◎ギリシャ神話 23 オリュンポス12神 10
★アポロンとダプネの物語(おもに「変身物語(上) 岩波文庫より)
・ダプネは北テッサリアのテムペ峡谷を流れるペネイオス河神の娘
あるいは、アルカディアのラドン河神の娘
○アポロンの最初の恋人は、河神ペネイオスの娘ダプネだった
この恋を呼びさましたのは、偶然ではなく、キューピッド(エロス)の怒りだった。アポロンが弓弦を引きしぼっているキューピッドを見て、こう言った
「いたずら坊主、きみはその強力な武器をどうしようというのだ? それを持つのにふさわしいのはこのわたしだ。このあいだも、その弓矢で大蛇(ピュトン)を退治したのだぞ。きみは松明で恋の火を燃え立たせることに満足していればよいのだ。わたしに与えられた弓矢のほまれを横取りしないでくれたまえ」
キューピッドは答えて
「アポロンのおじさま、あなたの弓はすべてのものを射抜くでしょうが、ぼくの弓は
あなただって射抜くのですよ」
こう言って、羽ばたきながら空を翔ってパルナソス山の岩の上に立つと、矢筒から2本の矢を取り出した
1本は黄金でできていて、鋭い鏃(やじり)がきらめいていました
もう1本は、なまくらで、軸の内側に鉛が入っていました
金の矢は、恋心をかきたてる
鉛の矢は、恋を毛嫌いさせる
キューピッドは鉛の矢でペネイオスの娘ダプネを射た
それから、金の矢でアポロンを射た
ダプネは恋という言葉を耳にするのもいとわしく、森の中を駆け回ったり、狩りをして獲物を追いかけるのが楽しみでした
多くの男たちが彼女に言い寄りましたが、およそ男というものに我慢ができず、みんなはねつけました
色恋も結婚も眼中になかった
父親は「そろそろ婿をもらわなくてはな」と口にしても、娘のほうは結婚を罪深いもののように忌み嫌い、
「お父さま、お願いですから、わたしをいつまでも処女(きむすめ)のままでいさせてください。あのディアナ(アルテミス)さまのように」などと言う
しかし、ダプネの美しさがその願いを許さなかった
アポロンはダプネをかいま見て、恋のとりこになった
ダプネがたまらなく好きになり、彼女と結ばれたいと望むようになった
彼女のうなじに垂れかかる乱れ髪を眺めては、きちんと櫛を当てたらどんなに美しく見えるだろう。星のようにきらきらときらめく瞳、匂やかな唇を見つめる。
アポロンはダプネを追いかけるが、彼女はそよ風よりもすばやく逃げ去る
「ペネイオスの娘よ、待っておくれ。わたしは敵ではないのだよ。わたしがきみを追いかけるのは恋のためなんだよ。
ぼくは山男でも、羊飼いでもない。ゼウスがぼくの父だ。ぼくは過去のことも未来のことも知ることができる。歌が弦に和するのも、わたしの働きによっている。
医術はわたしの発明であり、あらゆる薬草の効能も知っている。
しかし、悲しいことに、恋だけはどんな薬草も癒すことができない。
万人に役立つ医術が、その発明者には役立たないのだ」
逃げてゆく彼女は美しく見えた
風がダプネの衣をひるがえし、五月の風に亜麻色の髪がきらめいてなびいている
アポロンは恋の翼にのり、ダプネは恐怖の翼にのって神と処女は駆けつづけた
とうとう力尽きた彼女は、ペネイオスの河の流れが目にはいったので「助けて、お父さま!」と叫んだ
「わたしのこの美しい姿を無くして、別のものに変えてください」
こう言いおわるかおわらないうちに、手足はけだるい無感覚に包まれ、柔らかな腹部は薄い樹皮でおおわれる。髪は木の葉に、腕は枝になった。足はしっかりと地面について根となった。頭は梢となる。輝くばかりの美しさだけがもとのままに残っていた。
それでも、アポロンの恋心は変わらなかった。枝を胸に抱きしめて、樹に口づけしたが、樹はそれを避けるかのようでした。
アポロンは、その木に向かって言った
「きみはわたしの妻にはなれなくなったのだから、せめて、わたしの木になってもらうとしよう。月桂樹よ。わたしの髪も、竪琴も、矢筒も、つねにきみで飾られるだろう。祖国に凱旋する将軍たちの頭を飾るのもきみだ。このわたしの頭がいつも若々しいように、きみもいつも青々として、その葉は美しく枯れることがないようにしてあげよう」
月桂樹は、うなずくかのように梢を動かした。
以後、月桂樹は彼女の名ダプネ Daphneと呼ばれるようになった
