細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『過去のない男』は、あのヒッチコックの「間違えられた男」の不運に共通する。

2021年12月14日 | Weblog
●7月2日(金)21-30 <ニコタマ・サンセット傑作座>
0V-124-50『過去のない男』"The Man Without the Past (2002) Spootnik Pro, Finland.
監督・アキ・カウリスマキ 主演・マルク・ベルトラ <モノクローム・ビスタサイズ・103分>スプートニク・フィルム、フィンランド
夜の港のベンチにいた中年のマルクは、突然、数人の暴漢たちに襲われて、現金や時計などを奪われて、数日後に病室で意識は戻ったが記憶は失われていた。
退院させられた彼は、生活保護のサルヴェーションの中年女性に介抱されて、港の浮浪者たちと過ごすが、自分が何者で、どうしてそこにいるのかも、わからない。
あのロナルド・コールマン主演の「心の旅路」は、戦争で記憶を失った男の帰郷後の回復を描いた感動作だったが、このヘルシンキの男も、同様に記憶がない。
港の工場跡で寝泊まりして、日常の食事は炊き出しで補っていたが、親切な老人と役所の女性の介護で,少しずつ人間らしい生活を取り戻して行く日々。
悲惨な現実なのだが、そこはカウリスマキのセンスの良さで、暗さとか深刻さはなくて、どこかあの「人生模様」のチャールズ・ロートンのようなユーモアもある。
ドラマは彼を襲った暴漢たちの逮捕や、現実への復帰などは描かないで、そのサイアクの現実を、ユーモアと友情で、少しずつ人間らしい生活を取り戻していく様子を追うのだ。
日常的に悪事を繰り返していた悪党たちは摘発されたが、マルクは自分の生活を取り戻して行く日々で、とうとう、過去の自分の生活空間を突き止めて行く。
しかし、やっと現実を探し当てた我が家は、立派な屋敷だが、妻には愛人がいて、もうまったく別の世界になっていた・・・という、現実の冷酷さ。
彼は、それでも救済を続ける、サルヴェーションの女性とのささやかな時間に、相変わらずに寡黙ながらも、人間として生きる幸福を、少しずつだが、取り戻して行く。
「レニングラード・カウボーイズ」で、いかにも北欧出身の冷ややかなユーモアを見せた監督の、このオフ・ビートなユーモアと<絶妙の間>が、実に心地いい。
終始、表情を変えないマルクの人間味が、このサイアクの人生シナリオにも、生きて行く勇気と味わいはあるのだ、という、懐の深みを感じさせるドラマだ。

●左中間をゴロで抜ける、絶妙なヒット。 ★★★★
■録画VHSでの鑑賞●

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