ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

ジャック・ドロール曰く、ユーロとEUは危機に瀕している!

2011-08-20 21:13:06 | 政治
ジャック・ドロール(Jacques Delors)・・・1925年7月20日生まれ、86歳。キリスト教民主主義を信奉する家庭で育つ。大学再編前のソルボンヌ大学で経済学を専攻。フランス銀行(Banque de France)勤務の傍ら、組合活動に関わる。やがて政界に身を置くようになり、シャバン=デルマス(Jacques Chaban-Delmas)首相(在任期間は1969~72)の顧問として働く。1979~81年に、欧州議会議員。ミッテラン(François Mitterrand)大統領時代にモーロワ(Pierre Mauroy)内閣で1981~84年に経済・財政・予算相。そして1985~94年に、欧州委員会(Commission européenne)委員長。1996年にはシンクタンク“Notre Europe”(我らのヨーロッパ)を設立し、EUに関する提言活動などを行っている。娘は、社会党第一書記のマルティーヌ・オブリー(Martine Aubry:2001年からリール市長を兼務しているが、前任者はピエール・モーロワ)。

現在のEUの基礎となるマーストリヒト条約(traité de Maastricht)は、1992年2月7日に調印され、翌93年11月1日に発効しましたが、この期間、欧州委員会の委員長を務めていたジャック・ドロール。共通市場と欧州共同体を実現したとして日本でも有名な、この元欧州委員会委員長が、ユーロとEUへの危機感を表明しています。ヨーロッパ各国首脳の対応は、危なっかしくて見ていられない! 思い入れがあるだけに、つい見る目も厳しくなるのでしょうか、それとも、客観的に見ても危機に瀕しているのか・・・

詳しくは、18日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

86歳になるジャック・ドロールが、EUの現状について悲観的な分析を行っている。18日、元欧州委員会委員長はベルギー紙“Le Soir”とスイス紙“Le Temps”との共同インタビューに答えて、ユーロとEUは崩壊の瀬戸際にあると語った。

「目をしっかりと開けようではないか。ユーロとEUは崖っぷちに立たされている。しかし、転落しないための方策は至ってシンプルだと思われる。私が常に主張してきたように、加盟国が経済協力の強化を受け入れるか、あるいは、さらに多くの権限をEUに移管することに同意するかだ」と、ドロール氏ははっきりと述べている。

1985年から94年まで、欧州委員会の委員長を務めたジャック・ドロールは、インタビューで、欧州各国の首脳たちは憶病すぎると皮肉っている。その中でも筆頭に挙げられるのが、サルコジ仏大統領とメルケル独首相だ。ドロール氏によれば、16日に行われた仏独首脳会談は、現状には何ら影響を及ぼしていない。また、ユーロ圏に財務相(経済政府)を創設する案はばかげた思いつきに過ぎないと批判している。

ドロール氏は、各国の財政赤字がそれぞれの国のGDP(PIB:produit intérieur brut)の60%までに抑えられるよう、加盟国間で分散することを勧めている。「財政赤字の分散は火を消すためのポンプのようなものであり、共同体としての協力に意味をもたらすものだ。加盟国は同じタイミングで経済政策に関する6つのガイドラインに対する反対を取り下げるべきだ。そのガイドラインには、予算状況が悪化した場合、欧州議会がその国への制裁をより自動的に行えるようにするという内容も含まれている」と、詳しく語っている。

「EUが経済において成功するかどうかは、トライアングルにかかっていると私は常に言ってきた。成長を刺激する競争、EU経済を強化する協力、共同体としてまとまる連帯からなるトライアングルだ。今こそそれらを行動に移すべきだ。実施に移さなければ、市場はユーロとEUに疑いの眼差しを投げかけ続けるだろう」と、警告を発している。

「今回の危機が始まった時以来、EU各国の首脳たちは、現実から目をそらしてきた。7月21日のユーロ圏の首脳会談での公約を市場が信じると、どうして考えることができるのだろうか。9月末まで実施に移されるのを待たねばならないというのに」と、続けている。

2011年1月にベルリンで行われた、欧州議会・ドイツ緑の党が企画したEUの将来に関する講演会で、ドロール氏は、現在の欧州首脳と欧州委員会のトップたちにビジョンがないこと、彼らが火消し役ではあっても未来を設計する人間ではないことを残念がっていた。

・・・ということで、EUを造ってきた人にとっては、現在の首脳たちは頼りない、任せておけない、と映るようです。ビジョンがない、ヨーロッパの将来をどうするのかを考えていない、目先の問題を解決するので精いっぱいだ。

一方、日本では、ビジョンがない首脳というのは、特に珍しくもありません。得意な分野は権力闘争、という政治家のゴールが首相の座であったりします。しかも最近では、国家観さえもないと批判されています。目先、あるいは身の回り5mにしか関心がない。

欧州で、日本で、目先の問題への対応しかできない、あるいは目の前の問題にしか反応しない首脳がトップにいる。どうしてなのでしょうか。危機感の欠如。なんとかなるという、根拠のない楽観主義。危機を経験していないだけに、厳しさがない。戦争による廃墟、戦後の復興、新たな国家・共同体の創造・・・そうした経験がないことが背景にあるのではないか、そのような気がします。

トップが頼りないのは、平和な証拠なのでしょうか。それとも、混乱へ向う道しるべなのでしょうか。前者であってほしいと願っています。