★アポロンとダプネの物語(おもに「変身物語(上) 岩波文庫より)
・ダプネは北テッサリアのテムペ峡谷を流れるペネイオス河神の娘
あるいは、アルカディアのラドン河神の娘
○アポロンの最初の恋人は、河神ペネイオスの娘ダプネだった
この恋を呼びさましたのは、偶然ではなく、キューピッド(エロス)の怒りだった。アポロンが弓弦を引きしぼっているキューピッドを見て、こう言った
「いたずら坊主、きみはその強力な武器をどうしようというのだ? それを持つのにふさわしいのはこのわたしだ。このあいだも、その弓矢で大蛇(ピュトン)を退治したのだぞ。きみは松明で恋の火を燃え立たせることに満足していればよいのだ。わたしに与えられた弓矢のほまれを横取りしないでくれたまえ」
キューピッドは答えて
「アポロンのおじさま、あなたの弓はすべてのものを射抜くでしょうが、ぼくの弓は
あなただって射抜くのですよ」
こう言って、羽ばたきながら空を翔ってパルナソス山の岩の上に立つと、矢筒から2本の矢を取り出した
1本は黄金でできていて、鋭い鏃(やじり)がきらめいていました
もう1本は、なまくらで、軸の内側に鉛が入っていました
金の矢は、恋心をかきたてる
鉛の矢は、恋を毛嫌いさせる
キューピッドは鉛の矢でペネイオスの娘ダプネを射た
それから、金の矢でアポロンを射た
ダプネは恋という言葉を耳にするのもいとわしく、森の中を駆け回ったり、狩りをして獲物を追いかけるのが楽しみでした
多くの男たちが彼女に言い寄りましたが、およそ男というものに我慢ができず、みんなはねつけました
色恋も結婚も眼中になかった
父親は「そろそろ婿をもらわなくてはな」と口にしても、娘のほうは結婚を罪深いもののように忌み嫌い、
「お父さま、お願いですから、わたしをいつまでも処女(きむすめ)のままでいさせてください。あのディアナ(アルテミス)さまのように」などと言う
しかし、ダプネの美しさがその願いを許さなかった
アポロンはダプネをかいま見て、恋のとりこになった
ダプネがたまらなく好きになり、彼女と結ばれたいと望むようになった
彼女のうなじに垂れかかる乱れ髪を眺めては、きちんと櫛を当てたらどんなに美しく見えるだろう。星のようにきらきらときらめく瞳、匂やかな唇を見つめる。
アポロンはダプネを追いかけるが、彼女はそよ風よりもすばやく逃げ去る
「ペネイオスの娘よ、待っておくれ。わたしは敵ではないのだよ。わたしがきみを追いかけるのは恋のためなんだよ。
ぼくは山男でも、羊飼いでもない。ゼウスがぼくの父だ。ぼくは過去のことも未来のことも知ることができる。歌が弦に和するのも、わたしの働きによっている。
医術はわたしの発明であり、あらゆる薬草の効能も知っている。
しかし、悲しいことに、恋だけはどんな薬草も癒すことができない。
万人に役立つ医術が、その発明者には役立たないのだ」
逃げてゆく彼女は美しく見えた
風がダプネの衣をひるがえし、五月の風に亜麻色の髪がきらめいてなびいている
アポロンは恋の翼にのり、ダプネは恐怖の翼にのって神と処女は駆けつづけた
とうとう力尽きた彼女は、ペネイオスの河の流れが目にはいったので「助けて、お父さま!」と叫んだ
「わたしのこの美しい姿を無くして、別のものに変えてください」
こう言いおわるかおわらないうちに、手足はけだるい無感覚に包まれ、柔らかな腹部は薄い樹皮でおおわれる。髪は木の葉に、腕は枝になった。足はしっかりと地面について根となった。頭は梢となる。輝くばかりの美しさだけがもとのままに残っていた。
それでも、アポロンの恋心は変わらなかった。枝を胸に抱きしめて、樹に口づけしたが、樹はそれを避けるかのようでした。
アポロンは、その木に向かって言った
「きみはわたしの妻にはなれなくなったのだから、せめて、わたしの木になってもらうとしよう。月桂樹よ。わたしの髪も、竪琴も、矢筒も、つねにきみで飾られるだろう。祖国に凱旋する将軍たちの頭を飾るのもきみだ。このわたしの頭がいつも若々しいように、きみもいつも青々として、その葉は美しく枯れることがないようにしてあげよう」
月桂樹は、うなずくかのように梢を動かした。
以後、月桂樹は彼女の名ダプネ Daphneと呼ばれるようになった