夫、文春新書(2005)

(参考記事1)
[陸自の最新型ミサイルデータ 総連団体に流出]
 在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)傘下の「在日本朝鮮人科学技術協会(科協)」(東京都文京区)が、陸上自衛隊の最新型地対空ミサイルシステムに関する研究開発段階のデータなどが記載された資料を入手していたことが二十三日、警察当局の調べで分かった。データはすでに北朝鮮に送られているとみられ、警察当局は資料の流出経路などについて捜査を進めている。
 警視庁公安部は昨年十月、無許可で医薬品を販売したとして、薬事法違反容疑の関連先として科協を家宅捜索。その過程で資料が発見された。
 このシステムは「03式中距離地対空誘導弾システム」(中SAM)で、陸上自衛隊が平成十五年度から順次配備を始めている。防衛庁の技術研究本部では六年から七年にかけて、開発に向けた研究を実施。研究開発段階から、三菱電機や三菱重工、東芝など国内の大手防衛関連企業が参画していた。
 科協が入手したのは、この研究開発段階で、三菱総合研究所が戦術弾道弾(TBM)への対処能力を含む性能検討用に作成していたシミュレーションソフトに関する説明資料。資料の表紙には作成日として「平成七年四月二十日」と記載されている。資料の中では、中SAMの展開・運用構想▽要撃高度▽要撃距離▽援護範囲-などに関する数値が記載。また、戦闘爆撃機に対する性能数値も記載されている。
 結果的に、配備が始まっている中SAMでは、戦術弾道弾への対処能力を考慮しての設計は行われなかった。しかし、この資料に記載されている戦術弾道弾に対する要撃高度や援護範囲などの考え方からは、陸自が中SAM以降の地対空ミサイルシステムで整備を進めるとみられる戦術弾道弾への対処能力を予測できることから、北朝鮮側に対抗手段を示唆しうる内容となっている。
 科協をめぐっては、警視庁が十四年に摘発した事件で、元幹部が北朝鮮やイランへの精密機器の不正輸出に関与していたことが判明している。
(産経新聞) - 1月24日3時28分更新

(参考記事2)
[防衛庁のミサイル研究データ、総連系企業に流出]
 防衛庁は24日、ミサイルシステムの研究開発データの一部が、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の傘下団体「在日本朝鮮人科学技術協会」(科協)の幹部だった男性が社長を務めるソフトウエア会社に流出していたと発表した。
 警視庁公安部が昨年10月、薬事法違反容疑で男性の関係先として同社を捜索した際、自衛隊法上の「秘」に相当するデータが含まれた資料が見つかり、連絡を受けた防衛庁が調査していた。データ流出によって、ミサイルの運用に直接的な影響はないという。
 男性の関係先から見つかったデータは、「03式中距離地対空誘導弾システム」(中SAM)に関連する研究開発データの一部。
 防衛庁などによると、この研究開発は1993~95年、将来配備予定の地対空ミサイルに関して三菱電機に委託されたもの。三菱電機は同研究に絡み、社内報告書の作成を三菱総合研究所に委託。三菱総研はさらに、男性が社長を務める東京・豊島区のソフトウエア会社に、報告書作成関連業務の一部を委託していた。
 報告書には、敵の戦闘機を撃ち落とせる距離など、ミサイルの性能に関するデータが記載された図表があり、図表と同一の内容のデータが記載された資料が、男性の会社から見つかった。防衛庁は、同社に業務の一部が委託されていたことは知らなかったという。
(読売新聞) - 1月24日18時47分更新


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (総理大人)
2006-01-28 10:30:32
スパイ防止法、情報統括機関の具体案、憲法においては軍事法廷

これは前原さんに期待します。党首討論で前原さんが情報についての指摘をしているとき、小泉さんは情報についてあまり興味が無くて、前原ガンバレって思ったことがあります。軍事法廷については、自民草案では「わけわかんない」って感じなので、もっとちゃんとしたものを民主党が示してほしいです。
返信する
コメントありがとうございます (猫研究員。)
2006-01-31 02:04:36
>総理

自民党にも期待してください(笑)例えば外務省でも『対外情報機能の強化に向けて』http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/17/pdfs/rls_0913a.pdf という答申がなされたりしています。入り口の入り口にやっと立った程度ではありますが…。

軍事裁判所についてはおっしゃるとおりで、下級裁判所として設けるならば実は現行憲法でも可能です。「軍人の軍人による裁判所」という基本的な性質を忘れてしまっては真の軍事裁判所にはなりません。
返信する
自民党にも期待しますよ!日本に期待です。 (総理大人)
2006-02-01 22:51:13
すごい面々が出したレポートなのに、なにかの遠慮があるのか、なんか中身のないレポートですね。「入り口の入り口にやっと立った程度ではありますが…。」と素人の私も思わずにおれませんでした。

しかし、特に3の事項が今の施策に生かされているのか、このレポートを受けてどんなことが進んでいるのか、いないのか、気になります。



>下級裁判所として設けるならば実は現行憲法でも可能



そうですよね。党内外の事情はあったのでしょうが、あの条文はとってつけたような感じがしました。たしか、検討段階では、特別裁判所だったような気がするので、妥協の産物なんでしょうか。

また、軍事裁判官はどんな身分の人が任命されるのか、軍人以外が被告になることもありえるのかなどなど、これらの全てを法律に委ねるのは戦後生まれの日本人としては大変不安です。どんな事件が軍事裁判の対象になるのかも気になります。また軍事機密等々の公開非公開の関係。国民投票で通すためにも、その辺の配慮はもっと必要だと思います。

概して、軍事法廷は裁定が甘いなどということも聞き及びます。しっかり機密事項に関することはマスコミにも非公開にできて、軍事に詳しい軍人が判事・検察・弁護人として参加できる、そのような仕組みが可能なのであれば、最高裁の管轄下でもかまわないのかなとか夢想したりしてます。やっぱり裁判に、既存の裁判官が参加していることはなんとなく安心できます。軍の規律維持・統制のためだけに裁判があるということでもないだろうと思いますし。私も含めて軍事法廷に対する誤解も多いだろうと思います。各国の軍事裁判に関する仕組みが載っているHPも探したのですが、見つけられません。



また新設の項目全般に言えることだと思うのですが、国民感情の中に「怖くなった」みたいな気持ちがあるだろうと思います。議員の言葉で安心感を与えてもらうことは言うまでもない事ですが、条文に書き込むのが一番の安心です。「憲法はできるだけ簡潔に書く」ってのはよく聞きますが、臨機応変の対応があればよいかなと思います。



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