WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

三島由紀夫 VS 東大全共闘

2021年04月17日 | 今日の一枚(M-N)
◎今日の一枚 496◎
Miles Davis
Four And More
 『三島由紀夫 VS 東大全共闘 50年目の真実』をDVDで見た。1969年5月3日、駒場キャンパス900番教室で行われた、三島由紀夫と1000人を超える東大全共闘の学生による公開討論会のドキュメンタリー映画である。なかなか、いや、かなり面白かった。言葉が言葉として通じていると思った。なかでも、三島の他者の言葉を聴く力がすごいと感じた。
 出演者のコメントでは、内田樹と平野啓一郎のものが核心を突いているように思えた。橋爪大三郎のものは、残念ながら、後付けの自己弁明的な言葉に思えた。討論の中での、芥正彦という人が痛々しかった。批判や軽蔑ではない。むしろ、ある種のシンパシーである。アイデンティティーという概念や記号学という武器なしに、素手で社会や文化を、根源的に論じようとする姿が痛々しかったのである。それは高度に抽象的で観念的な思考だったが、生産という言葉を吟味せず、議論を生産関係論へ転換させようとする学生より、ずっと真摯で誠実で根源的な問いに思えた。ただ、芸術的表象に関心をおく芥と、思想に関心をおく三島の議論は、かみ合わず、芥はそれにイライラしているように見えた。人は見たいように見るのである。ただ、芥がその後の人生で自らの思考を問い続けてきたことだけは確かなように思える。
 全体的に、面白い作品だったが、欲をいえば、討論の場面の三島と学生の言葉ををもっと聞きたかった。最近、耳が衰えた所為か、はじめテレビの音声が聞き取りにくかったが、ネックスピーカーを使うとで音声がクリアに聞こえ、時間が過ぎるのがあっという間だった。
 ピュアだが、現在とは違った意味でハードな時代だったのだと思う。根源を問われるという意味においてだ。私の時代に、アイデンティティーの概念や記号学や構造主義というツールがあって良かったと思う。でなければ、強度のない人は、錯乱するか自殺してしまったかもしれない。
宣伝文では、タレントのYOUの次の言葉が印象深かった。
108分間。彼等の言葉と熱に圧倒され続けた。
生きる考える行動をする意味が明確に与えられた時代。
承認欲求に溺れるような真逆の50年後。
同じ場所とは思えない。

 今日の一枚は、マイルス・ディヴィスの『フォア・アンド・モア』である。1964年のニューヨーク、リンカーンセンターでの実況録音盤である。
Miles Davis(tp)
Herbie Hancock(p)
George Coleman(ts)
Ron Cater(b)
Tony Williams(ds)
 スピード感とドライブ感がいい。60年代のマイルスのサウンドに決定的な影響を与えているのは、実はトニー・ウィリアムスのドラミングなのだ、と私は以前から思っている。
 東大全共闘には、60年代のマイルスが似合う。それは、速度と強度と孤独に関係しているように思う。
 

あのくたらさんみゃくさんぼだい

2021年04月17日 | 今日の一枚(I-J)
◎今日の一枚 495◎
Joe Henderson
Mode For Joe
 「あのくたらさんみゃくさんぼだい」、レインボーマンである。漢字では、「阿耨多羅三藐三菩提」と書くらしい。私も最近知った。もちろん仏教用語である。《一切の真理をあまねく知った最上の智慧 》、あるいは《真理を悟った境地》のことをいうようだ。当然であろう。レインボーマンは、インドの山奥で修行して提婆達多(ダイバ・ダッタ)の魂を宿しているのだ。 ヤマトタケシは、この「あのくたらさんみゃくさんぼだい」を三唱した後、「レインボー・ダッシュ○○」と叫び、必要に応じて、七つの化身のうちのいずれかに変身するのである。七つの化身とは、月の化身(ダッシュ1)、火の化身(ダッシュ2)、水の化身(ダッシュ3)、草木の化身(ダッシュ4)、黄金の化身(ダッシュ5)、土の化身(ダッシュ6)、太陽の化身(ダッシュ7)である。一週間である。七つの化身=七曜=虹の七色ということで、レインボーなのであろう。ヤマトタケルを思わせるヤマトタケシが、仏教的な化身に変身するのである。神仏習合である。
 内容は、もはやよく覚えていない。webによると、東南アジア諸国など、かつて日本に侵略された国の人々による秘密結社「死ね死ね団」が、日本人を憎悪し復讐するため、日本国家の滅亡と日本人撲滅を企むという設定だったようだ。だから、敵は怪人や宇宙人ではない。人間の、反日国際テロ組織なのだ。「死ね死ね団」の手口はすごい。毒薬や麻薬を配布したり、偽札をばら撒いて日本経済を大混乱に陥れようとしたり、地底戦車で人工地震を発生させたり、あるいは同時爆破テロを計画したり、石油輸入の妨害や、要人の誘拐などもあったようだ。 
 ヤマトタケシは、こうした敵と祖国を守るために戦うのである。しかし、私生活を犠牲にして戦いに明け暮れる日々に疑問をもったり、戦えば戦うほど師の提婆達多の平和を希求する教えから遠ざかっていくのではないかと悩んだりする。 
 すごい物語である。定年したら見てみたいものだ。
 さて、今日の一枚は、ジョー・ヘンダーソンの1966年録音盤、『モード・フォー・ジョー』だ。パーソネルは次の通り。
Lee Morgan(tp)
Curtis Fuller(tb)
Joe Henderson(ts)
Bobby Hutcherson(vib)
Cedar Walton(p)
Ron Carter(b)
Joe Chambers(ds)
 フォーマットは、三管フロントによるハードバップそのものだが、音楽のイディオムは完全に60年代新主流派的である。シダー・ウォルトンのピアノがサウンドの傾向を規定しているように思える。一曲目から、全体を引っ張るようなスピード感で展開されるジョーヘンのソロが素晴らしい。後に続くメンバーたちも、そのスピード感を維持しつつ、流麗なソロを展開する。アクセントをつけるヴァイヴが何ともいえず、いい味を出している。
 ジョーヘンは基本的に好きだ。