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◎ギリシャ神話 31  大洪水の物語 1

2013-08-04 11:09:15 | HKT48 AKB48
◎ギリシャ神話 31  大洪水の物語 1

洪水神話

 洪水神話とは、大洪水によって世界が破滅し、それまで生きていた人類も、少数の生存者を除いては全滅したが、洪水が引いてからは、また新しい人類の時代が始まったという神話である(「世界神話事典」角川ソフィア文庫)
 洪水神話は、新しい、現在につながる人類の歴史の開始を語る神話であるから、創世神話の1種である(同上)
 

 大洪水は世界の終わりではない
 「大洪水伝説」は人間の滅亡で終わる絶望の物語ではなく、復活再生につながる物語である(「シュメル神話の世界」岡田明子 小林登志子 著 中公新書)

洪水物語デウカリオンとピュラ

○デウカリオンはプロメテウスとクリュメネ(またはケライノ)の息子
○ピュラはエピメテウスとパンドラの娘
○デウカリオンはピュラと結婚した

◎概要
 ゼウスが青銅時代の人間の邪悪さ(あるいはアルカディアの王リュカオンの悪事)に対して怒って、人類を大洪水で滅ぼそうとした時、プロメテウスの忠告により、デウカリオンは箱舟を建造した
 箱舟に必要品を積み込み、ピュラとともに乗り、9日9夜漂白したのち、パルナッソス山の山頂に着いた
 他の人間はすべて死滅した
 2人がゼウスに犠牲を捧げると、神はヘルメスをつかわして、なにごとでも望みをかなえようと言った
 2人は、人間が満ち溢れることを願い、ゼウス(あるいはテミス)は母の骨を背後に投げるよう命じた
 彼らは、母の骨とは大地の骨すなわち石であることを悟り、石を背後に投げたところ、デウカリオンの投げた石は男に、ピュラの投げた石は女になった
 こうして新しい人類が生まれた

デウカリオンとピュラ(おもに「変身物語(上)」 岩波文庫より)
ゼウスは、すでに、地上のいたるところへ雷電をばらまこうとしていた。が、ふと危惧をおぼえた。これほどおびただしい雷火が、ひょっとして聖なる天空に燃え移り、天軸が、端から端まで燃え上りはしないだろうかとおもったのだ(略)
 やがていつか、海も地も燃え、天上の宮殿も焔に包まれて炎上し、宇宙という精妙な一大建築が、滅びのうき目をみるであろうというのだ。そこで、彼は、1つ目族の手で作られた雷電をわきへ置いた
 人類を水で滅ぼすことにして、そのために、天のあらゆるところから大雨を降らせようという、別の処罰方法を思いついたのだ
(略)
 ゼウスの怒りは、天の雨を降らせるだけでは満足しなかった
 弟にあたる海神ポセイドン(ネプトゥヌス)も、水の援軍を送って、彼を助けた。海神は、河川を呼び集め、「水の隠れ処を開き、堰(せき)を押しのけて、諸君の流れをちからいっぱい走らせるのだ!」と命令した
(略)
 氾濫した河は、広い平野を流れくだり、穀物もろともに樹木や家畜や人間や家を、聖像もろともに祭壇を、ひっさらってゆく。無事に残って、倒れもせずに、これほどの災害に堪ええた家があったとしても、いっそう高い波がその頂上をおおっていて、塔さえも、渦まく水の下に押し隠されている。いまや、海と陸の区別はなく、一面が海となっていたが、この海には岸もなかった
(略)
 海の精たちも、木立や都市や家々が水の下になっているのを見て、びっくりしている。(略)

デウカリオンは父プロメテウスの助言により、箱舟をつくり必要品を積み込んでおいた。そして大洪水になると、ピュラと共に乗り込み、9日9夜海上を漂い、パルナッソス山の山頂に着いた

 ゼウスは、世界が一面の水におおわれていて、無数の男たちのなかでひとりだけが生き残り、同じく無数の女たちのなかで、やはりひとりだけが生き残っているのを目にした
 ふたりとも汚れを知らず、ふたりとも信心深いことも見てとれた
 そうと知ったゼウスは、雲を引き裂き、北風に雨雲を吹き払わせると、天に地を、地に上空を開示した
(略)
 デウカリオンはピュラに話しかけた
「(略)ああ、わが父プロメテウスの技を借りて、あらたに人間どもを作り出すことができたら!土の人形に、生命を吹き込むことができたら!」
 こうなっては、天上の神に祈り、神託に助けを求めるしかないとおもわれた
(略)
「テミスさま、われわれの種族がこうむった損失を回復するみちをお教えください!どうか、このうえなくお情け深い女神さま、沈没したこの世界に、お救いを!」
 女神は、心を動かされて、つぎのような神託を授けた
「神殿を出よ!頭をおおって、帯で結んだ衣を解くように!そして、大いなる母の骨を、背後に投げよ!」
(略)
 ややあって、デウカリオンがピュラにつぎのように言った
「わたしの知恵に誤りがなければ、『大いなる母』というのは、大地のことだ。思うに、大地のふところに包まれた石が、神託のいう『骨』であろう。石を背後に投げよというのが、われわれへの命令なのだ」
(略) 
 ふたりは、神殿を出て、命じられたとおり、石をうしろのほうへ投げた
 石が、固くこわばった状態を脱して、しだいに柔らかくなって行き、ある新しい形をとり始めたのだ。(略)何らかの水分を含んだ、土壌質の部分は、変質して肉の機能を果たすようになった。逆に、固くて曲がらない部分は、骨に変わったし、これまで石理(いしめ)をなしていたところは、血管となって残った
 そして、男の手で投げられた石は男の姿をとり、女が投げた石からは、女が新生した
 そういうわけで、われわれ人間は、石のように頑健で、労苦に耐える種族となったのであり、こうして、われわれは、みずからの出生の起源を証拠だてている

○ギリシャ語で石を意味する単語はラーアス、ラーオスという
 ギリシャ語のラーオイは人々、国民を意味するようになった(「ギリシアの神話―神々の時代」中公文庫)

○デウカリオンとピュラの長子はヘレンで、ギリシャ人を総称するヘレネスの語源となったが、古くはテッサリア地方の住民だけに用いられた
 しかし、山のニンフのオルセイスと結婚し、3人の子ドロス、クストス、アイオロスがそれぞれギリシャの主要部族であるドリス人、イオニア人、アイオリス人の神話的始祖となったため、ヘレネスは全ギリシャ民族の総称となった