猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

川崎の精密大手、核関連機器を不正輸出疑惑―君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩(さと)る

2006-02-12 20:05:06 | 安全保障・自衛隊
 1月24日に書いた『ヤマハ発動機、中国向けに無人ヘリ不正輸出疑惑』、1月28日に書いた『陸自の最新型ミサイルデータ、総連団体に流出』に引き続いて、今度は川崎市の大手精密機器メーカーが核関連機器を中国とタイに無許可で輸出していた疑惑という、またしても我が国の軍事機密情報管理に関する体制の甘さを露呈する事件が起きた。週明けにも警視庁公安部が外為法違反容疑で強制捜査に乗り出すと伝えられている。これだけ、不正輸出や情報漏洩の頻発が続出すると、変な言い方だが、読むほうも書くほうも飽きてくる。しかしながら、やはり重要なことなので書かないわけにはいかない。
 今回の疑惑で、無許可で輸出されたとされるものは、「三次元測定器」という核兵器開発に転用可能な精密測定機器である。三次元測定機は、一般的には精密機器の球状の部品のゆがみを立体的に計測するために使用されるが、核兵器製造に必要なウラン濃縮用の遠心分離器の形状測定にも用いられる。遠心分離器は円筒形で、超高速回転することで濃縮ウランを製造するが、ゆがみがあると高速回転させられず、純度の高い濃縮ウランを製造できず核兵器製造ができなくなるため、三次元計測器などを用いてゆがみを正確に測定する必要がある。
 IAEAが03年12月~04年1月にリビアを核査察したところ、核開発関連施設から、今回疑惑をもたれているメーカーの三次元測定機や、円形のゆがみを測定する「真円度測定機」、球形部品の表面の凹凸などを計測する「形状計測器」が見つかっている。したがって、不正輸出された精密機器が核開発に使用された可能性が極めて高いということである。おそらく「核の闇市場」を通じてリビアに流出したのであろう。さらに、その核開発技術は北朝鮮の手にも渡った可能性がある。それこそ、刑法に定められた外患誘致に相当するような悪質極まりない重罪である。もちろんこれが外患誘致の未遂に問われることはなく、結局外為法違反にしかならないのが、我が国の法体系の実情である。
 さて、我が国の将来像については、ものづくりを基盤とする「技術立国」ということがよく言われる。しかし、精密で品質の高い技術を開発し、それにより製品を作り、結果としてテロ支援国家や「ならず者国家」あるいは敵性国家を援助することになったら技術立国どころではない。そんなことになったら「技術亡国」であり、こういう不正輸出や情報漏洩を厳格に取り締まらないとすれば、我が国自身が不作為の「ならず者国家」になってしまうではないか。
 なすべきことは、まず政策的な面では、何度も指摘している通り軍事転用可能な技術に関する情報を厳格に保護する法制度を確立せねばならない。例えば「安全保障に関する情報及び技術保護基本法(仮称)」のようなものである。不正輸出が外為法違反にしか問われないなど能天気に過ぎる。そして、これを効果的に運用するためには、対内的な捜査機能の向上が不可欠である。そのためには、警視庁・警察庁の公安部門を充実させ、例えてみればFBIのような存在にする必要があるだろう。また、外国から機密情報をとりに潜入してくる工作員に対応するためには、対外情報組織の確立が待ったなしである。対内と対外は組織を分けるのがよいという説が有力である。
 以上はこれまでに何度も書いてきたことの繰り返しだが、今日は少し違った観点からも考えてみたいと思う。こういう事件が頻発するのは、倫理道徳が廃れているからに他ならない。法制度を整備してそれをより効果的なものとするには、そもそも国民の規範意識を高める必要があるだろう。中国の有名な古典である『論語』に「君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩(さと)る」という言葉がある。「立派な人間はものごとをなすにあたってまず正義に適っているかどうか考えるが、つまらない人間はまず利益のことを考える」というような意味である。続々と明るみになる事件は、まさにこの言葉を地で行くようなものではないか。論語を中心とする儒学は、時代遅れの形式主義を多少なりとも含んではいるが、倫理道徳の宝庫であることに違いはない。しかもよく読んでみるとそれほど難解なことを言っているわけではなく、ごく常識的なことを(といってもそれを実践するのがなかなか難しいのだが…)言っていることが分かる。どうか、これを機会に『論語』を手に取ってみていただきたい。もちろん西洋の古典などでもよいのだが、私は日本論語研究会の幹事をさせていただいているので、ここは『論語』をお勧めしたいと思う。よく考えてみれば、日本の歴史上でも人気の高い「維新の志士」たちは、江戸時代の儒学を中心とした教育を受けた世代である。そういうバックボーンがあればこそ、列強に植民地化されることなく明治維新という世界でもほとんど類のない大改革ができたのだと思う。「為政者が徳をつめば民は敬慕してついてきて自ずから世の中はうまく治まる」という儒学の徳治主義は理想主義にすぎるが、民主主義の世の中では為政者と民が一体なのだから当時よりもむしろ現在にこそ当てはまるのではなかろうか。
 安全保障上の機密情報保護法制の充実はもちろん不可欠なことであり何度書いても書きすぎることはないくらいである。しかし、国民一人一人の倫理道徳の向上も重要なことなので、敢えていつもとは毛色の違うことを書いてみたがいかがだろうか。


