ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

フランス発、社会保障の不正受給を取り締まるべし!

2011-08-23 21:26:46 | 政治
フランスと言えば、エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)が“la famille nucléaire égalitaire”(平等主義核家族)と呼ぶ、自由と平等に価値を置く家族を基盤とする社会と重なるエリアも多く、独立を大切しながら、平等、連帯もなおざりにしない社会というイメージがあります。その一方で、お金にはしっかりしており、例えば税務署にしてもどこに引っ越そうと追いかけてきたり、オーディオ・ビジュアル税の納税対象者かどうか、家庭訪問をしてテレビがあるか確認していくこともあります。手当は厚く、しかし不正は許さない・・・そのようなイメージをもっていたのですが、実際はそうでもないようです。

どのような問題があるかというと、手当の不正受給と脱税。特に、前者は低所得者層で、後者は高額所得者層で、見られるそうです。そうした現状に、与党・UMP(国民運動連合)右派の国会議員たちが異議を申し立て、不正を許さない、ということを大統領選挙で訴える政策の一つにすべきだと叫んでいます。

その中心にいるのは、運輸担当大臣のティエリー・マリアーニ(Thierry Mariani)。1958年8月8日生まれですから、53歳になったばかり。名前から分かるように、イタリア系。国際関係学院(Institut libre d’étude des relations internationales:ILERI)で学士号取得。1976年頃から、ジャック・シラク(Jacques Chirac)の近くで政治活動を始めました。1993年に下院議員に当選。以後、2010年に運輸担当閣外相に就任するまで議席を維持。移民の家族呼び寄せビザ申請の際のDNA検査の義務化、不法滞在者の緊急収容施設の利用禁止など、かなり右寄りな修正案の上梓などを行ってきました。2010年7月には、党内会派・“le collectif parlementaire de la Draite populaire”を設立し、治安と移民対策を活動の中心に据え、積極的な活動を行っています。

さて、そのマリアーニ担当大臣、社会保障の不正受給などについて、どのように叫んでいるのでしょうか。7日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

運輸担当大臣のティエリー・マリアーニは、不正受給と戦うために、全国を網羅する社会保障の受給者リストを作るべきだと、週刊紙“Journal du Dimanche”とのインタビューに答えている。与党UMPの右派40人ほどを統合する党内会派“la Droite populaire”の創設者であるマリアーニ担当大臣は、大統領選挙のキャンペーンへ向けて、グループとして雇用、社会正義を眼目に15ほどの提案を行うことになると述べている。

「提案は、社会の上層と下層で不正な利益を得ている人たちと戦うことに主眼が置かれている。不正に対応すべく、すべての社会手当受給者を網羅するリストを作成したいと思う。そうしたリストがあれば、制度の悪用を見つけることができるだろう。例えば、一人の人間がRSA(Revenu de solidarité active:積極的連帯所得手当:生活保護を受けていた失業者が就職しても手当の一部を引き続き受け取れることにより、働かずに生活保護を受けるよりも、少しでも働いた方が収入増加につながる制度で、2009年6月1日に施行されました。受給者に就職することを奨励し、受給者の社会参加・復帰を手助けすることが狙いです)をいくつかの県で受給しているケースがある。書類を相互にチェックしないから、このようなことが可能になっているのだ」と、マリアーニ議員はドミニク・ティアン(Dominique Tian)議員の最近のレポートを基に説明している。

高額所得者層については、多額の金融資産運用益への課税を提案している。「個人の運用益は企業の利益とは別物だ。企業の活動は国を発展させることに寄与しているのだから」と、マリアーニ担当大臣は語っている。しかし、国家財政赤字の責任の一端は一定の企業が負うべきものだ。

会計検査院の発表したデータによれば、個人の社会保障不正受給額は20~30億ユーロ(約2,200~3,300億円)になる。一方、不法就労による国家の損失は80~150億ユーロ(約8,800億円~1兆6,500億円)に達し、企業の10~12%が不法就労に関わっている(個人の不正受給よりも、企業による不正雇用の方が国庫に対しては大きな損失になっているようです)。

社会保障の不正受給は2007年以来、UMPのキャンペーンテーマの一つになっている。今年の4月、労働・雇用・厚生大臣のグザビエ・ベルトラン(Xavier Bertrand)がこの不正に関する対策をより厳重にするよう発表していた。「不正、それは、システムD(難問を創意工夫で克服すること)ではないのだ。まさに泥棒なのだ」とベルトラン大臣は語っているが、失業状態を正確に把握することにより数億ユーロ(数百億円)を節約することができるとも力説している。

・・・ということで、社会党の好きな社会保障の問題点を指摘し、右派の票を増やそうというのではないかと思われる、与党・UMPの不正受給問題追及です。

ただし、『ル・モンド』の記事も指摘しているように、社会保障の不正受給は個人単位ですので、額は小さい。言うまでもなく、不正は行ってはいけないことですが、額としては企業の脱税などの方がはるかに大きい。企業との関係が深いUMPが企業による不正行為をどこまで追求できるのか・・・片手落ちになれば、国民からの反対の声が大きくなるのではないでしょうか。

企業寄りのUMP、組合寄りの社会党。それぞれ異なる視点から国を、社会を良くする提案・政治を行ってほしいものですが、選挙のための足の引っ張り合いになってしまっては、国民が置いてきぼりを食ってしまいます。政界での権力闘争に熱中するあまり、国民の暮らしが見えなくなってしまう・・・国の違いを問わないのかもしれません。
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