烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

なぜこの方程式は解けないか?

2007-03-21 20:17:37 | 本:自然科学

 『なぜこの方程式は解けないか?』(マリオ・リヴィオ著、斉藤隆央訳)を読む。
 公式をつかって解を求めることができるは、四次方程式までで、五次方程式になるとそうした解の公式はないことをめぐる数学史を中心にして本書は展開され、群論という数学の理論が紹介される。
 五次方程式の解決前史といえるルネサンス期の数学者たちの闘争の逸話も面白いが、前半の中心は解決に直接寄与した二人の天才数学者である。その一人であるアーベルは、五次方程式には係数の四則演算と累乗根だけで表せる解の公式は存在しないことを証明した。もう一人の天才ガロアは所与の五次以上の方程式が、公式で解けるかどうかの判定はどうすればわかるかという疑問に対する解答を与えた。この問題の解決に群という全く新しい概念が導入され、数学的「対称性」という概念が重要となったという。このあたりの専門的なことはよくわからないが、レヴィ=ストロースがカリエラ族の婚姻規則を解明するために、数学者アンドレ・ヴェイユに相談し、彼が群論の知識で解決した有名なエピソードも紹介されたり、ルービックキューブの話がでてきたり話題は満載である。
 後半は物理学の話や進化論まで言及されており著者の博学さが遺憾なく発揮されている。
 自然はどうして対称的なのかという疑問にはどう答えられるのだろうか?「物理学が数学的なのは、われわれが物理学の世界をよく知っているからではなく、ほとんど知らないからである。われわれに見出せるのは、物理学の数学的特性だけなのだ」というラッセルの言葉が真実をついているとすると、自然に潜む対称性というのはわれわれの脳の構造がもたらした認識の特性なのだろうか?