(参考記事)
[川崎の精密大手 核関連機器を不正輸出 警視庁、あすにも強制捜査 北に流出か]
 核兵器開発に転用可能な精密測定機器「三次元測定器」を中国とタイに無許可で輸出していた疑いが強まったとして、警視庁公安部は外為法違反(無許可輸出)の容疑で十三日にも、川崎市の大手精密機器メーカーの強制捜査に乗り出す方針を固めた。警視庁は三次元測定器がタイなどを経由して、北朝鮮に流出していた疑いがあるとみて調べている。同社製品はIAEA(国際原子力機関)がリビアで核査察した際に発見されており、警視庁が捜査を進めていた。
 調べでは、このメーカーは平成十三年、外為法の輸出貿易管理令などで輸出が制限されている三次元測定器と、付属ソフトウエアを経済産業相の許可がないまま中国とタイに輸出していた疑い。
 三次元測定器は核兵器の製造過程で重要なウラン濃縮用の遠心分離機の管理などに利用される。
 このメーカーが製造した精密測定機器は、リビアの核開発疑惑をめぐって最高責任者のカダフィ大佐が核兵器や化学兵器を含む大量破壊兵器を開発していたことを認め、廃棄に同意したのを受けて、IAEAが二〇〇三年十二月から〇四年三月にかけて行った核査察の現場で発見されていた。アルファベットで社名が記された同型の三次元測定器と「円筒形状測定器」「形状計測器」の三台で、リビア国内の核開発研究所から見つかり、問題となった。
 いずれも第三国を経由してリビアに流入したとみられ、IAEAからの通報を受け、警視庁では外務、経産省と連携して関係国に捜査員を派遣するなど同社製品の供与先について捜査を進めていた。
 リビア政府はIAEAに、「核開発関連機器を国際的密売市場『核の闇市場』で調達した」と説明しており、警視庁は「核の闇市場」を通じてリビアに流出したとみている。
 これまでの調べで警視庁は、このメーカーの三次元測定器が、タイなどを経由して北朝鮮や「核の闇市場」に流れていた疑いが強いとみており、解明を図る方針だ。平成十五年には、核開発に転用可能な「直流安定化電源装置」を無許可で北朝鮮に輸出しようとしたとして、外為法違反容疑で警視庁が摘発した商社が、経産省のチェックを逃れるため、タイの企業を迂回(うかい)して北朝鮮に不正輸出を図っていたことが明るみに出たケースがある。
 このメーカーは昭和九年創業、十三年設立の国内最大手。中国やベトナムなど共産圏や、インドなどの核保有国を含む海外二十三カ国に拠点を構えている。
(産経新聞) - 2月12日2時51分更新


☆もしよろしければ、Blog●Rankingをクリックしてランキングに投票お願いいたします。


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
やはり (さいごう)
2006-02-13 23:14:32
 こんばんは、

 やはりスパイ防止法がない悲しさですね。

 こうやって見ていると警察は本当にしっかりやっているなぁと思います。こんな外為法では数年の懲役にしか出来ず、どこにやりがいを見つければいいのかと同情してしまいます。



 スパイを見つけても入国管理法などでしか裁けない日本は、スパイにとって本当に天国でしょうね。
返信する
さいごうさまへ (猫研究員。(高峰康修))
2006-02-14 00:49:24
そうなんですよ。確か外為法違反はせいぜい懲役5年ぐらいだったはずです。警察の方々の地道な努力には頭が下がります。

公安の機能を強化するというと思想統制への第一歩なのではないかなどと時代錯誤なことを言い出すエセ文化人やエセ市民が多いのですが、こういう国際テロ対策や大量破壊兵器不拡散の一環として警察機能を強化することは、国際社会の一員として当然の義務ですよ。スパイ天国というのは旧ソ連のスパイに命名された実に不名誉な呼び名ですが、この分だとテロリスト天国の称号までもらいかねない。

不正輸出だの情報漏洩だの国家安全保障を脅かす事件が続発する国なんて、同盟国としてもあてになりません。こんな国に重大な情報を教えてくれるわけがない。米国に対して少しでも対等な関係に立ちたければ、ここから始めないとお話になりませんよ。
返信する
愛国心教育の不在も… (時事問題ショートコメント)
2006-02-15 02:26:03
影響しているのではないでしょうか?「いいや、日本という国のことなんか、考えなくて」みたいな感じではないですかね…。やはりサヨクがマスコミと教育を占拠した弊害は、ジワジワ、ゆっくり、ボディーブローのように、我が国を蝕んでいると思わざるを得ません…。
返信する
時事問題ショートコメント様へ (猫研究員。(高峰康修))
2006-02-17 23:02:30
コメントありがとうございます。

それはもう仰るとおりだと思います。「国家とは何か」という基本のところから教育しなおさなければなりません。論理的な国家意識を涵養することが重要なのでしょう。愛国心というものを抹殺しようとする動きには断じて屈してはなりません。
返信する