ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

論点の見えない、フランスの社会党予備選挙。

2011-08-29 22:13:44 | 政治
フランスでは、来年の大統領選挙へ向けて、社会党の公認候補を選ぶ予備選挙まで一月半となりました。世論調査では、6人の立候補者の中で、フランソワ・オランド(François Hollande)前第一書記が先行し、マルティーヌ・オブリー(Martine Aubry)現第一書記が追う形勢になっています。

フランス人、それも政治家が6人も集まれば、それこそ喧々諤々、口角泡を飛ばさんばかりの論戦が行われているに違いないと思ってしまいますが、あにはからんや、静かなスピーチが繰り返されているようです。従って、明確な主張の違い、政策の差が見えてこない・・・

国会議員はお互いの政策や、候補者の人柄もよく知っているからいいでしょうが、投票権を持っている多くの党員は困ってしまうのではないでしょうか。マスコミなどを通しての、漠としたイメージはそれぞれの候補者に持ってはいるものの、社会党候補有利という世論調査ですから、新たな大統領を選ぶ選挙となるかもしれない、今回の予備選挙。しっかり、その政策を聞いて投票したいものですが、論戦がヒートアップして来ません。

欧米が日本化してきている、と一部報道で言われています。政策論争がない社会党予備選もその一端ではないか、と思われてしまうほどですが、実際はどのような状況なのでしょうか。27日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

オブリー陣営は、攻勢に転じることにした。世論調査では、オランド候補に離されているが、予備選挙まで6週間となり、リール市長でもあるオブリー候補は、ラ・ロシェル(La Rochelle:ボルドーとナントの間、Poitou-Charentes地域圏にある、大西洋に面した市)で始まった恒例の夏の党大会の初日をライバルであるオランド候補への本格的な攻撃の日にしようとした。

まず、朝は公共ラジオ局“France Inter”の番組で、社会党第一書記としてのオランド候補の仕事ぶりを非難。2008年に第一書記のポストを引き継いだ時、社会党は哀れを催すような状況だった、と語っている。同じタイミングで、彼女の側近の一人であるジャン=クリストフ・カンバデリ(Jean-Christophe Cambadélis)は、自らのブログで、オランド陣営が望んでいる「静かな予備選挙」を激しく非難した。

攻撃は、すでに始まったと言える。党員やジャーナリストが集まる夏の党大会初日に脚光を浴びようと、マルティーヌ・オブリーは演説を連続して行った。最初の演説は、国内各地へメッセージを届ける役割を担った地方組織の代表者を前にしたものであり、そして二つ目は、支持者の前で行われた。会場となった部屋は満員で、演説は勇ましいものとなった。オブリー候補は、サルコジ大統領を非難したが、フランソワ・オランドへの批判も忘れはしなかった。彼の名は持ち出さないものの、ニコラ・サルコジに対峙する際には、確固たる決意をもたなくてはいけない、例えば兼職など重要テーマについて語ることを躊躇してはいけない、などと語った。対立候補へのとげのある言葉だが、例として挙げたテーマは多くの社会党議員が関わってくるものだけに、深入りはしなかった。

二つの集会の後で、オブリー支持者たちはオランド候補への批判を続けた。オブリー陣営の戦略担当者であるギヨーム・バシュレイ(Guillaume Bachelay)に倣って、フランソワ・オランドの緊縮策に関する演説は、現政権の緊縮政策と大きくは変わらない、と批判したのだ。

フランソワ・オランドに対してマルティーヌ・オブリーが有利になるよう、彼女の側近たちは、予備選の投票者として社会党員だけでなく、すべての左翼支持者をも惹きつけようと画策している。ジャン=クリストフ・カンバデリは、100万人の投票者を期待しているが、実際に投票行動に移るのは最も忠実な社会党員たちであろうと予想している。公務員、教員、教授、組合などの団体活動家が目立つだろうとして、肝腎な点は、こうしたコアのターゲットに、大統領選にとらわれ過ぎずに、自らの政策を語りかけることだ、と述べている。

