細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『家族の肖像』格調高いローマ貴族の老人版<家族もつらいよ>

2016年12月04日 | Weblog

11月29日(火)13-00 築地<松竹本社3F試写室>

M-153『家族の肖像』<デジタル完全修復版>" Conversation Piece " <Gruppo di Famiglia in Interno > (1975) Minerva Pictures

監督・脚本・ルキノ・ヴィスコンティ 主演・バート・ランカスター、シルヴァーナ・マンガーノ <121分・シネマスコープ> 配給・ザジフィルムス

イタリアの映画史で二人の巨匠といわれた、「甘い生活」などのフェデリコ・フェリーニと並ぶ、ルキノ・ヴィスコンティ監督の没後40年のメモリアル記念公開の一本。  

わたしの趣味からいうと、当時もフェリーニ映画の方のファンで、ヴィスコンティ監督では71年の「ベニスに死す」が一番に好きで、なぜか、この「家族の肖像」は見逃していた。

おそらくハリウッド・スターのバート・ランカスターが、63年に「山猫」があったものの、イタリア映画に出ている貸衣装のような軽い存在感が、気に入らなかったからだろう。

だから、今回のデジタル・リマスターでの公開は、まるでゴッホやダリなどの展覧会のように、何か貴重な骨董美術品でも久しぶりに鑑賞するような、ありがたい気分で見たのだ。

ローマの高級邸宅にひとりで暮らす年老いた教授のランカスターは、まさに図書館か博物館のように古書や美術品などに囲まれた、死を待つだけの優雅な生活をしている。

しかし広すぎる豪邸に、二階を旧知の伯爵夫人のシルヴァーナが貸してくれと強引に迫ったので、否応無しに貸してやると、そこに見知らぬ若い愛人の男ヘルムート・バーガーが越して来た。

静かで孤独な日々を送っていた老教授にとっては、とんだ災難なのだが、それでも晩餐に連中を招いたりして、孤独なひとりだけの食事も珍しく賑わいで、ま、それはまた、いい刺激でもあった。

ところが、案の上、上階に居座った若者たちは、その豪華な環境に慣れると、深夜などにも大騒ぎをして踊ったり騒いだりの乱痴気パーティをして、下に住む老人の生活をかき乱すようになった。

ローマの古来からの階級意識の差や、教養や知性の差が、戦後の新しい文化や若者たちの価値観の変化で、まさにその豪邸は以前の静寂と格式を、急速に失いはじめ、とうとう殺人事件が起きる。

あのサマーセット・モームの「剃刀の刃」を思い出すような歴史の格式や礼儀も、まるで津波のような若者たちの乱行で崩れ始めて行く・・・という、「ベニスに死す」のローマ貴族版。

重厚で華麗な、まるでクラシックな絵画展でも見るような映像は、やはり昨今の映画では見る事もないが、ま、これもまた美術館の古い貴族の肖像画展でも見るような、古色な格調は存在している。

クレイジーな若者を演じるヘルムート・バーガー、回想で出て来るドミニク・サンダ、クラウディア・カルディナーレ・・・などなど、われわれには青春のクラス会のフィルムのようだ。

 

■ベテランらしいレフト線の奥まで転がる、さすがのツーベース。 ★★★☆☆ 


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