学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

東京都写真美術館「昭和史のかたち 江成常夫写真展」

2011-08-10 19:36:09 | 展覧会感想
しばらくご無沙汰をしていました。少し気持ちが落ち込んでいたので、しばらくブログの更新を休んでいました。気持ちが落ち込む理由が自分でもよくわからなくて、特に仕事で失敗したわけでもなく、失恋をしたわけでもなく、身のまわりで悲劇的なことがあったわけでもなく、ただただ落ち込んで憂鬱になる。年に何度かあることなので、私にとって特別なことではないのですが、やはり気持ちのいいものではなし。今も憂鬱なのは変わらないのですが、やや落ち着いてきたので、こうして筆を取っています。

憂鬱だからといって、私は家に引きこもるのではなく、なるべくどこかへ出かけるようにします。家にいるとますます気が滅入りそうなので。

先日出かけた先は東京は恵比寿の東京都写真美術館です。現在、2階展示室で「昭和史のかたち 江成常夫写真展」を開催しています。「昭和史のかたち」とは具体的に何か。それは太平洋戦争のこと、広島・長崎の原爆投下のことです。写真家江成常夫さんが撮影した太平洋戦争の戦場跡や原爆投下による被害者と残された痕跡、つまりは溶けたガラス瓶、焼け付いた時計などの原爆の威力を物語るものなどの写真を展示しています。

展示会場を入ってすぐ、真珠湾攻撃でハワイ沖に沈んだアメリカの戦艦「アリゾナ」から、いまだ流れ続ける油、それが海面に漂っている写真が迎えます。

太平洋戦争の激戦地。戦後60年以上経過しても今だ戦車や大砲、ゼロ戦などの遺物が残っています。そして忘れてはならない何万という旧日本兵の遺骨も…。展示されている写真には、遺骨が無数に混じりあっている写真がありました。太平洋戦争の戦場となったところは今もこうして遺骨が野ざらしになっている…。

そして広島・長崎の原爆投下による被害者の方々の肖像。写真の方々は、決して原爆投下を風化させてはならないと尽力されてきた方ばかり。キャプションにどこで被爆したのか、その後にどういう人生を歩んできたのかが書いてありましたが、なかでも目立ったのがあまりのつらさに自殺をしようと思ったが思いとどまったとの記載が多かったこと。自分も傷いたばかりでなく、家族が亡くなったり、差別にあったりと、生きているのが苦しかった。私にはもう想像を絶する苦しみです…。


写真。


写真にはとても大きなパワーがあると私は思う。


東日本大震災による大津波で無事に助かった沿岸部の被災者の方々。家が津波で飲み込まれ、家族が亡くなったり、未だに行方不明になっているなかで、心の支えにしているもののひとつが津波が引いた後に見つかった写真。平和で、幸せで、温かい家庭の姿がそこに写っています。写真は津波によるダメージでボロボロになっていたりするけれど、それを現在のデジタル技術で元に戻して大事にしている家族もニュースで見かけました。写真1枚でも、大きな心の支えになる。このとき、私は写真の大きな意味を感じたような気がしました。


こうして私がブログを書いている間にも、時間はどんどん過ぎて、いずれ戦争を体験した人たちがまったく居なくなる時代が来ます。生の声がなくなってしまったら、あの戦争のことを物語るのは、限られたものばかりになってしまう。その限られたもののなかに写真があります。戦争、決して私たちが忘れてはならないこと。そう実感した展覧会でした。


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