オブリー候補の2回目の演説は、党大会出席の全員が初めて集まった場で行われたが、そのテーマは財政危機で、オブリー候補は自らの考えをいかに現実に適応させるかについて語った。サルコジ政権の予算・財政策を批判し、右翼は事態の改善を願っているだけだと糾弾。「他に方法はないのだと言いながら、フランス国民を危機に陥れた」と語り、2012年の政権交代は単に緊縮策の上にさらに緊縮策を加えるものではなく、成長の道を再発見することであり、重要なことは変革することだと、明確に語った。

左翼の考える政策を実行しつつ、財政赤字を減らすことは可能だとマルティーヌ・オブリーは考えている。国債発行の削減に自らの足場を置いているフランソワ・オランドとの違いの一つであり、「私はかつて大臣として社会保障の再建と国民皆保険の実現を同時に行った」と実績を強調している。そして、社会党左派の中心人物、アンリ・エマニュエッリ(Henri Emmanuelli)を称賛し、欧州の保護主義の端緒を開いた彼の公正な貿易という考えを継承すると、述べている。

彼女の演説は拍手喝采だったが、外部の人間からは、どうしても主要な候補者二人の間に違いが見えてこない。社会党員同士の激しい論争があるのではないかと言われていたこの日、とうとう二人の候補者の間に対立らしい対立は起きなかった。フランソワ・オランドはライバルの意見に直接的に答えるのを注意深く回避していたし、自分のキャンペーンをよりよく遂行するために、論争には見向きもしなかった。オランド陣営支持者の一人、ミシェル・サパン(Michel Sapin)は、「焦らず遅れず、いつものリズムで行こう、これがスローガンだ。かなり大きな力になる」と語っている。

25日の夜にラ・ロシェルに到着した後、党員、ジャーナリスト、地元民と意見交換するなどしたフランソワ・オランドは、27日の夜、部屋いっぱいに詰めかけ、ボルテージも上がった支持者らを前に、ミッテラン元大統領のような口調で演説を行った。「私の唯一の関心は、勝利するために活動することです。みなさんにはお互いに戦ったりしていただきたくない。我々の間に、どのような違いがあるのでしょうか。みな同じ構想を持っているのですから」と語りかけた。しかし、ここにこそ、予備選を理解難しくしている原因の一つがある。候補者の誰かが論争を仕向けると、すぐその門は閉じられてしまうのだ。

・・・ということで、社会党は予備選による党分裂を回避すべく、ディベートを避けているようです。予備選に勝利した公認候補を、挙党体制でサポートしよう、あるいはサポートしてほしいという思いがあるのでしょうね。フランソワ・オランドの後任第一書記を選ぶ際には、かなり激しい選挙戦が行われ、党内に不協和音も出ました。そのことが一種のトラウマとなり、来年の大統領選本番へ向けて、党内対立は避けたい、という思いが強いのかもしれません。

一方、我が国の民主党は、党所属の衆参両議員の投票で、5人の候補者から野田財務相を新代表に選びました。公示から投票まで二日とちょっと。本格的論戦など、期待する方が間違いというスケジュールゆえ、論争による党内分裂は考えられませんが、今までと同じく、反小沢、親小沢という政界雀の分かりやすいレッテル貼りが解消されず、党が大きく二つに分かれ、ねじれ国会プラス党内不一致のままで、政治が停滞し続けるのでしょうか。それとも、人事に示された挙党体制により党がついに一つにまとまり、野党との協議もスムーズに進み、久々に政治が前を向いて歩き始めるのでしょうか。さて、どうなりますか。

新首相の話題、例えば家族構成、子どもの頃の素顔、思わぬ一面・・・そうしたゴシップ的プロフィール紹介で盛り上がるのも数カ月。その後は、一転、粗探し。批判の連続に支持率も下がり、来春ころには退陣はいつかが話題になる。そして来年9月の代表選へ向けての話題で再び盛り上がる。毎年首相が替われば、同じサイクルでマスコミに格好の話題を提供することになります。政局の話題で、視聴率が上がる。発行部数が伸びる。実は、マスコミがこの1年サイクルの発案者であったりして・・・そう思えてしまうほど、首相がよく替わり、政局の話題には事欠かない日本の政界ですね。
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