WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

1990年2月、完全なストーンズのライブを見た

2021年08月28日 | 今日の一枚(Q-R)
◎今日の一枚 537◎
Rolling Stones
Steel Wheels
  退院して3日目である。ステロイドパルス療法のために、近いうちにまた3週間の入院をしなければならない。
 私の退院した日(ロンドン時間8月24日)、チャーリー・ワッツが亡くなったらしい。ローリング・ストーンズのドラマーである。最近ずっと聴いていなかったが、ストーンズは大好きである。チャーリー・ワッツのドラムとキース・リチャーズのギターが作り出す独特のビートがストーンズの個性であるといってもよかった。そんなこともあって、退院してからこの3日間、ストーンズをずいぶんと聴いた。
 1990年2月の公演に行ったことが蘇ってくる。ローリング・ストーンズの初の日本公演である。東京ドームでの公演だった。ホンキー・トンク・ウィメンで巨大なダッチワイフのような人形が登場したあのライブである。「悲しみのアンジー」と「ルビー・チューズディ」が隔日で演奏されたが、私が見たのは「ルビー・チューズディ」の日だった。まだベースのビル・ワイマンが脱退する前の、完全なストーンズのライブだった。ご機嫌なライブだった。眼前に展開するストーンズのパフォーマンスに涙を禁じ得なかった。ミック・ジャガーはステージを駆け回り、キース・リチャーズはギターを弾くには不必要と思われる回転を繰り返した。その熱狂の中で、静けさを湛え、求道者然としたたたずまいでドラムに向き合うチャーリー・ワッツは、不思議な存在感を放っていた。静けさに勝る強さはないということだろう。

 今日の一枚は、ローリング・ストーンズの1989年作品『スティール・ホイールズ』である。ストーンズを語る際、あまり取り上げられることのないアルバムである。私自身、ストーンズはミック・テイラーが在籍した1970年代前半が最も好きであるが、ストーンズの初来日公演の直前に初日発表されたこのアルバムは、当時よく聴いた。1980年代以降の作品の中では例外的によく聴いたといってもいい。このアルバムで、気分を盛り上げていたのである。今日、おそらく30年ぶりぐらいにこのアルバムを聴いた。意外だったが、いいアルバムだと思った。テレキャスターの独特の響きがご機嫌である。ストーンズのライブが瞼の裏で蘇ってくるようだ。
 退院後は、ちゃんとしたステレオセットで思いっきりジャズを聴きたいと思っていたのだが、もう少しストーンズを聴くことになりそうだ。

 2021年8月24日、ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツが亡くなった。完全なものは少しずつ不完全になり、時代は変わっていく。