ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

ノルウェーのテロリスト、日本人医師による精神鑑定を要求す。

2011-08-03 21:35:18 | 社会
ノルウェーのオスロで77名もの人命を奪ったアンネシュ・ベーリング・ブレイビク容疑者。犯行前にネット上で公開したその宣言書“2083:A European Declaration of Independence”(2083年、欧州独立宣言)の中で、多文化主義を否定し、自らの単一文化の維持・保護に努めているとして、日本・韓国・台湾を称賛しています。また、個人的に会ってみたい人物として、ローマ法王、ロシアのプーチン首相とともに、麻生元首相の名が記されています。なぜ、麻生元首相なのか、前任の福田元首相でも、後任の鳩山前首相でもないのはなぜか。たぶん、この1500ページにも及ぶ文書を書いていた時の日本の首相がたまたま麻生太郎氏だったのだろうと言われていますが、いずれにせよ日本はブレイビク容疑者にとって関心のある国のようです。

その日本びいきのブレイビク容疑者が、さらに日本を話題として提供しました。精神鑑定は、日本人の精神科医に頼みたい・・・連続テロの容疑者に愛される日本。自爆テロを「カミカゼ」(仏語発音では、カミカズになりますが)と今でも呼んでいるフランスのメディアはこの要求をどのように伝えているのでしょうか。2日の『ル・モンド』(電子版)の記事です。

アンネシュ・ベーリング・ブレイビク(Anders Behring Breivik)、この32歳のテロリストは7月22日にノルウェーで起きた惨劇の犯人であることを認めているが、精神鑑定は日本人精神科医に頼みたいと要求している。なぜなら、ヨーロッパ人医師よりも彼のことをよりよく理解できると考えているからだ。このように、彼の弁護士がノルウェーの新聞に語っている。

「私が担当する容疑者は、精神鑑定は日本人専門家に依頼してほしいと希望している。この要求は彼の名誉に関わるためであり、日本人ならヨーロッパ人よりも彼のことをよりよく理解できるだろうと考えているからだ」と、担当弁護士のGeir Lippestadは2日、ノルウェーの日刊紙“Dagens Naeringsliv”に語っている。

弁護士はブレイビク容疑者は錯乱状態にあると見做しているが、彼に刑事責任を問えるのかどうかを判断するために、すでに2人のノルウェー人精神科医が裁判所によって指名されている。

テロリズムとイスラム教に関するノルウェーの専門家・Thomas Heggammerは、最近のインタビューの中で、「犯行の直前にブレイビク容疑者が公表した1500ページを越える宣言において、彼は自らをイスラムと戦う十字軍兵士と見做しているが、同じ宣言書の中で日本や韓国に惹きつけられているとも書き記してる」と指摘している。

現状では、ブレイビク容疑者はテロ行為によって21年の禁固刑を科されるが、もし人道に反する犯罪行為としても告訴されると、その刑期は30年に延びる可能性がある。7月22日、彼によって77人が命を奪われた。オスロ中心部での爆薬を仕掛けられたクルマの爆発により8人、ウトヤ島で開催されていた労働党青年部のサマーキャンプで80分にわたって撃ち続けられた銃により69人が、命を落としている。ブレイビク容疑者はこれらのテロ行為を行ったことは認めているが、それは犯罪ではないと主張している。

ノルウェー警察によれば、ブレイビク容疑者は法廷では英語で意見を述べたいと要求していたが、7月25日、彼の一時拘留が認められた公判の際、このリクエストは却下された。ブレイビク容疑者は、どうして英語で陳述したいと望んだのか、その理由は説明していない。

テロ行為の実行直前に公表した1500ページを越える宣言書を、ブレイビク容疑者は完璧な英語で書いており、英語を母国語とする人にとっても感心するような英語の文章だ。彼にはアメリカで暮らしていた経験があるのではないかという疑問に対して、検事は、その点について警察は何らかの情報を得ていると答えるにとどめ、詳細には言及しなかった。

だが、その検事は、ブレイビク容疑者の片親が異なる姉妹(une des demi-soeurs)が、今住んでいるアメリカでこの件に関する取り調べの一環として事情聴取を受けたことを明らかにしている。検事はまた、ブレイビク容疑者とコンタクトを取りうる立場にいた、かなりの数のブロガーについてもノルウェー警察は調査をしたが、目下のところ疑わしい人物や起訴された人物はいないと、語っている。同じ検事によれば、捜査の最優先課題は、ブレイビク容疑者が言っているように、連続テロ事件が彼の単独犯罪であることを立証することだそうだ。

・・・ということで、ノルウェー人が、ノルウェー国内で起こした事件ですが、その背後には、英語、そして日本が思わぬ形で登場してくるようです。

イスラム教、移民、多文化主義、マルクス主義を否定するブレイビク容疑者にとっては、欧米の進んだ科学技術や制度を受け入れても、多くの外国人を移民としては受け入れず、それでいて国際社会から非難されていない日本が、自国文化を立派に守りとおしている国として素晴らしく見えているようです。

陽のあたる面を見ればこのような見方も十分にできると思いますが、“Chaque médaille a son revers.”(何事にも裏がある)・・・

日本は世界の辺境にあって、常に先進の文化・科学・システムを学び、少しでも追い付こうと努力してきた。その歴史ゆえ、自らが世界の中心になる気概を持てず、世界をリードするような独創的なものを提示できないでいる、とも言われます。今でも得意技は、カイゼン。しかも、その得意分野を担う生産現場を非正規化してしまった。自らの長所を自ら弱体化させているようなもの。削減すべき社員なら、別の部署にいるはずです。

しかも、少子高齢化の波が押し寄せ、人間を数字で見るエコノミストは1,000万人の移民労働者を受け入れるべきだと、述べています。

移民受け入れに積極的な国、ノルウェーで起きた反移民の惨劇。「共生」は難しいことではありますが、宇宙船「地球号」の同じ乗組員同士、なんとか共に暮らす術は見つけられないものでしょうか。そんなの無理だ、の一言で片づけてしまうのは簡単ですが、地球外で暮らせるようになるのは、遠い将来のこと。それまでは、否応なく、この一つの惑星の上で暮らしていくしか仕方がありません。どうせ共に暮らすのなら、いがみ合うよりは、お互い幸せに暮らしたい。そのためには、どうすべきか・・・人類の知恵の発揮どころです。