文人墨客に愛された市川で漆黒のスープを
万葉の昔より文人墨客に愛された千葉県市川市。戦前から昭和中期にかけては、富裕層の別荘地として人気を博した地でもある。田園の風趣が政財界の大物に愛され、北原白秋、幸田露伴、永井荷風らも居を構えたことでも知られている。菅野駅の周辺は今も県内随一の高級住宅街。大きなお屋敷も残っている。
自らを「断腸亭主人」と名乗っていた永井荷風は、中年の頃から市川で隠棲。1959年に他界するまでの42年間を記した傑作「断腸亭日乗」には、晩年暮らした本八幡や菅野の様子も描かれている。いま、JR本八幡駅の南側には、大胆にも荷風から名を取った「だんちょう亭」というラーメン店がある。なかなかに評判もよろしい。


醤油、味噌、塩、つけ麺と揃っているが、一番人気は醤油らーめんの「濃口」だ。もはや醤油100%にしか見えない竹岡式ラーメン並の漆黒のスープだが、塩辛さは控えめで、動物系や魚介出汁の旨味をしっかり感じとれる塩梅。茶色に染まった中太麺は、スープをよく吸ってモチモチの食感に仕上がっている。
そしてチャーシューはテイクアウトも出来るという自信作。豚バラ肉を醤油で味付けしたもので、カウンターの七輪で炙ってから提供される。トロみ味付けともに良し。夜のスタッフの愛想の無さは残念だが、全体的に味は申し分なし。最後は卓上のヤカンに入れられた冷たいルイボスティを飲み干してさっぱりと完食。
そういえば、断腸亭主人こと荷風は相当な遊び人で、2度の離婚を経験。孤独ゆえか「ねえ、あなた。話をしながらご飯を食べるのは楽しみなものね」との言葉を遺している。しかし、その断腸亭の名が、一人客の多いラーメン店に冠されているとは、なんとも面白いものである。
<店舗データ>
【店名】 だんちょう亭
【住所】 千葉県市川市南八幡4-7-12
【最寄】 JR総武線「本八幡駅」徒歩2分