「お客さん、向こうの生い茂った森の中に城の塔が見えるでしょ
あの中に呪いをかけられた王女様がもう何千年も眠ったままだといいますぜ
口づけをして起こした者が王女と結婚できて
あの城の主になることができるらしいんですよ」
「城といったって、ほどんど崩れているし、土地も荒れ放題だ
だいいち、なんで何千年も眠ったままなんだ
物語ではたしか100年くらいで目覚めるはずだよ」
「今まで何人かの若者や王子が城に入ったんですが
だれも王女を起こさずに帰ってきてるんですよ
うわさでは、眠れる森の美女、じゃなくて
眠れる森のまあまあの人、らしいんですよ」
「そ、それが原因じゃないのか
まあまあの王女と結婚して、あんなボロボロの城を持っても
なんのメリットも無いんじゃないのか」
若者はタクシーから降りず城の前を通り過ぎた
毒にも薬にもならない、まあまあの人は
誰からも気づかれず、そのまま、まあまあのまま人生を終えるらしい
あの王女も一生目覚めることもないのだろうか
眠れる森の美女ならば、アニメやバレエや童話になったろうに
(2012年 八田二郎が語った意味不明の寓話より)