WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

発掘狂騒史③

2021年04月10日 | 今日の一枚(K-L)
◎今日の一枚 491◎
Kenny G
Gravity
 「発掘狂騒史①」(→こちら)と、「発掘狂騒史②」(→こちら)の続きである。
 旧石器捏造事件で捏造発覚に大きな役割を果たした、角張淳一君についての話だ。角張君とは同じ大学の史学科3組の同期だった。専攻も違い、親しい関係ではなかったが、顔と名前ははっきりと憶えている。卒業後のことは、上原善広『発掘狂騒史』と、同級生からの若干の伝聞によって知るのみである。角張君は同じクラスだったが、いろいろな事情で私より2歳年上だった。
 すでに、小田静夫や竹岡俊樹が藤村らの石器を批判する論文を発表していたが、考古学界からはほとんど無視されていた。角張君は、もともと藤村とは友人だったようだが、石器の発掘状況に疑問をもち、竹岡俊樹に相談、旧石器形式論の指導を受ける中で、捏造に確信をもつにいたった。友人と真実の間での葛藤、また発掘を請け負う遺跡調査会社の立場もあり、身を引き裂かれる思いをしながら、2000年7月に代表を務める発掘調査会社アルカのHPに「前期・中期旧石器発見物語は現代のおとぎ話か」と題する論文を発表する。この論文が、考古学界や考古ファンの間に静かな波紋となって広がった、と『発掘狂騒史』は記す。そうした中で、考古学に詳しい知人から電話で情報を受けた毎日新聞記者が動き、藤村が石器を埋めている決定的瞬間を映像で捕らえたのである。
 『発掘狂騒史』によれば、角張君は苦学の末、5~6年かけて大学院を出たものの、結局、博士論文は出さなかったという。一度は提出したのだが、「岩宿の前期旧石器」に触れた個所が、委員会で問題にされて駄目になったらしい。「岩宿の前期旧石器」とは、相澤忠洋や芹沢長介が発見した石器のことで、学界でもその真偽が問題視されていたが、角張君はそのほとんどを否定し、さらに1949年に杉原荘介が岩宿で発掘したハンドアックスさえも捏造の可能性があるなどとしたため却下されたらしい。角張君はこのとき、「教授が絶対というのが嫌でたまらない、議論は学生であっても平等であるべきなのに、考古学界はまるで白い巨塔だ」といって憚らなかったようだ。結局、角張君は学閥至上主義の考古学界に嫌気がさし、郷里で遺跡発掘調査会社を立ち上げたのだった。学問的な批判精神と厳密さを追究するまなざしをもっていたのだろう。

 今日の一枚は、ケニーGの『愛のめざめ』だ。1985年作品である。スムースジャズの快作である。本当に懐かしい。ジャズ的な演奏とはちょっと違うが、何を隠そう当時は結構聴いた。安物のAIWAのヘッドホンステレオにカセットテープを入れ、夜の渋谷の街を歩いた日々がよみがえるようだ。⑤ Japan はやはりいい曲である。今聴いても、心がちょっとざわめく。何十年も聴いていなかった作品であるが、カセットテープが目につき聴いてみた。貸しレコード屋で借りたLPをダビングしたものだ。このアルバムを聴いていた頃、馬場壇A遺跡から発見された「旧石器」にナウマンゾウの脂肪酸が付着していたことが大きな話題となっていた。数年後、高校教師となった私は、郷里宮城県のこの遺跡を授業で大きく取り上げていた。